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本編
第039話 魔物と少女①
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「くっ……!? なんて速さなの!」
ツグナの感知スキルが魔物の存在を捉えた頃。登校途中に魔物の気配を掴んだと連絡を受けた御水瀬千陽は、奥歯を噛み苦い表情を浮かべながら先行する魔物を追っていた。
彼女は白桜学院の特進I類クラスに所属する生徒で、リーナの隣のクラスにいる。丸い目に細くしなやかな黒く長い両脇の髪を結えたその顔は、年相応の可愛らしさが滲み出ている。その可愛らしさと態度から感じられる優しさから、彼女は同年代だけではなく、幅広い年齢層から声をかけられることが多い。
事実、彼女が今日登校していた際も、杖をついたお婆さんから道を聞かれたばかりである。
御水瀬家はこの地域にある由緒ある家の一つで、彼女の父は家の裏にある「御水瀬神社」の神主を務めている。千陽は父の仕事柄、事あるごとに巫女服姿で神社の手伝いをしている。祭りの際は屋台を出すために場所を貸したり、年始には破魔矢に御守りなどを販売したりと多様な年齢層の人と接する機会が多い。そうした環境と事情ゆえに、自分は見知らぬ人から声をかけられることが多いのかも……と自己分析をしている。
そんな背景を持つ彼女のもう一つの顔が陰陽師としての顔であった。御水瀬家は古くから続く陰陽師の家系で、特に人に危害を与える化生――魔物と戦う「対魔師」を多く輩出してきた一族であった。千陽も例に漏れず幼少期から訓練を受けて来た。
対魔師は彼女の「御水瀬家」の他にも、「火之輪家」・「鏑木家」・「土御門家」・「金城寺家」の計五家がある。
この五家にはそれぞれに名前に由来する得意属性が存在し、御水瀬家の持つ得意属性は「水」。攻防を兼ね備えた万能型の属性として認知されており、その属性を得意とする御水瀬家はこれまでに多くの依頼を受けてきた歴史を持つ。千陽は呪符を使用した戦闘に特化しており、そのバリエーションも多いことから、早くから御水瀬家のエースと目されていた。
そんな彼女が登校途中に魔物の連絡を受けてから早1時間余り。魔物の姿を捉えた千陽は、女豹が獲物を追い立てるが如く、標的を街から離し、この草木が生い茂る場所まで誘導する。
現在、両者の間はおよそ500メートルほどの距離があり、千陽は鬱蒼と木々が生い茂る雑木林の中を駆けている。走りっぱなしの状態が続いているため、既に息は上がり、浮かんだ汗が撫でる風に乗って散っていく。
「ゴガアアアァァッ!」
千陽が追う魔物は少し開けた場所に出ると、腹の底を揺らす吠え声と共に彼女と対面する。
(……ようやくその気になった、ということかしらね)
追いついた千陽は深く息を吐いてその魔物と対峙する。青銅色の肌に膨れ上がった筋肉と上下に伸びる牙。頭からは弧を描くように伸びる角が生え、爬虫類の眼に似た黄色の瞳が彼女を捉えている。
武器の類は所持していないものの、その血管が浮き上がった筋肉は、易々と自分の頭を握り潰せるだろうと千陽は想像する。
「――先手必勝っ!」
自らを奮い立たせるように一喝した千陽は、後ろ腰に取り付けているホルスターから呪符を引き抜いて叫ぶ。
「出でよ、蛟っ!」
彼女の求めに応じ、目前に掲げた呪符から水の蛇が飛び出す。この水蛇は彼女が最も使用頻度の高い術式で、噛み付く攻撃・トグロを巻いての防御・相手を縛り上げる拘束と様々な場面に対応できる。
「フルウゥゥ……シャアアアアァァァッ!」
飛び出した水の蛇は、一直線に魔物に向かうと、その長い身体を首と四肢に巻き付かせた。
「ゴガッ! ウルアアアァッ!」
ギチギチと締められる力に、魔物の口から苦悶に満ちた声が漏れる。
「よしっ! なんとか動きを封じることができたわね。これなら――」
動きを封じたことで千陽に生じた一瞬の隙。次の攻撃を繰り出そうとするそのわずかな間隙を、締め上げられた魔物は遠のく意識下で突いた。
「ウゴガアアアァァッ!」
絞り出すような咆哮と同時に、魔物の腕や脚の筋肉が膨れ上がる。身体を縛り付ける水の蛇がそれを抑え込もうと更に力を込めるものの、魔物の抵抗は激しく、ついにはその呪縛を引き千切られてしまう。それと同時に千陽の手にしていた呪符もひとりでに千切れて大地に帰っていく。
「――くっ!? 何ていう馬鹿力なの! だったら……今度は数で押し切る! 行けっ! 水虎狼の陣!」
千陽は別の呪符を取り出し、今の自分が持つ最大の技を繰り出す。
彼女の呼び声に応じ、左に水の虎が、右に水の狼が顕現し、地を蹴って魔物へ襲いかかった。
ツグナの感知スキルが魔物の存在を捉えた頃。登校途中に魔物の気配を掴んだと連絡を受けた御水瀬千陽は、奥歯を噛み苦い表情を浮かべながら先行する魔物を追っていた。
彼女は白桜学院の特進I類クラスに所属する生徒で、リーナの隣のクラスにいる。丸い目に細くしなやかな黒く長い両脇の髪を結えたその顔は、年相応の可愛らしさが滲み出ている。その可愛らしさと態度から感じられる優しさから、彼女は同年代だけではなく、幅広い年齢層から声をかけられることが多い。
事実、彼女が今日登校していた際も、杖をついたお婆さんから道を聞かれたばかりである。
御水瀬家はこの地域にある由緒ある家の一つで、彼女の父は家の裏にある「御水瀬神社」の神主を務めている。千陽は父の仕事柄、事あるごとに巫女服姿で神社の手伝いをしている。祭りの際は屋台を出すために場所を貸したり、年始には破魔矢に御守りなどを販売したりと多様な年齢層の人と接する機会が多い。そうした環境と事情ゆえに、自分は見知らぬ人から声をかけられることが多いのかも……と自己分析をしている。
そんな背景を持つ彼女のもう一つの顔が陰陽師としての顔であった。御水瀬家は古くから続く陰陽師の家系で、特に人に危害を与える化生――魔物と戦う「対魔師」を多く輩出してきた一族であった。千陽も例に漏れず幼少期から訓練を受けて来た。
対魔師は彼女の「御水瀬家」の他にも、「火之輪家」・「鏑木家」・「土御門家」・「金城寺家」の計五家がある。
この五家にはそれぞれに名前に由来する得意属性が存在し、御水瀬家の持つ得意属性は「水」。攻防を兼ね備えた万能型の属性として認知されており、その属性を得意とする御水瀬家はこれまでに多くの依頼を受けてきた歴史を持つ。千陽は呪符を使用した戦闘に特化しており、そのバリエーションも多いことから、早くから御水瀬家のエースと目されていた。
そんな彼女が登校途中に魔物の連絡を受けてから早1時間余り。魔物の姿を捉えた千陽は、女豹が獲物を追い立てるが如く、標的を街から離し、この草木が生い茂る場所まで誘導する。
現在、両者の間はおよそ500メートルほどの距離があり、千陽は鬱蒼と木々が生い茂る雑木林の中を駆けている。走りっぱなしの状態が続いているため、既に息は上がり、浮かんだ汗が撫でる風に乗って散っていく。
「ゴガアアアァァッ!」
千陽が追う魔物は少し開けた場所に出ると、腹の底を揺らす吠え声と共に彼女と対面する。
(……ようやくその気になった、ということかしらね)
追いついた千陽は深く息を吐いてその魔物と対峙する。青銅色の肌に膨れ上がった筋肉と上下に伸びる牙。頭からは弧を描くように伸びる角が生え、爬虫類の眼に似た黄色の瞳が彼女を捉えている。
武器の類は所持していないものの、その血管が浮き上がった筋肉は、易々と自分の頭を握り潰せるだろうと千陽は想像する。
「――先手必勝っ!」
自らを奮い立たせるように一喝した千陽は、後ろ腰に取り付けているホルスターから呪符を引き抜いて叫ぶ。
「出でよ、蛟っ!」
彼女の求めに応じ、目前に掲げた呪符から水の蛇が飛び出す。この水蛇は彼女が最も使用頻度の高い術式で、噛み付く攻撃・トグロを巻いての防御・相手を縛り上げる拘束と様々な場面に対応できる。
「フルウゥゥ……シャアアアアァァァッ!」
飛び出した水の蛇は、一直線に魔物に向かうと、その長い身体を首と四肢に巻き付かせた。
「ゴガッ! ウルアアアァッ!」
ギチギチと締められる力に、魔物の口から苦悶に満ちた声が漏れる。
「よしっ! なんとか動きを封じることができたわね。これなら――」
動きを封じたことで千陽に生じた一瞬の隙。次の攻撃を繰り出そうとするそのわずかな間隙を、締め上げられた魔物は遠のく意識下で突いた。
「ウゴガアアアァァッ!」
絞り出すような咆哮と同時に、魔物の腕や脚の筋肉が膨れ上がる。身体を縛り付ける水の蛇がそれを抑え込もうと更に力を込めるものの、魔物の抵抗は激しく、ついにはその呪縛を引き千切られてしまう。それと同時に千陽の手にしていた呪符もひとりでに千切れて大地に帰っていく。
「――くっ!? 何ていう馬鹿力なの! だったら……今度は数で押し切る! 行けっ! 水虎狼の陣!」
千陽は別の呪符を取り出し、今の自分が持つ最大の技を繰り出す。
彼女の呼び声に応じ、左に水の虎が、右に水の狼が顕現し、地を蹴って魔物へ襲いかかった。
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