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もうひとつの指輪のあと

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 運動会を境に、母は心なしか、痩せていきました。

 物思いにふけるようになり、父はそんな母を心配そうに見つめていました。

 リビングで、夕飯の後に母がテーブルを布巾で拭いている時です。

ふと、いつもは見逃していた、母の左手の薬指にある

結婚指輪の上の、もうひとつの指輪のあとらしきもののことを、

私が母に聞いた時でした。

 何と言ったらいいのでしょうか。

リビングの空気がピーンと張り詰め、

母より父の背中に異様な緊張感が走り、

私を振り返った時の、父の表情は何とも言えないものでした。

ただただ怖くて…私はその後には何も言えず、

母が、
 「若い頃、安い指輪をオシャレではめていたのだけれど、金属アレルギーでかぶれてしまって…」

と言ってくれなければ、私は父の氷のような瞳で、

化石になっていたかもしれません。

 それほど稀な、父の怖い顔でした。


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