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第4話 知らなかった過去
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「もう、いいの?」
優し気な顔をした母さんが、俺にそう言ってくる。
「あぁ。それより済まない、年甲斐もなく。肉体はともかく中身は30近くだってのにな。気味が悪いだろう?」
「いいえ。そんなことないわ。だって、少し先の未来から帰ってきたって貴方が私の可愛い息子であることに変わりはないもの。それに、騙され続ける方がずっと嫌だもの。貴方は覚悟を決めて正直に話してくれた。だから、もういいのよ」
「母さん……。だが、俺は」
母さんもノエルも、俺を怒る気はないようだが……それでいいのか? 存在が同じであるとは言え、俺がこの時代の俺を殺したことに変わりはないというのに。
「正直助かったと言えば助かったのよヴァレリー。話を聞く感じ、貴方は知らないようだけど」
「えっ?」
「貴方は一度死にかけたのよ。つい最近ね」
何を、言ってるんだ? 母さんは。
確かに子供の頃の記憶は朧気ではあるが……そんな覚えは無いし母さんも言っていなかった。
まさか、俺が過去へ帰ってきたせいでなにか変わってしまったのか?
「貴方今、自分が過去に来たせいで何か変わったのか……とか考えているでしょう。生憎だけど違うわよ」
「じゃあ、どうして」
「同じ私の考えだからね、よく分かるわ。実際処置が終わったら私もそうする気だったし」
「だから、何なんだよ? 勿体ぶらずに教えてくれよ」
「……ノエル」
「はい。フローラ様」
言いようのない恐怖が背筋を這い登る。
そして、ノエルが何処からか持ってきた血のように赤い宝玉を見た瞬間……何かを幻視した。映像は砂嵐でも吹いてるかのように乱れている。
だが、その場面は……くっきりと見えた。
「そうだ……。俺は、幼い頃遊びに行った森で、悪魔に襲われたんだ」
「……どうやら記憶の封印が解けて来ているようね。そう、そしてそのまま死にかけたの。外傷も酷かったから、私は治癒術師を呼んで治療させたわ。でも貴方は一向に目を覚まさなかった。何故なのかを調べると、原因は外ではなく中にあったの。魂そのものが傷付けられていたのよ。だから目を覚まさなかった。貴方は同じ存在だから拒否反応が無かったと言ったわよね? それは違うわ。受け入れる側の魂が傷ついていたから、そもそも拒否するだけの力すらなかったのよ」
驚きだった。
そうだったのか、魂を専門に研究している訳ではないから正直何故拒否反応が無いのかは推測でしか無かったが……そんな理由があったのか。
「いや、ちょっと待ってくれ。ならば何故俺は助かったんだ?」
「その石は、竜の血石。彼らの血には魂の力を強める効果があると古文書に書いてあった。だから私は、あの子が助かるかもしれないならと何でもやった。これはその内の一つよ……。竜を何体も倒して、半年かけて作った竜10体分の血が凝縮された霊薬。無駄になっちゃったけど、まぁ……これはいずれ必要な時が来るまで大切に保管しておくとするわ」
「そう、だったのか。本来なら俺はそれを飲み、生きる筈だった。そこに俺が来たという訳か」
「えぇ、だから私は感謝しているのよヴァレリー。もうバルちゃんと会うことは出来ないけれど、貴方のおかげであの子の魂を悪魔に奪われずに済んだ。だから、ありがとう! 帰ってきてくれて!」
その顔は、本当に嬉しそうで。
俺もなんだか……嬉しくなった。
でも、そこで一つ疑問が湧いた。
俺がそんな重傷で、かつまだその霊薬を飲んでもいないのに何故目を覚ましたことに驚かなかったのか? という疑問である。
「なぁ、思ったんだが……だったら何故俺が目を覚ましたことに驚かなかったんだ?」
「え? そんなの決まってるじゃない。目を覚ました時点で、誰かが化けてるのかバルちゃんの魂を奪いきった悪魔か。どちらかだとあたりをつけて芝居をうってたのよ。ねぇ? ノエル」
「はい。それがまさか、未来のヴァルドレイド様だとは」
「あー、そういうことか。なるほど」
道理で色々と違和感があった訳だ。
息子相手に尋問紛いにかまをかけてみたり、初めてお礼を言われたかのような反応をしてみたり……まさか目を覚ました時点で疑われていたとは。
「俺もまだまだ甘いな。まぁ、感情の読み取りとかはどうしてもって時に魔術でやるぐらいで、後は何もしたことないからなぁ。そういう技術も覚えた方が良いかもな」
「えぇ、覚えておいて損はないわよ。まぁ、ある意味純粋さを捨てることになるけど騙し合いの巣窟みたいな所にこれから貴方は行くんだし、ちょうどいいんじゃない?」
「騙し合いの巣窟? あぁ……まぁ、無事魔王を倒すことが出来たらフィーと結婚しようと思ってるしな。そっか、フィーと結婚すりゃそうなるよな」
「えぇ。それに、無知は罪とも言うでしょう? ふふっ、あんなことを聞いたんですもの。徹底的に仕込んであげるから、覚悟しなさい? ヴァレリー」
その笑顔は少し恐ろし気で、しかし実に自分の成長を予期させた。
魔術については色々と考えていたが、それ以外の面は知らないこともある。
俺は素直に、
「ふっ……はい。ご指導宜しくお願いしますね。先生?」
母さんの教えを受けることにした。
優し気な顔をした母さんが、俺にそう言ってくる。
「あぁ。それより済まない、年甲斐もなく。肉体はともかく中身は30近くだってのにな。気味が悪いだろう?」
「いいえ。そんなことないわ。だって、少し先の未来から帰ってきたって貴方が私の可愛い息子であることに変わりはないもの。それに、騙され続ける方がずっと嫌だもの。貴方は覚悟を決めて正直に話してくれた。だから、もういいのよ」
「母さん……。だが、俺は」
母さんもノエルも、俺を怒る気はないようだが……それでいいのか? 存在が同じであるとは言え、俺がこの時代の俺を殺したことに変わりはないというのに。
「正直助かったと言えば助かったのよヴァレリー。話を聞く感じ、貴方は知らないようだけど」
「えっ?」
「貴方は一度死にかけたのよ。つい最近ね」
何を、言ってるんだ? 母さんは。
確かに子供の頃の記憶は朧気ではあるが……そんな覚えは無いし母さんも言っていなかった。
まさか、俺が過去へ帰ってきたせいでなにか変わってしまったのか?
「貴方今、自分が過去に来たせいで何か変わったのか……とか考えているでしょう。生憎だけど違うわよ」
「じゃあ、どうして」
「同じ私の考えだからね、よく分かるわ。実際処置が終わったら私もそうする気だったし」
「だから、何なんだよ? 勿体ぶらずに教えてくれよ」
「……ノエル」
「はい。フローラ様」
言いようのない恐怖が背筋を這い登る。
そして、ノエルが何処からか持ってきた血のように赤い宝玉を見た瞬間……何かを幻視した。映像は砂嵐でも吹いてるかのように乱れている。
だが、その場面は……くっきりと見えた。
「そうだ……。俺は、幼い頃遊びに行った森で、悪魔に襲われたんだ」
「……どうやら記憶の封印が解けて来ているようね。そう、そしてそのまま死にかけたの。外傷も酷かったから、私は治癒術師を呼んで治療させたわ。でも貴方は一向に目を覚まさなかった。何故なのかを調べると、原因は外ではなく中にあったの。魂そのものが傷付けられていたのよ。だから目を覚まさなかった。貴方は同じ存在だから拒否反応が無かったと言ったわよね? それは違うわ。受け入れる側の魂が傷ついていたから、そもそも拒否するだけの力すらなかったのよ」
驚きだった。
そうだったのか、魂を専門に研究している訳ではないから正直何故拒否反応が無いのかは推測でしか無かったが……そんな理由があったのか。
「いや、ちょっと待ってくれ。ならば何故俺は助かったんだ?」
「その石は、竜の血石。彼らの血には魂の力を強める効果があると古文書に書いてあった。だから私は、あの子が助かるかもしれないならと何でもやった。これはその内の一つよ……。竜を何体も倒して、半年かけて作った竜10体分の血が凝縮された霊薬。無駄になっちゃったけど、まぁ……これはいずれ必要な時が来るまで大切に保管しておくとするわ」
「そう、だったのか。本来なら俺はそれを飲み、生きる筈だった。そこに俺が来たという訳か」
「えぇ、だから私は感謝しているのよヴァレリー。もうバルちゃんと会うことは出来ないけれど、貴方のおかげであの子の魂を悪魔に奪われずに済んだ。だから、ありがとう! 帰ってきてくれて!」
その顔は、本当に嬉しそうで。
俺もなんだか……嬉しくなった。
でも、そこで一つ疑問が湧いた。
俺がそんな重傷で、かつまだその霊薬を飲んでもいないのに何故目を覚ましたことに驚かなかったのか? という疑問である。
「なぁ、思ったんだが……だったら何故俺が目を覚ましたことに驚かなかったんだ?」
「え? そんなの決まってるじゃない。目を覚ました時点で、誰かが化けてるのかバルちゃんの魂を奪いきった悪魔か。どちらかだとあたりをつけて芝居をうってたのよ。ねぇ? ノエル」
「はい。それがまさか、未来のヴァルドレイド様だとは」
「あー、そういうことか。なるほど」
道理で色々と違和感があった訳だ。
息子相手に尋問紛いにかまをかけてみたり、初めてお礼を言われたかのような反応をしてみたり……まさか目を覚ました時点で疑われていたとは。
「俺もまだまだ甘いな。まぁ、感情の読み取りとかはどうしてもって時に魔術でやるぐらいで、後は何もしたことないからなぁ。そういう技術も覚えた方が良いかもな」
「えぇ、覚えておいて損はないわよ。まぁ、ある意味純粋さを捨てることになるけど騙し合いの巣窟みたいな所にこれから貴方は行くんだし、ちょうどいいんじゃない?」
「騙し合いの巣窟? あぁ……まぁ、無事魔王を倒すことが出来たらフィーと結婚しようと思ってるしな。そっか、フィーと結婚すりゃそうなるよな」
「えぇ。それに、無知は罪とも言うでしょう? ふふっ、あんなことを聞いたんですもの。徹底的に仕込んであげるから、覚悟しなさい? ヴァレリー」
その笑顔は少し恐ろし気で、しかし実に自分の成長を予期させた。
魔術については色々と考えていたが、それ以外の面は知らないこともある。
俺は素直に、
「ふっ……はい。ご指導宜しくお願いしますね。先生?」
母さんの教えを受けることにした。
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