幸福は君の為に

周乃 太葉

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7/強引な約束

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工房にて

「ごめんくださーい」

「はいはーい、あ、ケリー。なぁに?」

オリビアが玄関先に出るとケリーが来ていた。
ケリーはオリビアの中等部の同級生で、商店街のパン屋に勤めていた。忙しいオリビアをせっせと誘う数少ない友人である。

「あのさ、今度の休みいつ?」

「えっと…今、リヴリー先生のとこの製作入ってて佳境だから、それが終わればかな?」

「それっていつ頃?」

「今月いっぱいはかかるから…来月…?」

オリビアが目線を逸して答えると、ケリーは不満を隠さずに文句を言った。

「そんな先!?あと半月もあるじゃん」

「ん~ごめん。急ぎだった?」

「………」

ケリーは言いづらそうな顔をしてオリビアから目線をそらした。

「んん?まさか、また?」

ケリーは今でも一緒に遊びに行く仲であるが、ケリーには困ったところがある。
ケリーは”オリビアには恋人が必要よ”とあちこちで話すから度々男性から紹介をお願いされて、その話をオリビアのもとに持ってくるのだった。

毎回オリビアは断るのだが、懲りずにまた話を持ってきたようだ。

「えへへへ~。ごめーん、また紹介してってお願いされてちゃって」

「勘弁してよ~」

「だって、だって~」

「前回最後っていったじゃない」

オリビアが困惑気味に答えると、ケリーが顔の前で手をパチンと合わせてオリビアにお願いのポーズを取った。

「ごめん!今回だけ。店の常連のおばあさんが持ってきた話で断れなかったの。それに…心配なんだもん。オリビアはキレイなのに、いつまで一人でいるの?パトリスのことまだ思ってるの?それとも、ユーリ?ウーゴさんのことだっていつも足蹴にしているじゃん。いつまでも独り身だから周りがほっとかないんだよ」

ケリーお願いだったはずが段々と不満が滲み出てきてひどい言い草だった。
オリビアは毎度のことに呆れながら聞き流した。

「はぁ~。私はまだ修行中の身だから恋愛する暇はないの。パトリスもユーリも関係ないってば。そもそも、どっちもただの幼馴染だよ。それにウーゴさんはそういうのとは違うんだよ」

「贅沢な」

「いつもケリーは考えすぎなのよ」

ケリーはオリビアの言い分に全然納得せずに強引に話を終わらせることにした。

「もう!でも、紹介するって言っちゃったから来月、予定空けといてね」

「んー…本当にこれで最後にしてね」

「わかったわかった。じゃあよろしく~」

そう言ってケリーは帰っていった。

「はぁ…まいったな」

工房の外でぼやいていると

「ふふっ、また、ケリーにお節介焼かれたのかい?」

さっき名前が上がった幼馴染、ユーリが声をかけてきた。

「いらっしゃい、ユーリ。ははは…」

一瞬でどっと疲れが出てひどい顔をしていたらしく、ユーリが本気で心配してきた。

「オリビア、その気がないならハッキリ断ったほうがイイぞ?じゃないと永遠に続くぞ?」

「うーん…それは困る…でも、私のために一生懸命なところをみちゃうと、どうも断りづらくて…」

「お人好しめ」

「ははは…で、ユーリは今日はどうしたの?」

乾いた笑いしか出なくなり、オリビアは話を変えた。

「ん、あぁ、これを届けに来た」

オリビアの意図を汲んでユーリは手に持っていた袋を上げた。

「おじーちゃんのいつもの薬ね。わざわざありがとう。お茶飲んでく?」

「おぅ、俺も息抜きに丁度いいや。ははっ…」

椅子に腰掛けたユーリが疲れた顔をした。
乾いた笑いをするユーリを見てオリビアは察した。

「相変わらずリヴリー先生にしごかれているのね」

「はは…はぁ…」

「お疲れ様。でも、こないだもリヴリー先生、おじーちゃんと晩酌しているとき、ユーリのこと見込みあるって褒めてたよ。よかったね。はい、お茶」

「ありがとう。まぁ、ちゃんと評価はしてもらっていると思う。でも、それとこれは別なんだよなぁ」

「ふふふ」

オリビアもユーリの正面に座り、お茶を飲んだ。

「そんなことより、オリビアもじーさんに仕事任されたんだろ?先生の依頼、オリビアが作るって聞いたぞ」

オリビアは目をパチクリさせ、パァっと顔が輝いた。

「そうなの!今回初めて1から私が担当するの。初めてだから気合入っちゃって」

「あぁ、だから、そのクマ。酷いぞ。張り切る気持ちもわかるが、ちゃんと休息は必要だぞ?倒れるぞ?」

「ははは…わかってはいるんだけどね~。どうにもハイになっちゃって…」

ユーリは全然わかってない幼馴染に呆れながら、

「まったく。ということで、早速休息を取れ。これは依頼人からの命令と医者命令だぞ」

「えぇぇ!横暴だなぁ。今いいトコなのに」

オリビアはユーリの強引な提案に驚き、口を尖らせた。ユーリはそんなオリビアの仕草にも動じず、言い放った。

「ダメだ。入院させるぞ?」

「それは困る…」

「お前が昼寝している間、俺もここで休息を取らせてもらうよ」

「そっちが本命じゃ…ぐっ…」

オリビアが文句を言いかけたのをユーリが目線で抑え、オリビアは負けを実感した。

ユーリはオリビアが自室に行くのを見守ってリビングのソファーに座って自分も休息に読書を始めた。

「アイツはこのこと知って…るわけないか」

ユーリは遠くにいる幼馴染のことを思い出した。
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