惣助とアラバマ

阿波野治

文字の大きさ
13 / 26

惣助の秘密

しおりを挟む
「アラバマ、クリームパン食べる?」

 まだ眠気がとれないのか、ジーンズを足に通したところで力尽き、ベッドの上でぼーっとしているアラバマに声をかける。クリームパンが入ったレジ袋をちゃぶ台の上に置く。

「ほら、僕が買い物に行っているあいだ、アラバマはやることないから。どうする?」
「うん、食べる」
「じゃあ、ここに置いてあるから。ほしいものがあるならいっしょに買ってくるけど、なにかある?」
「食べ物?」
「食べ物でもいいし、それ以外でもいいし」
「んーとね、からあげ食べたい」
「からあげ? クリームパンにからあげは――まあ、いいか。飲み物用意するね」

 冷蔵庫からコーヒー牛乳をとって戻ってくると、アラバマはなぜかシャツを脱ごうとしている。コーヒー牛乳の紙パックをちゃぶ台に置いたその手で、裾を掴んで阻止する。

「ちょっと。脱ぐんじゃなくて、着る。ほら、パーカー」
「うー……」
「徒歩五分もかからないから、アラバマが着替え終わるよりも帰ってくるほうが早いかもね。それじゃあ、行ってくる」

*

 ドアが閉まる音。ドアが施錠される音。遠ざかる足音は聞こえない。
 静かになったのに前後して、眠気は消えてなくなった。
 なんとなくパーカーのフードを被り、あくびをしてみる。眠気はまったくないので、中途半端なあくびになった。フードを脱ぎ、髪の毛を軽くかきむしると、惣助の髪の毛と同じ匂いがほのかに漂った。
 滑り落ちるようにベッドから下りると、目の前はちゃぶ台だ。
 クリームパンの袋を手にとり、裏返す。カロリーは三百と少し。コーヒー牛乳パックを開封し、一口飲む。はぁ、とため息。左見右見する。

「……スマホ」

 仕方なしに、ジーンズのポケットから通話専用のスマホを取り出したが、すぐにしまった。

*

 コンビニの自動ドアを潜り、レジの前を通過する。背中を向けてなにやら作業していた女性店員が、いらっしゃいませー、と挨拶をした。髪の毛をトリコロールに染めた若い女性だ。
 クリームパンはあった。からあげもあった。飲み物には紙パックのコーヒー牛乳を選ぶ。

「ポイントカードはお持ちですか」
「いえ」
「袋、ごいっしょでもよろしいですか」
「はい」
「レシートはどうされますか」
「いらないです」
「ありがとうございましたー」

*

「おーそーい」

 ベッドの縁に腰かけて弾み、スプリングをぎいぎいと鳴らす。ほどなくそれにも飽きて、ぴょんとベッドから跳び下りて直立する。はあ、とため息。
 室内を見回しているうちに、本棚に視線が留まった。歩み寄り、ざっと眺める。『鬼滅の刃』のコミックが一巻から最新巻まで、左から順に並べられている。その一巻を手にとり、ページをめくる。
 はらり、となにかが足元に落ちた。
 コミックを閉じ、落ちたものを拾い上げる。メモ帳サイズの紙きれだ。文字が書いてある。

『学生相談室 → 入りづらい雰囲気。。。
 オンライン相談 → 有料! 高い!』

 アラバマは顔を上げ、廊下と部屋を仕切るドアを見つめる。百八十度首を回して、ベランダに通じる掃き出し窓を見る。『鬼滅の刃』一巻を本棚に戻す。紙をもう一度見つめ、ジーンズのポケットに押しこむ。
 掃き出し窓を開けてベランダに出る。空気は冷たい。なにも置かれていない、狭いベランダ。空は晴れていて、どこからか布団を叩く音がする。
 少し背伸びをして景色を眺める。道のずっと先にコンビニを見つけ、じっと見つめる。
 背伸びするのをやめ、ジーンズのポケットから紙を取り出す。

『学生相談室 → 入りづらい雰囲気。。。
 オンライン相談 → 有料! 高い!』

 ていねいに四つ折りにして、元の場所にしまう。それからまた景色を眺める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

処理中です...