今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?

marupon_dou

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第二部

序章:改人戦線

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・・・


「――チッ」

こうもりを模した改人が舌打ちをする。つまらない任務に飽き飽きしていた。

フェイスたちが人間をつかまえ、抑え込んでいる。先ほどまで
醜く喚いていたが、今はもう静かだ。

――夜の闇に紛れて静かにことを進めるのはきらいじゃない。
だが、こんな敵に恐れをなして縮こまるような任務はゴメンだった。

「なんでこんなちまちましたことを……
 もっとパーッと襲えばいいんだよ、パーッとよぉ」

こうもり改人――ヒ・ソは広げた翼をいまいましげに畳む。
アルカーや裏切り者にビクビクおびえるのも気に入らないし、
その任務の目的がこうして木偶人形どものってのも、
非情に気に食わない。

「……んん?」

木偶人形――フェイスどもの不審な行動に首を傾げる。
フェイスは凡人どもから感情エナジーエモーショナル・データを奪った後
抜け殻になった人間はそのまま放り出す。必要もないしいちいち殺す理由もない。
改人の多くはとりあえずで始末していくことも多いが――
まだ活きのいい人間どもをふんじばり、ボディバッグに詰めていく一団がいる。

「おい、何をしている?」
「命令コードニ従ッテイル」
「命令だとぉ……?」

まったく何の感情も見せずに答えるフェイス。これだから木偶は。
しかしフェイスたちは脳に直接ネットワークが繋がっているため確認できるが、
改人にはそれはできない。いらだたしげに端末をとりだして命令を確認する。

「……ほんとだな。"一定量の人間を捕獲せよ"?」

腑におちず顎に手を添える。これは初めての命令だ。なんらかの理由で
有用と判断した人間を浚うことはあるが、無差別に捕えることは滅多にしない。

エモーショナル・データは保管できない。それゆえ、いちいち人間を捕えて
連れ帰るなどということはしないのだ。その場でフェイスに奪わせて、
捨てていった方があとくされもないというのに。

「……なんなんだぁ? なにが目的なんだか……」

改人を増やすのかとも思って検索してみるが、改人製造ラインは増設されていない。
ますます不思議がる。次々と検索するが、それらしき情報はでてこない。いや――


「……"精霊研究実験棟"……?」


・・・


ジェネラルは燻っていた。

かつては、フェイス戦闘員と共にフェイスダウンの花形として活躍してきた。
それが、いまやどうだ? 改人などという連中になめられ、顎で使われている。

大幹部などという肩書きがむなしい。
表記上は、改人の長である三大幹部と同格だ。だがその戦闘力には雲泥の差があり、
しかも相手は三人。これでは組織中での力関係は明確に差がつく。

結果、フェイスは消耗品あつかいだ。いや、フェイスダウンのために
使い捨てになるのはかまわない。だがあの放埓な改人どもの手駒として
雑に浪費されるのは、我慢ならなかった。

「――これはこれは、ジェネラルどの。今日も出撃ですかな」
「――ヤソ・マ、か……」

慇懃無礼な態度で一礼してくる改人。髑髏のような顔には嘲りが張り付いている。

「一般の戦闘員のように現場で働くとは、精がでますな。ははは……」
「……」

現在、ジェネラルは作戦立案などには関与できていない。
三大幹部が締め出しているのだ。フェイスダウン内部でできることがないなら、
外で動くしかない。

(とにかく、エモーショナル・データの回収だ――総帥の御意志に、
 従わなければ)

命令系統は大きく変わったが、"人間からエモーショナル・データを奪い取る"
という命令が最上位の命令であることにかわりはない。アルカーとノー・フェイスの
始末を改人たちに任せている間、少しでも多くのフェイスに感情を奪わせる。
――そうすれば、今の力関係も変わるかもしれない。

「まあ、薪拾いはお任せしましたよ。その間に我々は精霊の確保に
 いそしみますゆえ……」
「……そうだな。手早く頼むぞ。なにしろ改人たちは遊び好きだからな」

ヤソ・マは軽い嫌味にも怯むことなく、ははは、と軽く笑って立ち去る。
ぎりっ、と握り締めた手に力がこもる。

(おのれ、改人ども……)

憤懣やるかたない思いを抱えながら、ジェネラルも廊下を歩いていく。


とはいえ、もし奴らがアルカーを倒し、精霊を奪還したらどうなるのであろう。
彼らはその功績によってより上位にのぼりつめるのだろうか。


嫌な想像に身震いする。
と総帥以外にかしづくなど――考えたくもない。


(とにかく――今は、我らの役目をこなすしかあるまい。
 愚直に、しかし着実に――)


・・・


「――私は、あなた方のために、尽力してきた! こんなところに連れてこられ、
 外に出ることもできず無理やり働かされてきて……"フェイスダウン"の
 役に立ってきたはずだ! そのうえで――これが、返礼だというのですか!!」

雷久保番能が、ジェネラル・フェイスと呼ばれる個体につめより、激昂する。
背後では夫人が必死の形相で制止してくるが、退くつもりはないようだ。


彼はこれまでフェイスダウンのために研究を続けてきた。
すきこのんでやっているわけではない。無理やり浚われ、強制されてきたのだ。
だが彼らの役には立ってきたはずだ。それだというのに――

「あなた方は、私たちの人生を奪って――なお、私の娘からも
 人生を奪うというのか!?」
「そうかね?」

詰め寄られながらも、まるで悪びれることなく知らぬ顔をするジェネラル。
ひげに似た意匠をなでながら、いけしゃあしゃあと語る。

「確かに、君の娘を人体実験に使うといえば、そのとおりだが。
 別にかまわんだろう? 命に別状があるというわけでも、
 後遺症があるわけでもない。少し、その身体を借りるだけだ」
「そういう問題かッ――!?」

ぺしり、と軽く番能を軽く払う。ジェネラルは軽い手つきだが人間には
バットで殴られたような衝撃で、しりもちをつく。

「あなた――!」
「ジェ、ジェネラル……後生だ、頼む……私たちは、これまであなたたちの
 言うとおりに働いてきた……だから、こればかりは、こればかりは……!」
「そう、こればかりは、だ。適合者でこそないが、おまえの娘は精霊を
 育成させるのに高い適正を持っている。他に代わりがないでなあ」

くりくりとひげをいじるジェネラル。後ろのフェイスたちが、
まだ生まれたばかりのを連れて行く。


父と母が、遠ざかっていく。なにかを喚きながら、手をのばす。
はむずがりながら横をむき――



――意識が現在にもどる。
緩く浅く覚醒した意識が、薄暗闇を見つめる。


それは、十四年前の夢。


何度も見た夢だ。覚えているはずもない赤子の時分だが、自身に宿った
精霊が記憶している夢を見ていたのだ。


彼女は、精霊が宿ってからの全てを覚えている。フェイスに連れて行かれ、
実験材料として扱われたこと。身体にいくどもメスをいれられ、
その度に精霊の力で再生したこと。精霊を育てるために、人間から
感情エナジーを抽出し無理やり受け入れさせられたこと――
そして、彼女の父母がフェイスダウンから脱走したこと。


全て、覚えている。


視界が、暗い。どこまでも広がる黒い闇だ。
――まるで自分の心のようだ。ぽっかりと空いた胸の穴。


胸の奥で、何かが蠢く。自身のドス黒い感情と共に。
わずらわしく、暴れている。


憎い。


悔しい。


ずるい。


あさましい。


いろんな感情が、自分の中を獣のように暴れ狂う。
暴れるだけ暴れた後には――何も残らない。焼け跡のように。


雷久保番能の娘は深い深い虚無の闇に沈みながら、ゆっくりと眠りについた――


・・・

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