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約束のクリスマス

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隆司の誘導を無視して、ずかずかと部屋の廊下を抜けてリビングに入る。

ぼんやりとしたオレンジ色の光に照らされた室内は、清掃したてのワックスや壁紙のノリの匂いが残っている。

内見する部屋はどこも家具の置かれていない、生活感のない空っぽで冷たい部屋。
まるで、私の心の中のようだ。

そう思いながらリビングに入る。
その瞬間、心がギュっとなるのを感じた。

内見する部屋はどこも真っ暗。
私の心と同じで、真っ暗だ。

真っ暗



いや、この部屋は違う。
他の内見する部屋と違って、オレンジ色の光が灯っている。

真っ暗ではない。

その光が、真っ暗な私の心の中にしみこんでくる。

私は、思わず部屋の備え付けのテーブルへ向かって駆け寄る。

豆電球の光ではないオレンジ色の光。

テーブルの中央に灯っている大きな蝋燭。
私が近づいたことで、炎が揺らいだ。

私の目頭が熱くなる、
先ほどは我慢した涙が、今度は我慢できない。

ぽろぽろと涙が流れる。

「なんでよ、ずるいじゃない。」

奮える息から絞り出すようにそれだけ言うと、
もう何も言えないほど涙が流れ出した。


そんな私の肩に隆司が手を置いて言った。


「メリークリスマス、そして今日から、ここで二人の生活をスタートさせよう。」


私は、もう何も言えないまま何度も頷いた。



蝋燭の足元の置かれた一枚の便せんが置かれている。




「新しい約束をしよう、来年は家族になって、クリスマスを迎えよう。」

便せんを隅に、蝋燭の光を受けて輝いているものがある。




隆司はそれを手に取ると、私の左手薬指に優しくはめてくれた。




隆司が私の顔を覗き込む。
涙でメイクが崩れているであろう私は、ドキとした。

「じゃぁ、マンションの前でいいかけてたこと、聞こうか?」






「いじわる。」





そう言って、私は隆司に抱き着いた。

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