21 / 94
第一部
第四章:03
しおりを挟む・・・
殴打の連撃が兜虫改人の顔面に幾度もヒットする。動きは遅い。
先日立ち会った大改人と比べれば、止まるような遅さだ。
だが、その分装甲が厚い。打撃を繰り出すたびに後ずさってはいるものの、
余裕綽々の態度だ。
(チッ……!)
ノー・フェイスは心中で舌打ちする。まるでダメージが通っている様子がない。
敵の鈍重ながら、破壊力のある打撃を身をすくめてかわしつつ、回し蹴りで
アルカーの方へ押しやる。時を同じくしてアルカーも天道虫改人を投げ飛ばし、
ノー・フェイスに押し付ける。
選手交代。
今度の改人も同じように硬い。大振りな外突きを屈んでかわしその脇腹に
正拳を叩き込むも、こゆるぎもしない。
アルカーの方も似たり寄ったりだ。流石に二体いると"力ある言葉"の
発動タイミングも計りづらいらしい。
やはり、強い。一対一で戦えば果たして勝てるかどうか。
だがノー・フェイスの心には事前のような不安や焦燥はない。
それよりも強い怒りが心を満たしている。
(また、あの少女を狙うというのか――!)
厳密に言えばこの改人たちがホオリを狙っているかどうかはわからない。
が、彼女が居る場所を襲ったというだけで充分だ。
(襲わせてなるものか! これ以上――あの娘に、恐怖を与えるな!)
その強い思いが、ノー・フェイスの四肢から迷いを拭い去る。あの少女を、
そしてこの病院で襲われた人の無念さを思いやるたび、全身に力がみなぎっていく。
だが、現実は非情だ。改人の強さはこちらを圧倒している。
こちらの攻撃はなんの痛痒も与えず、逆にかわしきれない一撃を防ぐたびに
着実にダメージが蓄積している。
(……だからどうした。だから、どうした!)
そんなことで怯んでいられないと、思い出した。あの夜、誓ったではないか。
あの少女を、怯えさせてはならない。その誓いを守ることこそ、大事なのだと!
「クアカカカカ! なるほどなるほど、これがアルカーと裏切り者の実力か!
――たいしたことねぇやな!」
ゴズンッ!
「――アルカー!」
一瞬の隙をつかれ、アルカーの胸に兜虫改人の拳が突き刺さる。
苦悶の声をあげ、壁を壊して吹き飛んでいく。
追撃しようとする改人を牽制し、アルカーの消えた穴へ飛び込んでいく。
「……すまん、助かる」
「さがるぞ!」
幸いたいしたダメージはない。吹き飛んだだけだ。
一旦態勢を立て直すために病棟の奥へ引き下がる。
それを追って悠然と歩いてくる、改人二体。
「チッ……!」
アルカーが舌打ちする。あの大改人と戦ったときほどの絶望感はない。
だが悲しいかな、決定打に欠ける。特にノー・フェイスには
改人に通用する技がないというのが、つらい。
なら――
「アルカー……まずは一体、倒す」
「それはいいが、どうやって――」
「"力ある言葉"を使え。俺が時間を稼ぐ」
"力ある言葉"は精霊の力を十全に引き出すための鍵だという。
発動さえすればその威力は何倍にも引き上げられる。
だがその発動にわずかな――しかし改人やフェイス相手には大きな隙ができる。
「ノー・フェイス……」
「オマエの力が必要なら、オレがその隙を作る。
だから――おまえは迷わず戦え」
ぐっ、と己の腕輪をひねり力を入れなおす。
アルカーはそんなオレをしばらく見つめた後、軽くうなずいた。
廊下に飛び出る。アルカーは窓から外にでて、まわりこむ。
改人二体がオレを見つけ、ニヤリと笑った気がする。
・・・
二体一。それも一体一体がジェネラルに匹敵する強敵だ。
防戦に徹したノー・フェイスはよく持ちこたえているが、次々に
有効打をもらってうめく。
もらった時間を無駄にする気はない。
隙を見計らい――"力ある言葉"を発動させる。
「"アタール"……!」
が、突然横殴りになにかに殴られて中断させられる。
壁を突き破り、病室に吹き飛ばされる。
「アルカーッッッ!」
ノー・フェイスの叫ぶ声が聞こえる。
完全に意識外からの攻撃に思いのほかダメージがでかい。
「……悪いが、二体だけだと思うなよ」
「……ジェネラル、だと……ッ!?」
のそり、と入ってきたのはフェイス戦闘員――いや、
大幹部級フェイス、ジェネラル・フェイスだ。
「アルカー……ぐおッ!」
こちらに気をとられた一瞬、ノー・フェイスが改人たちの連携をもらい
視界から消える。ジェネラルに気づかなかったのはこちらの失態だ。
とりもなおさず、ノー・フェイスの側は二体一になってしまった。
すぐにでも加勢に行きたいが、ジェネラルがそれを許さない。
――分断されてしまった。
「ノー・フェイスッッッ!!!」
・・・
兜虫の改人が右腕を大振りに腕をまわし殴ってくるのをかがんでかわすが、
そこに天道虫改人の下蹴りが突き刺さる。転がって距離をとり立ち上がると
兜虫改人が強烈なタックルを食らわしてくる。
勢いで病室の壁を何枚もぶち抜いて飛んでいく。先日傷がふさがったばかりの
身体がまたあちこち怪我だらけだ。
(それはいいが……)
アルカーとひき離されてしまった。さきほど見えたのはジェネラルだ。
まさか、奴がフェイス戦闘員に紛れて改人の下にいたとは……。
「ノ、ノー・フェイス……」
か細い声にばっ、と振り向く。
そこには、おびえて身体を丸めたホオリが居た。
「ホオリ……!」
見つけられたのは幸運だが、タイミングが今というのは不運だ。
今すぐ、この場を離れなければならない。
「アルカーッッッ! R-2だッッッ!」
事前に決めておいた符丁で事態を伝える。
すぐさまホオリを抱え、廊下を走る。
「オイッ! 見つけたぞ! 研究成果だ」
兜虫の改人が声をあげる。おびえてビクリと身体をすくめるホオリを抱きしめる。
――研究成果?
いっしゅん疑問がよぎるが、かまっている暇はない。
壁を砕いて外に出る。
同時に、別の方向からも同じようにアルカーがでてくる。ジェネラルと戦闘中だ。
「へっ、いいぞジェネラルさんよぉ!
そのまま足止めしておいてくださいよぉ!」
「……」
のそり、と這い出てきた改人二体が横柄にジェネラルに命ずる。
あのジェネラルが、顎で使われていようとは――
アルカーの周囲にはフェイスも集まる。フェイスとジェネラル、その双方に囲まれ
こちらの援護は期待できない。
改人二体が、ゆっくりと近づいてくる。
――この二体をどうにかしなければ、ホオリを逃がせない。
「――さがっていてくれ」
「ノー・フェイス……」
「必ず、守る」
両腕を交差させ、改人たちを圧し留めるように威圧する。
絶対にここを通しはしないという意志を、身体で表現する。
「手柄だ。手柄だ。手柄だ! 大手柄の元があちこちに転がってやがる!」
「ヒヒッ! ひっぱりだしてやった、ひっぱりだしてやった!
後は、なぶりごろすだけだ!」
哄笑する改人たちを見据え、じり、と足を開く。
一体二。だが、退けない戦いだ。
必ず守ると、約束したのだから。
・・・
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる