今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?

marupon_dou

文字の大きさ
82 / 94
第三部

第五章:05

しおりを挟む


・・・


「フェイスダウン総帥……フル、フェイス……!」


ノー・フェイスは苦しみ喘ぐホデリを抱えながら、その怪人物を見上げていた。

ばたばたとローブをはためかせ、深くフードに隠されたその容貌は窺い知れない。
だが、ノー・フェイスにもその男が尋常ならざる相手だと、肌で感じ取っていた。



「……おまえが、ノー・フェイスか。
 対面するのは、初めてだったな」
「おまえが……おまえが、全ての元凶かッ……!」



ぐっ、とホデリを抱える腕に力を込めて睨みすえる。だが相手は気にした風もなく
すっ、と手を向ける。


ホデリに向けられたその手を遮るように、己の身体で彼女を隠す。
何かしかけてくるものとばかり思ったが、なぜかそのまま手をかざすだけかざして
何もしない。


いぶかしく思っていると、フルフェイスが感慨深くつぶやく。


「……生まれながらに感情を持ったフェイス、か。
 我が構想の果てに目指す、ある種の完成形が目の前にいると思えば
 感じ入るものもあるが。それがよりによって、私に敵対するとは。
 何事も、ままならぬものだな」
「なにを……言っている!」


自己完結して他を省みないその態度に苛立ちながら問い詰める。



腕の中のホデリが、苦しみ怯えている。
そのことが何よりもノー・フェイスの心を苛む。



こいつが。

こいつが、ホオリの両親を廃人と化し、彼女の感情を奪い。
ホデリの人生の全てを奪った、その元凶だというのか。



視界が真っ赤に染まるような錯覚を覚える。
――これが"怒りに血が上る"という感覚なのだと、ノー・フェイスは
生まれて初めて理解した。




「……貴様は、何故……何故、人々からそうも奪う!
 いったい、何が貴様の望みだ! 何のためにオレたちを生み出したと言うのだ!」
「――心臓部を失ったか」


こちらの激昂した問いには答えず、ノー・フェイスの胸を指差して指摘する。
その指先からさえも強い威圧感を覚え、その圧を跳ね除けるように
鉤手を向け返して対抗する。


「……雷の、精霊……それは、"命"の精霊のかたわれだ。
 心臓部を失ったフェイスは、機能を停止する。
 ――精霊が、おまえの心臓の代わりとなったか」
「――!」


一瞥されただけでこちらの状態を見抜かれ、一瞬怒りを忘れて戦慄する。
やはり、この男は……精霊に精通している。



つい先ほど、ホデリによって破壊されたノー・フェイスの心臓部。
それが消滅するとともに彼の意識も闇に消えかけていた。


それをつなぎとめたのが――雷の精霊だ。

ノー・フェイスは自分の胸に開いた空洞に、精霊が滑り込んでくるのを感じた。
そして精霊はそこで身を変え――フェイスの心臓部の役割を代替していた。
そしてノー・フェイスは蘇ると共に――自分の身体を、熱い血潮がいきわたるような
感覚を覚えていた。


実際に血が通っているわけではないが――今までのような、単なるエネルギーが
全身を動かしているだけのものとは決定的に違う。
まるで――自分が、人間になったかと、錯覚するような躍動が全身をめぐっていた。



"命"の精霊、とフルフェイスは呼んだ。なるほど、命なきノー・フェイスに
一時的ながら"生"を与えた雷の精霊。その力に相応しい呼び名だ。



……そして、ノー・フェイスはうすうすとフルフェイスの目論見を察した気がした。



「……これが、お前が精霊を狙った理由、か?
 無生物たる、……
 それが、おまえの目的か?」
「……ほう」


少しだけ、感嘆したようにフルフェイスが声を漏らした。
かまわず、続ける。


「……ずっと、疑問だった。なぜフェイスダウンは……フェイスは、人間から
 感情を奪う? そしてどこからか精霊などというものを持ち出し、
 その研究を続けてきた? ……その答えの一つが、これなのだろう」


空いた右手で自身の胸をおさえる。その奥には雷の精霊が息づき、ノー・フェイスに
暖かさを与えてくれている。


命の暖かさだ。


「……おまえの目的は……フェイスを、命あるものへと変えることなのか」
「……大分正解に近づいた、とだけ答えてやろうか」


すっ、と手を降ろしフルフェイスはフードへと手を掛けた。


「……そうだな。もう、我が計画ももあって最終局面へと
 近づいている。そろそろ、晒してもよい頃合だろう」
「なに……」


相変わらず正体のつかめない言葉ばかり述べるフルフェイスに呻くが――
ばさり、とフードを降ろしたフルフェイスにその呻きさえ飲んでしまう。


「え……?」


後ろで、ホオリが驚愕した声を漏らす。
無理もない。ノー・フェイス自身、怒りも疑問も忘れて呆けてしまった。




フードの下から現れたのは……だった。




紛れもない。その顔は――フェイスそのものだ。
いや、わずかに造詣が異なるか。無機質な印象を与えるフェイスたちと違い、
フルフェイスの姿はやや有機的な、かつ古代の装飾を思わせる。





「な……なんだと……おまえ、は……おまえは……ッ!!!」
「――そう、我が名はフルフェイス。
 "完全なる、フェイスFULL FACE"。それが、私だ」





違う。

ノー・フェイスはフルフェイスの威容を前にして、実感していた。
こいつは、フェイス戦闘員とは、決定的に違う。


見た目は確かに似ている。だが、そこから伝わる存在感が決定的に違う。


作られた存在である、アンドロイド・フェイス。だがこのフルフェイスは
明らかに――"生きている"。生命の躍動を感じさせる。
そして豊かな感情を宿している――。




「貴様は――貴様は、まさか。
 フェイスたちを――にすることが、目的だと言うのか!!」
「言っただろう。正解に大分近くなった、とだけ答えると」




ふたたびフルフェイスが手をかざす。それと同時にホデリが苦しみだす。

「うぐっ……あぁああああッ……うあああああッッッ!!!」
「ホデリ……!」


暴れるホデリを押さえ込むが、びきり、とそのプロテクターにヒビが入り
崩れていく。


「その娘に与えた"地"の精霊……それは、研究のために宿したものだ。
 実験は成功した。娘はもはや用済み……返して、もらおう」
「用済み、だと……!」


ふたたび怒りが沸きあがってくる。これほどまでに彼女を苦しめておいて――
最後に掛ける言葉が、用済みか。


ノー・フェイスは煮えくり返るような憤激の中、シンプルな答えを得ていた。


これまで、ずっと悩んできた。
なぜ自分たちフェイスは生み出された?
フェイスダウンはなにをさせるために、自分たちを生み出したのだ?




答えを前にして、悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなるほど単純な話だった。

こいつらの目的がなんであろうと、知ったことではない。
自分たちが一方的に奪い、利用してきた少女を『用済み』と切り捨てる――
そんな相手を、許しておけない。


のさばらせておくことなど、できるはずもない。


「……ノー・フェイス」


いつの間にか、ホオリが傍に近づいていた。
彼女にしては珍しく、固く厳しい顔つきをしている。


彼女も、怒っているのだ。
たった一人の姉を侮蔑された、その怒りをノー・フェイスは誇らしく思った。



「……フルフェイス。貴様の目論見がどんなものか、全貌は知る由もない。
 だが、関係ない。オレは……これ以上、貴様に誰かから奪わせたり、しない」


ぎらり、とフルフェイスの単眼が光りノー・フェイスを見つめる。
それだけで並の者なら気圧されそうな圧を感じるが、ノー・フェイスは怯むことなく
立ちはだかる。



自分の背には、少女たちがいる。守るべき人々がいる。




なら――臆してなど、いられないのだ。





「フルフェイス。このオレの生みの親よ。
 親のしでかした不始末は――子が、片をつけてやろう」


・・・

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~

如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う 稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが… だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた… そんな時に生まれたシャルロッテ 全属性の加護を持つ少女 いったいこれからどうなるのか…

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したことに気づいたアイナ・ネルケ。 だが彼女はヒロインではない――ただの“モブ令嬢”。 「私は観る側。恋はヒロインのもの」 そう決めて、治癒魔術科で必死に学び、気合いと根性で仲間を癒し続けていた。 筋肉とビンタと回復の日々。 それなのに―― 「大丈夫だ。俺が必ず君を守る」 野外訓練で命を救った騎士、エルンスト・トゥルぺ。 彼の瞳と声が、治癒と共に魂に触れた瞬間から、世界が静かに変わり始める。 幼馴染ヴィルの揺れる視線。 家族の温かな歓迎。 辺境伯領と学園という“日常の戦場”。 「……好き」 「これは恋だ。もう、モブではいたくない」 守られるだけの存在ではなく、選ばれる覚悟を決めたモブ令嬢と、 現実しか知らない騎士の、静かで激しい溺愛の始まり。 これは―― モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまでの物語。 ※溺愛表現は後半からです。のんびり更新します。 ※作者の好みにより筋肉と気合い…ヤンデレ落ち掛けが踊りながらやって来ます。 ※これは恋愛ファンタジーです。ヒロインと違ってモブは本当に大変なんです。みんなアイナを応援してあげて下さい!!

処理中です...