黒の創造召喚師 ―Closs over the world―

幾威空

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本編

第065話 魔煌石を巡る攻防(東の陣)⑤

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「な、なんなの……あの子……」

 少し離れていた場所から様子をじっと注視していた棗は、その両者が織り成すハイレベルな戦闘に何時の間にか釘付けとなっていた。いや、もっと言えば自分よりも年下と思われる少女が、自分が太刀打ちできなかった相手を前に一歩も退かずに渡り合っていることにわずかながらの嫉妬心が芽生えていたほどだ。

「うおりゃあああああっ!」

 捉えられないことに苛立ちを見せたデルタは、一発一発のパワーよりも手数により重点を置いた攻撃を繰り出す。
 しかし――

「なぁるほど……その圧倒的なパワーはさすが『キュクロプス』といったところかな。けど……そもそも当たらなきゃただの扇風機でしかない」

 ポツリと言葉を紡いだソアラは、繰り出されたデルタの攻撃線を外し、流れるように彼女の側面に入身する。そして、その絶妙な体捌きでもって側面に入身した後、首と手刀を制しながら転換する。併せて後足を大きく進めると同時に、振り上げた手刀を内旋させながら振り落として投げた。
 これも合気道の技の一つ――入身投げである。

「うぐっ!? クソッ! こんなふざけた格好したヤツに……!」

 一方、投げられたデルタは地面に背中を強かに打ち付けられ、体力が削られていく。年端もいかぬ少女にいいようにあしらわれる事態に、デルタは怒りよりも焦燥が募っていった。

◆◇◆

(――うん、これはイケる!)
 襲い来るデルタの攻撃を躱し、時にいなし、あるいは投げへと転化するソアラは、自身が繰り出した合気道の技に手応えを感じていた。

 もともとソアラは魔鋼糸を用いたトリッキーな戦術で相手を翻弄する戦闘スタイルが主軸にある。そのため、デルタのように圧倒的なパワーを前面に押し出して戦う相手とはどうしても相性が悪いと言わざるを得ない。このことは、ソアラ自身あのカリギュア大迷宮の最下層でひっそりと暮らす古代竜――アングレイトとの訓練でも痛感していたものであった。

 かの竜は全身を装甲の如き鱗に覆われ、魔法戦闘にも長けている。また、その巨大な尻尾を利用した攻撃は、鋼鉄の大楯をまるで飴細工のように容易くひしゃげさせるほどの威力がある。
 そんな相手に怯まず、何度も挑んできたソアラだったが、どうにも納得のいく答えが見いだせずにいた。

 ――自分の弱点をどう克服するか。

 より高みを目指す彼女は、幾度となくアングレイトに敗れようとも抗うことを諦めなかった。折れそうになる心を都度奮い起こし、目の前のことに全力で取り組むソアラに見えた一筋の光。

 それが学院の部活見学で見つけた合気道であった。
 合気道の基本は、常に相手よりも優位な状況を作るところにある。相手の攻撃を受けず、その攻撃をさばくことがポイントとなる。

 そのため、相手のその流れを利用して相手の体勢を崩し、投げ、もしくは体を制して相手の自由を奪い、自分に優位な状況を作り出す。

 相手のその流れを利用して相手の体勢を崩す――見学の際、説明役を務めていた女子生徒(後にこの人物が部長だと知ることになる)からの言葉を耳にした時、ソアラの中で何かが「カチリ」と音を立てて嵌った。

 それからソアラは稽古を重ね、天性の才覚もあってかメキメキと力をつけていく。
 しかしながら、所詮は修練を始めて1カ月も経過していない力である。そうした背景を鑑みれば、まだまだ「付け焼刃」の域を出ていないのが実情であった。

「うっらああああっ!」
「うぐっ!?」

 そのため、技が上手く決められずにデルタの反撃を許してしまう局面も発生してしまう。デルタの強く握り締めた拳が身体に当たる度、咄嗟にガードするソアラの表情が苦痛に歪む。いくらレベルが100を超え、ステータスの数値が常人よりも高くなったとしても、やはり攻撃を受ければズキリと痛みが走るのは道理だ。

 以前に九条から一方的に攻撃を受けた際は、まだ魔闘技を発動させて痛みを軽減させることができたものの、今回はそれをしても劇的な効果は見込めていない。ましてや相手は魔煌石を体内に取り込んだデルタである。
 すでに人間としての域を超え、その超人的な力を振るう彼女を前に、下手な小細工で攻撃を凌ぎ切るレベルにはまだ至っていないのだ。

「――チィッ! 本当にしぶてぇヤツだなぁ……だがっ! それでこそ倒しがいがあるってもんだぜ!」
 投げ飛ばされ、頬に付いた泥を手の甲で拭いながらデルタが嬉々とした表情で呟く。もはや彼女の眼中には棗の姿はなく、アルファから下された任務も頭の片隅に追いやられている。

「しぶといってのはこっちのセリフよ。ったく……いい加減倒れてくれないかしら、ねッ!」
 デルタからわずかに距離をとったソアラは、握り締めた拳を突き立てるように地面に叩き付ける。

「走れ――蛇鋼槍だこうそうっ!」
 瞬間、編上げられた鋼の槍が地中から突き上げるようにしてデルタに襲い掛かる。

「うっ……ぐうっ!」
 異変に気付いた彼女は、急制動をかけて身を捩るようにしてその攻撃をギリギリで回避する。その回避はもはや勘や本能に近いものであったが、それに従ったおかげで直撃を免れることに成功する。
 しかし――デルタは身を捩って攻撃を回避する中でソアラの顔に浮かぶ笑みを捉えた。コマ送りのようにゆっくりと流れる時の中、その目に映ったソアラの笑みに、デルタの本能が最大の警戒を発する。
 この時、もしソアラが呟いていたのなら、こう漏らしていただろう。

 ――かかった、と。

 デルタが身を捩って蛇鋼槍を回避した瞬間、それに合わせるように魔鋼糸で編上げられた銀色の蛇が解けていく。
 そして――ソアラの口から技の名が紡がれる。

「縛れ――天鋼鎖縛てんこうさばく
 彼女の言葉に応じ、解けた糸が身を捩ったことで体勢の崩れたデルタに襲いかかった。
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