断食の聖

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ゼルベットの悪事

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アレンの修業はとても順調でした。
カミルが邪魔者が現れないか見張り、エンゲメネーが不正に食物を取らないか監視していました。
開祖エフリートがそうしたように、唯一、開眼草と呼ばれる薬草を煎じた汁を飲むことだけは許されており、それによって、アレンの身体は驚く程維持されていました。
アレンの100日間断食修業が30日を経過し、エンゲメネーがそれを2の聖であるソフィールに報告すると、アレンの存在感が増して郷の多くの行者達の知るところとなり、大変に話題になってきたのです。
このことが面白くないのは、そう、ゼルベット達です。
食堂で大恥をかかされた後、ゼルベットはカミルについて調べさせたので、カミルがアレンの従者であることを知っていたので、アレンに対する嫉妬と憎しみを一層燃え上がらせていたのです。
当然ながら、カミルを倒さなければアレンに近づく事すら出来ませんが、怖くてカミルに立ち向かう事は出来ませんでしたので、ゼルベット達は卑怯な作戦を考え出したのです。
食堂の料理人を脅かして美味しい果物等を手に入れ、アレンの部屋から修行場までにそれらの果物を散りばめて、アレンに食欲を起こさせる狙いでした。

朝、いつものようにアレン達が部屋を出ると、道すがらやたらと果物が置いてありました。
カミルはピンとくるものがありました。
(これはきっと俺が打ちのめしたゼルベットの罠に違いないぞ!)少し心配になったカミルだが、アレンを見やると彼は果物等無いかのようにしていつも通り修行場ヘ歩を進めていました。
流石俺のご主人様だ!、カミルは改めてアレンに感服したのでした。
ゼルベット達は、更に美味しそうな肉等も強奪して道に散りばめましたが、アレンは一向に作戦には引っ掛かりませんでした。
業を煮やしたゼルベット達は、もう一つの作戦を思い付き実行することにしました。

その日、アレン実家の戸が叩かれました。
「はい、どちら様でしょうか?」
アレンの母が戸を開けると、修行僧の出で立ちの二人の男がいました。
「こんにちは、断食郷の使いの者です」
「アレンの事でしょうか?」
「そうです。とても申し上げ難いのですが、アレン君は断食の修業中にお亡くなりになりました」
「えっ、本当です?」
「はい、お母様ですね?」
「はい」
「お悔やみ申し上げます、こちらはアレン君の、」
そう言って修行僧は森で惨殺して皮と肉をはいだ大猿の骨をアレンの母に差し出しました。
アレンの母は、これはいよいよ本当のことであると思ってしまったのですが、これは全てゼルベットの企みだったのです。
自分の命よりも大切なものを失ってしまったと感じていたアレンの母は、震える両手で大猿の骨を受け取り、やっとの事で声を絞り出して修行僧に言いました。
「ありがとうございます、ご苦労様でした」
アレンの母は、もしかするとこんなことが起きるかも知れないとは思っていたものの、あまりにもあっけない最愛の息子の死、そして償いが出来なかった事を嘆いてその日のうちに首を括って命を断ってしまいました。
ヒッポラとアドレは、アレンのせいで母が死んだと思いより一層アレンを憎む事になりました。

100日間断食修業の48日目、アレンはソフィールから母の死を知らされました。
死に至った理由はゼルベット達しか知りませんでした。
もし分かっていたら、カミルの槍が直様ゼルベットの脳天を貫いたことでしょう。
アレンはその日、いつも通り瞑想して夜自分の布団に入ってから沢山泣きました。
隣の布団に入っていたカミルも沢山泣きました。


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