今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?

marupon_dou

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第三部

第五章:05

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・・・


「フェイスダウン総帥……フル、フェイス……!」


ノー・フェイスは苦しみ喘ぐホデリを抱えながら、その怪人物を見上げていた。

ばたばたとローブをはためかせ、深くフードに隠されたその容貌は窺い知れない。
だが、ノー・フェイスにもその男が尋常ならざる相手だと、肌で感じ取っていた。



「……おまえが、ノー・フェイスか。
 対面するのは、初めてだったな」
「おまえが……おまえが、全ての元凶かッ……!」



ぐっ、とホデリを抱える腕に力を込めて睨みすえる。だが相手は気にした風もなく
すっ、と手を向ける。


ホデリに向けられたその手を遮るように、己の身体で彼女を隠す。
何かしかけてくるものとばかり思ったが、なぜかそのまま手をかざすだけかざして
何もしない。


いぶかしく思っていると、フルフェイスが感慨深くつぶやく。


「……生まれながらに感情を持ったフェイス、か。
 我が構想の果てに目指す、ある種の完成形が目の前にいると思えば
 感じ入るものもあるが。それがよりによって、私に敵対するとは。
 何事も、ままならぬものだな」
「なにを……言っている!」


自己完結して他を省みないその態度に苛立ちながら問い詰める。



腕の中のホデリが、苦しみ怯えている。
そのことが何よりもノー・フェイスの心を苛む。



こいつが。

こいつが、ホオリの両親を廃人と化し、彼女の感情を奪い。
ホデリの人生の全てを奪った、その元凶だというのか。



視界が真っ赤に染まるような錯覚を覚える。
――これが"怒りに血が上る"という感覚なのだと、ノー・フェイスは
生まれて初めて理解した。




「……貴様は、何故……何故、人々からそうも奪う!
 いったい、何が貴様の望みだ! 何のためにオレたちを生み出したと言うのだ!」
「――心臓部を失ったか」


こちらの激昂した問いには答えず、ノー・フェイスの胸を指差して指摘する。
その指先からさえも強い威圧感を覚え、その圧を跳ね除けるように
鉤手を向け返して対抗する。


「……雷の、精霊……それは、"命"の精霊のかたわれだ。
 心臓部を失ったフェイスは、機能を停止する。
 ――精霊が、おまえの心臓の代わりとなったか」
「――!」


一瞥されただけでこちらの状態を見抜かれ、一瞬怒りを忘れて戦慄する。
やはり、この男は……精霊に精通している。



つい先ほど、ホデリによって破壊されたノー・フェイスの心臓部。
それが消滅するとともに彼の意識も闇に消えかけていた。


それをつなぎとめたのが――雷の精霊だ。

ノー・フェイスは自分の胸に開いた空洞に、精霊が滑り込んでくるのを感じた。
そして精霊はそこで身を変え――フェイスの心臓部の役割を代替していた。
そしてノー・フェイスは蘇ると共に――自分の身体を、熱い血潮がいきわたるような
感覚を覚えていた。


実際に血が通っているわけではないが――今までのような、単なるエネルギーが
全身を動かしているだけのものとは決定的に違う。
まるで――自分が、人間になったかと、錯覚するような躍動が全身をめぐっていた。



"命"の精霊、とフルフェイスは呼んだ。なるほど、命なきノー・フェイスに
一時的ながら"生"を与えた雷の精霊。その力に相応しい呼び名だ。



……そして、ノー・フェイスはうすうすとフルフェイスの目論見を察した気がした。



「……これが、お前が精霊を狙った理由、か?
 無生物たる、……
 それが、おまえの目的か?」
「……ほう」


少しだけ、感嘆したようにフルフェイスが声を漏らした。
かまわず、続ける。


「……ずっと、疑問だった。なぜフェイスダウンは……フェイスは、人間から
 感情を奪う? そしてどこからか精霊などというものを持ち出し、
 その研究を続けてきた? ……その答えの一つが、これなのだろう」


空いた右手で自身の胸をおさえる。その奥には雷の精霊が息づき、ノー・フェイスに
暖かさを与えてくれている。


命の暖かさだ。


「……おまえの目的は……フェイスを、命あるものへと変えることなのか」
「……大分正解に近づいた、とだけ答えてやろうか」


すっ、と手を降ろしフルフェイスはフードへと手を掛けた。


「……そうだな。もう、我が計画ももあって最終局面へと
 近づいている。そろそろ、晒してもよい頃合だろう」
「なに……」


相変わらず正体のつかめない言葉ばかり述べるフルフェイスに呻くが――
ばさり、とフードを降ろしたフルフェイスにその呻きさえ飲んでしまう。


「え……?」


後ろで、ホオリが驚愕した声を漏らす。
無理もない。ノー・フェイス自身、怒りも疑問も忘れて呆けてしまった。




フードの下から現れたのは……だった。




紛れもない。その顔は――フェイスそのものだ。
いや、わずかに造詣が異なるか。無機質な印象を与えるフェイスたちと違い、
フルフェイスの姿はやや有機的な、かつ古代の装飾を思わせる。





「な……なんだと……おまえ、は……おまえは……ッ!!!」
「――そう、我が名はフルフェイス。
 "完全なる、フェイスFULL FACE"。それが、私だ」





違う。

ノー・フェイスはフルフェイスの威容を前にして、実感していた。
こいつは、フェイス戦闘員とは、決定的に違う。


見た目は確かに似ている。だが、そこから伝わる存在感が決定的に違う。


作られた存在である、アンドロイド・フェイス。だがこのフルフェイスは
明らかに――"生きている"。生命の躍動を感じさせる。
そして豊かな感情を宿している――。




「貴様は――貴様は、まさか。
 フェイスたちを――にすることが、目的だと言うのか!!」
「言っただろう。正解に大分近くなった、とだけ答えると」




ふたたびフルフェイスが手をかざす。それと同時にホデリが苦しみだす。

「うぐっ……あぁああああッ……うあああああッッッ!!!」
「ホデリ……!」


暴れるホデリを押さえ込むが、びきり、とそのプロテクターにヒビが入り
崩れていく。


「その娘に与えた"地"の精霊……それは、研究のために宿したものだ。
 実験は成功した。娘はもはや用済み……返して、もらおう」
「用済み、だと……!」


ふたたび怒りが沸きあがってくる。これほどまでに彼女を苦しめておいて――
最後に掛ける言葉が、用済みか。


ノー・フェイスは煮えくり返るような憤激の中、シンプルな答えを得ていた。


これまで、ずっと悩んできた。
なぜ自分たちフェイスは生み出された?
フェイスダウンはなにをさせるために、自分たちを生み出したのだ?




答えを前にして、悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなるほど単純な話だった。

こいつらの目的がなんであろうと、知ったことではない。
自分たちが一方的に奪い、利用してきた少女を『用済み』と切り捨てる――
そんな相手を、許しておけない。


のさばらせておくことなど、できるはずもない。


「……ノー・フェイス」


いつの間にか、ホオリが傍に近づいていた。
彼女にしては珍しく、固く厳しい顔つきをしている。


彼女も、怒っているのだ。
たった一人の姉を侮蔑された、その怒りをノー・フェイスは誇らしく思った。



「……フルフェイス。貴様の目論見がどんなものか、全貌は知る由もない。
 だが、関係ない。オレは……これ以上、貴様に誰かから奪わせたり、しない」


ぎらり、とフルフェイスの単眼が光りノー・フェイスを見つめる。
それだけで並の者なら気圧されそうな圧を感じるが、ノー・フェイスは怯むことなく
立ちはだかる。



自分の背には、少女たちがいる。守るべき人々がいる。




なら――臆してなど、いられないのだ。





「フルフェイス。このオレの生みの親よ。
 親のしでかした不始末は――子が、片をつけてやろう」


・・・

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