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冬枯れの岸辺
しおりを挟むあんまり暇なんで、買出しも兼ねて出掛けた帰り道。
辺りはすっかり冬で、空気がピンと冷たく硬い。その中を忙しなく車が行き交っていた。
いったいどこから、これほどの数の車が湧いてくるのか不思議だが、まぁ自分たちもその内の一台で。
窓の外を通り過ぎてゆく冬枯れの木立の中に、時折在る彩りは山茶花の花だろうか。
「椿はもっと大きくなるでしょ。木」
「あ~。そうかな」
「うん。多分」
「しっかし、いつの間にか寒くなっちゃったねぇ」
「まぁ冬だし」
「よく毎年、律儀にやってくるよね。冬も」
「夏もね」
「そうそう」
辺りは明るいが、まばらに浮いた雲が太陽を隠している。
「なんでわざわざ太陽の前に浮くのかねぇ」
空はこんなに広いのに。
「陽が射せば、もう少しは温かいのにさ」
「いや。今、日が出たら、眩しいから」
この坂、下りてからにしてくれ。と本日の運転手が呟いた。
「あ。雲が動くよ」
「てゆーか、バラけてる感じ?」
地上と違い、上空には結構強い風が吹いているらしい。雲が割れて、太陽の光が幾筋も漏れてきた。
「うわー。ヤコブの梯子がいっぱい」
「ホントだ」
天使の大軍が降りてきそうだ。
「やっぱ、クリスマスが近いから?」
「かもねぇ」
「何を今更」
ハ!と運転席から、せせら笑う声がした。
今に雪が降るぞ。と運転手は言う。
「雪?たしかに寒いね」
すごく天気の良い日にな。突然雪が降ったんだ。
「にわか雪?」
突然大きな黒い雲が流れて来て、空を覆う。
その端から、青空を背景にキラキラと輝きながら天使たちが降りて来るんだ。
あれはまるで、大型輸送機から飛び降りるパラシュート部隊のようだったぜ。
「何、絨毯爆撃?」
「そうかもな」
しかしそれがクリスマスなら、人はそれをホワイト・クリスマスと言うだろう。
「効果有るのかなぁ」
「まぁ人間は、自分の聞きたい言葉しか、聴かないからね」
それが神の言葉でも。
悪魔の言葉でも。
「人間は、何処へ行くんだろう?」
「行きたい所に」
「まぁ、そうだな」
行き先ぐらい、決めさせてほしい。
「あったかい処がいいなぁ」
「そうだね。早く帰ろう」
「へいへい~。と」
寒くなれば、暖かい所が恋しい。だからこの時期、雪が降るのかもしれない。
産めよ。増やせよ。地に満てよ。と神は言ったと言う。
窓の外を過ぎる、冬枯れの木立が並ぶ岸辺には、誰も居なかった。
-end-
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