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第參刃 泥棒をやっつけなければならないようです。
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コオリを弟子に取った日から一年が経過していた。
その間にわしは多くの刀剣を血製した。
一般的なブロードソードにショートソード、刀やサーベル、果てはランスや大鎌まで作ってしまった。
さすがにランスや大鎌までいくとわしの剣術の範疇ではないのだが、ものは試しということでやるだけやってみた。
しかし、どうにも扱いづらいような。
やはり柄が長すぎるというのが馴染めないようだった。
今では倉庫の肥やしとなってしまっている。
――う~む、我ながらもったいないのう。
たまに手に取っては素振りをしてみるが、実戦で使うにはまだまだ経験が足りないだろう。
しかし、こうして見ると作った刀剣の数はそれなりに増えてきた。
仮住まいとして作った一軒目の小屋は見事に武器倉庫となってしまっていた。
その数、およそ五十振りほど……。
――さすがに少々物騒じゃのう……。
まぁ、こんな辺鄙な山奥の小屋に盗みに入る泥棒などいないだろうが、多少は気に掛けるべきだろうか。
――まぁ、いずれ考えれば良いことか。
どうせまたしばらくしたらここも手狭になる。
そうしたらまた増改築することになるのだから、またその時にセキュリティというものにも気を配るとしよう。
なにせ丸ごと奪われればそれなりの盗賊団が作れそうな量なのだ。
そんなことを考えながら、わしは倉庫と化した小屋の戸を閉めた。
倉庫の外には広場がある。
土を均して踏み固めた即席の稽古場となっている。
素振りや技の型などの練習をするときはいつもここを使っている。
今回使うのは大剣、クレイモアである。
その刀身はわしの身長より少し短いかといったところで重量はかなりある。
こいつを振るうにはわしの膂力ではまだまだ足りないだろう。
扱うには魔力を込める必要がある。
わしの前世には魔力などという概念は薄く、わし自身は使ったこともなかった。
使い手も見たことはあったが、仕組みはよく知らない。
そもそもここでいう魔力が、前世で聞いた魔力と同一かどうかも分からない。
大体、言語が違うのだからその二つを同じと考えるのはさすがに早計だろう。
だからここでいう魔力というのはあくまで妖魔族にとっての魔力ということになる。
魔力を込めるとクレイモアの重量が緩和される。
魔力が筋力の代替として作用しているからだ。
これを応用すれば人並外れた挙動で大暴れができそうなのだが、消耗もそれなりに大きいので使いどころが肝要となる。
しかし、魔力におけるスタミナのような部分も鍛えれば増強できる可能性も高い。
例えば血製魔術も最初は少し使うだけでふらつく程度の消耗をしていたものだが、今ではただ刃物を作るだけなら十本でも二十本でも問題なく作れる。
いや、それはそれで逆に治安的に問題か。
とはいえ、そんなに量産した場合は強度が著しく落ちてしまう。
質の高い剣を作るには高密度の魔力で繰り返し血製する必要がある。
そういう意味では、あの倉庫の五十振りでも満足いくレベルに達しているものは十振りにも満たない。
剣士としてはともかく、血製魔術師としてはまだまだ駆け出しといったところか。
問題の魔術のスタミナに関しては鍛えれば上がるのは経験から言って間違いないだろう。
体力のスタミナと同様に繰り返し鍛錬で伸ばせるはずだ。
そう考えると人間の体も、魔術も、剣の鍛錬も似たようなものかもしれない。
疲弊させ栄養をつけて休ませて鍛錬を続ける。
そうしていいものが出来上がるのだ。
まぁ、鍛冶の知識は齧った程度でしかないのだが。
などと、わしは心地よいクレイモアの重量を感じながら、そんな思考を巡らすのだった。
素振りを一通り終えると、わしはクレイモアを武器倉庫にしまった。
こうした重量のある武器は持ち運びに難がある。
普段から持ち運ぶには嵩張るし、疲労も貯まる。
訓練と考えれば疲労は受け入れられるが、邪魔になることはやはり変わらない。
携行性も何か対策を考えたいところだった。
やはり今は刀――、片手剣が手頃だろうか。
そんなふうに思いつつ倉庫の扉をしっかりと閉めた。
これから向かうのは村跡地からしばらく進んだ先に作った畑だ。
土石流で崩れたばかりの地面では土に不純物が多く、村跡地の土壌は農耕に向いていなかった。
幸い、少し進んだ小高い丘の上は崩れずに済んだようで、そこを耕して畑にした。
まず試したのはカカブという野菜だ。
一ヶ月程度で育ち、球根部分と葉も食べられる。
それから少しずつ種類を増やしているが、発育は悪くないように思う。
もう少し農地を増やして安定した供給をできるようにしたいが、それにはもう少し時間がかかるだろう。
川が近くにないので水を撒くのも一苦労だ。
井戸が掘れればいいのだがさすがに素人には無理だろう。
自給自足も簡単ではないようだ。
そのあたりの問題は時折町に降りては宿の女将に助けてもらっている。
幸い彼女はこちらの事情を理解してくれている。
時々野菜の種や苗を分けてもらったりしているので、何かで恩を返さなければならないだろう。
イノシシでも狩るか。
向こうではそれなりのご馳走として受け入れられるはずだ。
言うが早いかわしは山に分け入って獣を狩ることに決めたのだった。
日も暮れてきたが、結局獣は狩れなかった。
というより、ほとんど見かけることすらできなかった。
どうやらまだ土石流の影響が根強いらしかった。
動物たちはかなり遠くまで逃げてしまったようだ。
見かけるのは無事に逃げ延びた鳥たちぐらいだった。
とはいえ、鳥の狩猟は難しい。
腰に下げた片手剣ではカスリもしなかったのだ。
剣の腕は誰にも負けぬ自信はあるが、狩りの腕はポンコツも良いところだった。
わしは項垂れながら帰路についていた。
帰り道に巨大な剣が見えてきた。
わしが土石流から逃れるために作り出した剣だった。
後にも先にもこれほど巨大な剣を作ったことはなかったが、今なお倒れることもなく堂々と地面に突き刺さっていた。
刀身まで近づくとそこには文字が書かれている。
『――村の民に安らかな眠りを』
そして、その下に刻まれた名前を見る。
『――クルギ、ここに眠る』
この村に生まれた少年は死んだ。
わしは転生した。
妖魔族の少年クルギとしてではなく、転生者ツルギとして生きる。
わしはそう決めたのだ。
そして――。
その下に更に文字が刻まれている。
『コオリ、ここに眠る』
わしはその文字をなぞると溜息をひとつこぼした。
「やれやれ……。コオリ、か。今更ながら少し懐かしく感じるのぅ」
わしが踵を返すと、ちょうど足音が聞こえてくる。
どうやら帰ってきたらしい。
わしは自分を見上げる視線に答えるように頷いてやると、向こうはニパっと笑みを返す。
「ただいま帰りました! 師匠!」
わしは勉強を終えて帰ってきた弟子を労いつつ、いつものように家へ向かった。
「おかえり、『イオリ』」
それが彼女の新しい名前だった。
覚えたての敬語を操る弟子は楽しそうにわしの周りをグルグルと回る。
「師匠! 今日は女将さんに算術を教えてもらいました! 今ならどんな計算もできると思います!」
「ほう、そうかそうか。ならちょいと問題を出してみようかのぅ」
「良いですよ! どんな問題ですか?」
夕焼けと宵の混ざる空の下、わしらは穏やかに過ごしていた。
すぐ傍で巻き起こりつつある問題に気づきもせずに……。
その間にわしは多くの刀剣を血製した。
一般的なブロードソードにショートソード、刀やサーベル、果てはランスや大鎌まで作ってしまった。
さすがにランスや大鎌までいくとわしの剣術の範疇ではないのだが、ものは試しということでやるだけやってみた。
しかし、どうにも扱いづらいような。
やはり柄が長すぎるというのが馴染めないようだった。
今では倉庫の肥やしとなってしまっている。
――う~む、我ながらもったいないのう。
たまに手に取っては素振りをしてみるが、実戦で使うにはまだまだ経験が足りないだろう。
しかし、こうして見ると作った刀剣の数はそれなりに増えてきた。
仮住まいとして作った一軒目の小屋は見事に武器倉庫となってしまっていた。
その数、およそ五十振りほど……。
――さすがに少々物騒じゃのう……。
まぁ、こんな辺鄙な山奥の小屋に盗みに入る泥棒などいないだろうが、多少は気に掛けるべきだろうか。
――まぁ、いずれ考えれば良いことか。
どうせまたしばらくしたらここも手狭になる。
そうしたらまた増改築することになるのだから、またその時にセキュリティというものにも気を配るとしよう。
なにせ丸ごと奪われればそれなりの盗賊団が作れそうな量なのだ。
そんなことを考えながら、わしは倉庫と化した小屋の戸を閉めた。
倉庫の外には広場がある。
土を均して踏み固めた即席の稽古場となっている。
素振りや技の型などの練習をするときはいつもここを使っている。
今回使うのは大剣、クレイモアである。
その刀身はわしの身長より少し短いかといったところで重量はかなりある。
こいつを振るうにはわしの膂力ではまだまだ足りないだろう。
扱うには魔力を込める必要がある。
わしの前世には魔力などという概念は薄く、わし自身は使ったこともなかった。
使い手も見たことはあったが、仕組みはよく知らない。
そもそもここでいう魔力が、前世で聞いた魔力と同一かどうかも分からない。
大体、言語が違うのだからその二つを同じと考えるのはさすがに早計だろう。
だからここでいう魔力というのはあくまで妖魔族にとっての魔力ということになる。
魔力を込めるとクレイモアの重量が緩和される。
魔力が筋力の代替として作用しているからだ。
これを応用すれば人並外れた挙動で大暴れができそうなのだが、消耗もそれなりに大きいので使いどころが肝要となる。
しかし、魔力におけるスタミナのような部分も鍛えれば増強できる可能性も高い。
例えば血製魔術も最初は少し使うだけでふらつく程度の消耗をしていたものだが、今ではただ刃物を作るだけなら十本でも二十本でも問題なく作れる。
いや、それはそれで逆に治安的に問題か。
とはいえ、そんなに量産した場合は強度が著しく落ちてしまう。
質の高い剣を作るには高密度の魔力で繰り返し血製する必要がある。
そういう意味では、あの倉庫の五十振りでも満足いくレベルに達しているものは十振りにも満たない。
剣士としてはともかく、血製魔術師としてはまだまだ駆け出しといったところか。
問題の魔術のスタミナに関しては鍛えれば上がるのは経験から言って間違いないだろう。
体力のスタミナと同様に繰り返し鍛錬で伸ばせるはずだ。
そう考えると人間の体も、魔術も、剣の鍛錬も似たようなものかもしれない。
疲弊させ栄養をつけて休ませて鍛錬を続ける。
そうしていいものが出来上がるのだ。
まぁ、鍛冶の知識は齧った程度でしかないのだが。
などと、わしは心地よいクレイモアの重量を感じながら、そんな思考を巡らすのだった。
素振りを一通り終えると、わしはクレイモアを武器倉庫にしまった。
こうした重量のある武器は持ち運びに難がある。
普段から持ち運ぶには嵩張るし、疲労も貯まる。
訓練と考えれば疲労は受け入れられるが、邪魔になることはやはり変わらない。
携行性も何か対策を考えたいところだった。
やはり今は刀――、片手剣が手頃だろうか。
そんなふうに思いつつ倉庫の扉をしっかりと閉めた。
これから向かうのは村跡地からしばらく進んだ先に作った畑だ。
土石流で崩れたばかりの地面では土に不純物が多く、村跡地の土壌は農耕に向いていなかった。
幸い、少し進んだ小高い丘の上は崩れずに済んだようで、そこを耕して畑にした。
まず試したのはカカブという野菜だ。
一ヶ月程度で育ち、球根部分と葉も食べられる。
それから少しずつ種類を増やしているが、発育は悪くないように思う。
もう少し農地を増やして安定した供給をできるようにしたいが、それにはもう少し時間がかかるだろう。
川が近くにないので水を撒くのも一苦労だ。
井戸が掘れればいいのだがさすがに素人には無理だろう。
自給自足も簡単ではないようだ。
そのあたりの問題は時折町に降りては宿の女将に助けてもらっている。
幸い彼女はこちらの事情を理解してくれている。
時々野菜の種や苗を分けてもらったりしているので、何かで恩を返さなければならないだろう。
イノシシでも狩るか。
向こうではそれなりのご馳走として受け入れられるはずだ。
言うが早いかわしは山に分け入って獣を狩ることに決めたのだった。
日も暮れてきたが、結局獣は狩れなかった。
というより、ほとんど見かけることすらできなかった。
どうやらまだ土石流の影響が根強いらしかった。
動物たちはかなり遠くまで逃げてしまったようだ。
見かけるのは無事に逃げ延びた鳥たちぐらいだった。
とはいえ、鳥の狩猟は難しい。
腰に下げた片手剣ではカスリもしなかったのだ。
剣の腕は誰にも負けぬ自信はあるが、狩りの腕はポンコツも良いところだった。
わしは項垂れながら帰路についていた。
帰り道に巨大な剣が見えてきた。
わしが土石流から逃れるために作り出した剣だった。
後にも先にもこれほど巨大な剣を作ったことはなかったが、今なお倒れることもなく堂々と地面に突き刺さっていた。
刀身まで近づくとそこには文字が書かれている。
『――村の民に安らかな眠りを』
そして、その下に刻まれた名前を見る。
『――クルギ、ここに眠る』
この村に生まれた少年は死んだ。
わしは転生した。
妖魔族の少年クルギとしてではなく、転生者ツルギとして生きる。
わしはそう決めたのだ。
そして――。
その下に更に文字が刻まれている。
『コオリ、ここに眠る』
わしはその文字をなぞると溜息をひとつこぼした。
「やれやれ……。コオリ、か。今更ながら少し懐かしく感じるのぅ」
わしが踵を返すと、ちょうど足音が聞こえてくる。
どうやら帰ってきたらしい。
わしは自分を見上げる視線に答えるように頷いてやると、向こうはニパっと笑みを返す。
「ただいま帰りました! 師匠!」
わしは勉強を終えて帰ってきた弟子を労いつつ、いつものように家へ向かった。
「おかえり、『イオリ』」
それが彼女の新しい名前だった。
覚えたての敬語を操る弟子は楽しそうにわしの周りをグルグルと回る。
「師匠! 今日は女将さんに算術を教えてもらいました! 今ならどんな計算もできると思います!」
「ほう、そうかそうか。ならちょいと問題を出してみようかのぅ」
「良いですよ! どんな問題ですか?」
夕焼けと宵の混ざる空の下、わしらは穏やかに過ごしていた。
すぐ傍で巻き起こりつつある問題に気づきもせずに……。
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