わたしの流れ方

阿波野治

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如月葉月とわたしの飛行

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 生理が来ない。
 妊娠したのだろうか。病院に行った方がいいのだろうか。
 悶々と考えているうちに、はたと気がついた。わたしは女ではない。
 胸を撫で下ろした。これでもう、妊娠の恐怖に苛まれることは永遠にない。嬉々として登校すると、
「おい、面を貸せ」
 如月葉月が率いるグループに女子トイレに呼び出され、殴る蹴るの暴行を受けた。
「男のくせに、女みたいな恰好しやがって、気持ち悪いんだよ!」
 如月葉月はわたしを罵倒しながらわたしを蹴る。取り巻きA~Fはきゃははと笑いながらわたしを蹴る。三百六十度、どこを向いても女子生徒が立っていて、わたしに向かって蹴りを放つ。そのたびに短いスカートの裾が翻り、光り輝く色とりどりの下着が垣間見える。その光景はまさに、そう、光彩陸離。
 ああ、使えた。やっと使うことができた。いつの日か三島由紀夫の小説の中に見つけ、脳内メモに記していた、光彩陸離という四字熟語。父さん、母さん、とうとう使う機会に恵まれました。
 ローファーの爪先がわたしの体にぶつかるたびにわたしの股間は膨らんでいく。蹴る人間が男子生徒だったならば、感じていたのは痛みだけだったに違いない。
 正直に告白しよう。わたしは同級生の女子に蹴られたいと前々から願っていた。罵倒されながらだと、なおよし。
 もっとだ! もっと強く蹴ってくれ!
 心中で叫んだ瞬間、如月葉月は蹴るのを止め、
「もう飽きた。行こう」
 アンニュイに吐き捨て、トイレを去った。取り巻きA~Fは顔を見合わせた。ボスに逆らってまでわたしを蹴る理由がないと判断したらしく、続々とその場を後にする。そしてタイルに横たわるわたしが一人トイレに取り残された。
 痛む体に鞭打って起き上がる。トイレの窓は開いていた。窓枠によじ登り、両手を真横に広げ、離陸。わたしの体は重力に従って落下するのではなく、逆に上昇していく。あっという間にビルの十三階に相当する高度に達し、わたしは水平に移動を開始する。かなりの速さだ。正確な速度は不明だが、風を切って驀進するこの疾走感、アウトバーンを爆走するドイツ車よりも確実に速い。
「わたしは神だ!」
 わたしは唐突に叫んだ。応える者はいない。
「わたしは神だ!」
 誰も返事をしない。
 言い様のない悲しみが全身に隈なく行き渡り、肉体の至るところに十円硬貨大の穴が開いた。その穴から爆弾が涙のように間断なく零れ落ち、通過する街に落下、建物を次から次へと破壊していく。
 最早「わたしは神だ!」と叫ぶ必要はなかった。わたしはただ、体内の爆弾が尽きるか、着陸したいと思う土地に到達するまで、盲目的に飛行を続ければよかった。
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