黒の創造召喚師 ―Closs over the world―

幾威空

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本編

第061話 魔煌石を巡る攻防(東の陣)①

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 御水瀬神社からおよそ東へ500メートル離れた場所。境内から目と鼻の距離とも言えるその場所には、夜風に葉を揺らす竹林が広がっている。新月により普段以上に暗闇が濃いなか、ピンと真っ直ぐに伸ばした狐耳をピコピコと動かしながらソアラは物音を立てないよう自身のスキルである「無音歩行」を発動させながら進んでいた。

 息を殺し、気配を消しつつ物音を立てずに歩いていた彼女は、やがて少し開けた場所で戦闘を繰り広げる二人の女性を見つける。

(っ――!? あれは……)

 ソアラは物陰に身を隠し、「まずは状況を見極めよう」と視線の先にいる女性たちをじっと見つめた。

「へぇ……こりゃ驚いた。そんな小さな紙切れでこの私に挑もうとするヤツがいるなんてねぇ……」

 ニヤリと微笑を湛えながら呟いたのは、純白の軍服に身を包んだ若い女性であった。彼女の名は「デルタ」といい、ゼクスの擁する部隊「ラウンドガード」の一人である。

 金髪のベリーショートに青い目の彼女は、フッと軽く息を吐いて立ち上げると、徐に漆黒の手袋を装着した両拳を突き合わせる。拳同士が合わさった瞬間、「ガチン」と甲高い金属音が辺りに響き渡った。これは彼女の持つ「特性」に合わせて作られた、彼女専用のナックルガードがぶつかり合うことで発生する音だ。

「くっ……!? 言わせておけば――行けぇっ! 瑞狼ずいろうっ!」
「アオオオオオオォォォォンッ!」

 彼女と対するは、黒縁眼鏡の女性であった。パンツスタイルの漆黒のスーツに、同色の長い髪を腰まで伸ばしたその女性の名は「春日棗」という。御水瀬家に仕える「御庭番」の一人である彼女の攻撃手段は、予め術式を刻んだ札を用いた召喚術だ。

 その名も――水式神みずしきがみ

 無色透明の水のみで構成された生き物を召喚し、配下として使役するこの術こそが春日家の最も得意とする術法である。

 この春日家に限らず、御水瀬の家系に連なる者たちは皆その「水」の性質や特性を用いた術式を得意としている。

 春日家ならば水の持つ「自在に形を変える」性質を用いた水式神による召喚術だ。

 召喚された式神の用途は広く、戦闘面における攻撃・防御だけにとどまらない。時には、水路に紛れて敵組織の内部情勢を把握したり、鳥型の式神を用いて上空から偵察したりするなど情報収集といった場面でも応用が利くのもこの術式の特徴の一つでもある。彼女の呼び声に応じ、札に記された術式を介して一頭の水の狼が姿を現れる。その体格は通常目にする狼よりも数倍大きく、大人の熊に匹敵するほどだ。

 現れた水の狼――瑞狼は主たる棗の指示に従い、一瞬だけ屈んで脚に力を溜めると、次には飛ぶように地を駆ける。棗とデルタの間にはそれなりの距離が開いていたのだが、瑞狼はその差を一足で埋めた。

「グルゥアアアアッ!」
 デルタに襲いかかった瑞狼は、そのままの勢いで口をガパリと大きく開けた。一本一本が成人男性の腕の太さほどにも達するその牙は、一度噛まれれば重傷は避けられない。
 しかし、噛み千切ろうと口を開く瑞狼の真正面に立つデルタの顔には、戦慄や恐怖ではなく、相手との戦いを心底楽しむ喜びに満ちた笑みが浮かんでいた。

「ハハッ! いいねぇいいねぇ! 何とも気持ちいい殺気を放ってくれるじゃないか。こんなにギラついた戦意を向けられてるんだ。ちったぁ本気を出すってのが礼儀ってもんだね! さぁ……もっともっと楽しもうじゃないか。この血湧き肉躍るこの戦いをさぁ!」
 デルタが裂帛の気合を込めて叫んだ瞬間、彼女の右腕が膨れ上がり、弾けるようにその袖が裂ける。

「うっ……らあああああああああっ!」

 そして自分を攻撃してきた水の狼に対し、カウンター気味にその右拳を豪快に叩きつけた。
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