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11/積極的アプローチ
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職人街
天気のいいある日
オリビアのところに向かう影がひとつ。
素材の入った箱を抱えウキウキ顔で歩いている。
この男はウーゴ・ルチーディである。
ウーゴは中央都市から職人街に赴任してきた役人である。彼は今、オリビアに熱烈アプローチ中だった。
ウーゴは職人街に赴任し、商店街に来たときに、たまたま入った店でオリビアの作った魔道具を見て一目で魅了された。ウーゴは店員にオリビアのことを聞き出し、その足でオリビアの元を訪ねて、初対面なのに熱烈な告白を行ったのである。
「お嬢さん、初めまして。これを作ったのは貴女ですか?」
「は、はい…」
「素晴らしい!一目惚れしました!どうか僕と結婚してください!生涯を貴女と共にいたいです!」
「は?」
オリビアは驚きすぎて一瞬何が起こったのか理解できなかった。目の前でうっとりした目で見てくる男がいきなりなんか言っている…
ヴィムのゴホンという大きな咳払いでハッと冷静さを取り戻した後、丁重にお断りした。
「ごめんなさい。今修行中の身ですので、そういうことは考えられません」
「わかりました。でも、僕は諦めません!!僕のことを意識してもらえるように頑張ります」
ウーゴは一点の曇もない笑顔で答えた。
オリビアはウーゴの返答にさらにポカンとしてしまった。
ウーゴはその日から有言実行だった。
日々日参し、オリビアやオリビアの周りの人たちと距離を詰めていった。時には素材を持って、またある時は花束を持って、せっせと通った。
そして、現在、ウーゴは自分の仕事がない日はほぼほぼ工房に入り浸るようになっていた。
彼は毎度毎度かなりのアプローチを繰り返しているので、ヴィムも最初は怪訝そうな顔をしていたが、そのうち呆れ返って好きなようにさせるようになった。こうして、ウーゴは工房に入り浸ることが許されたのである。
だが、ウーゴはアプローチの割にオリビアの返事を急かすことはなかった。
「オリビア、こんにちは」
「ウーゴ、今日も来たの?役人って暇なの?」
「そりゃ、君に会うためなら仕事のやりようなんていくらでも」
「他の人に迷惑かけていないならいいけど」
「それは大丈夫。こうみえて僕は優秀なんだよ」
「自分で言っちゃうの?」
「いいものは売り込んでいかないとね」
ウーゴはウインクしてオリビアに箱を渡した。
「はい、どうぞ」
「また?いつもいいって言ってるのに…」
オリビアはウーゴから渡された箱を開けてみると、今一番欲しかった素材が入っていた。
「え?これって?」
「リヴリー先生に聞いたんだ。今作っているやつに必要なんだろ?」
「そうだけど…」
「なくなったら取りに行くんだろう?」
「まあ、そうね」
「そうしたら僕は長いこと君に会えなくなっちゃう。それは僕が困るから僕のためにもらってよ」
オリビアはウーゴのトンデモ理論に思わず笑ってしまった。
「何その理由。ふふっ。代金は払うわ」
「いつも言ってるだろう?お金はいらないよ。僕からのプレゼントだよ。…って言ってもそろそろ受け取ってくれなくなりそうだなぁ。じゃあ、今度ごはん食べに行こう?デートしよ?」
「えー…ちゃんと払うよ?」
「僕がデートしたいの。お金より価値があるよ。ね?」
「…わかった。じゃぁ、今の作業が一段落してからでもいい?」
「やった!もちろん、僕はいつでも君に合わせるよ」
ウーゴはバンザイして喜んだ。そんなウーゴを見てオリビアはやれやれと素材の入った箱を作業台の上に置いた。
そして、ウーゴに出すお茶の準備を始めた。
すると、イスに座ったウーゴがオリビアに尋ねた。
「あ、そーだ。ケリーから聞いたんだけど。また男の人紹介されるんだって?」
「な、な」
オリビアは動揺のあまり、茶葉をザバッとこぼしてしまった。
「さっき、ケリーとばったり会ってね。ひどいな~。僕がいるのに、ねぇ、オリビア」
ウーゴがオリビアのことをニヤニヤと見ながら
わざとらしく 悲しんでみせた。
「いやいやいや、私がお願いしたわけじゃないし…」
「えー、でも、僕がこんなにアプローチしているのにねぇ?ケリーも見栄っ張りなんだから。オリビアはどう思う?」
「正直、紹介は頼んでいないからちょっと困ってる…でもケリーの好意だから断れない…」
オリビアが冷や汗をダラダラと流していると、ウーゴがいつもは見せない鋭い視線を投げかけてきた。
「お人好しだね。ねぇ、オリビア?僕がここに通い始めて結構経つと思うんだけど、僕は君と仲良くなれたかな?」
「え、えぇ」
「それは友人として?それとも異性として?」
「うーん…。正直なところ、今はまだ異性の友人だわ」
「よかった」
ウーゴはホッとした表情となり、視線が柔らかくなった。ウーゴの意外な返事にオリビアは意表を突かれた。
「え?」
「いや、ちゃんと異性として認識されているんだなって」
「そりゃ…そうでしょ?」
「なら、まだまだ僕にもチャンスはあるね。ぽっと出の男なんかに負けないよ。これからどんどん今以上にアプローチするから、安心して紹介されていいよ」
「え?なにそれ??」
オリビアはウーゴの言っていることが捉えどころなさすぎて理解できなかった。ウーゴは不敵な笑みを浮かべ、オリビアの手を握った。
「僕は誰にも負けるつもりはないよ。オリビア、好きだよ。君を振り向かせて見せるよ。これから覚悟してね。とりあえずデートが楽しみだ」
「え?え?え?」
オリビアが戸惑っていると、
「ふふ、今日はこれで」
といってウーゴはオリビアの額にキスをして帰っていった。
「なに?な、なんだったの??」
ウーゴが帰ったあと、工房には真っ赤になって呆然と立ち尽くしているオリビアが残された。
天気のいいある日
オリビアのところに向かう影がひとつ。
素材の入った箱を抱えウキウキ顔で歩いている。
この男はウーゴ・ルチーディである。
ウーゴは中央都市から職人街に赴任してきた役人である。彼は今、オリビアに熱烈アプローチ中だった。
ウーゴは職人街に赴任し、商店街に来たときに、たまたま入った店でオリビアの作った魔道具を見て一目で魅了された。ウーゴは店員にオリビアのことを聞き出し、その足でオリビアの元を訪ねて、初対面なのに熱烈な告白を行ったのである。
「お嬢さん、初めまして。これを作ったのは貴女ですか?」
「は、はい…」
「素晴らしい!一目惚れしました!どうか僕と結婚してください!生涯を貴女と共にいたいです!」
「は?」
オリビアは驚きすぎて一瞬何が起こったのか理解できなかった。目の前でうっとりした目で見てくる男がいきなりなんか言っている…
ヴィムのゴホンという大きな咳払いでハッと冷静さを取り戻した後、丁重にお断りした。
「ごめんなさい。今修行中の身ですので、そういうことは考えられません」
「わかりました。でも、僕は諦めません!!僕のことを意識してもらえるように頑張ります」
ウーゴは一点の曇もない笑顔で答えた。
オリビアはウーゴの返答にさらにポカンとしてしまった。
ウーゴはその日から有言実行だった。
日々日参し、オリビアやオリビアの周りの人たちと距離を詰めていった。時には素材を持って、またある時は花束を持って、せっせと通った。
そして、現在、ウーゴは自分の仕事がない日はほぼほぼ工房に入り浸るようになっていた。
彼は毎度毎度かなりのアプローチを繰り返しているので、ヴィムも最初は怪訝そうな顔をしていたが、そのうち呆れ返って好きなようにさせるようになった。こうして、ウーゴは工房に入り浸ることが許されたのである。
だが、ウーゴはアプローチの割にオリビアの返事を急かすことはなかった。
「オリビア、こんにちは」
「ウーゴ、今日も来たの?役人って暇なの?」
「そりゃ、君に会うためなら仕事のやりようなんていくらでも」
「他の人に迷惑かけていないならいいけど」
「それは大丈夫。こうみえて僕は優秀なんだよ」
「自分で言っちゃうの?」
「いいものは売り込んでいかないとね」
ウーゴはウインクしてオリビアに箱を渡した。
「はい、どうぞ」
「また?いつもいいって言ってるのに…」
オリビアはウーゴから渡された箱を開けてみると、今一番欲しかった素材が入っていた。
「え?これって?」
「リヴリー先生に聞いたんだ。今作っているやつに必要なんだろ?」
「そうだけど…」
「なくなったら取りに行くんだろう?」
「まあ、そうね」
「そうしたら僕は長いこと君に会えなくなっちゃう。それは僕が困るから僕のためにもらってよ」
オリビアはウーゴのトンデモ理論に思わず笑ってしまった。
「何その理由。ふふっ。代金は払うわ」
「いつも言ってるだろう?お金はいらないよ。僕からのプレゼントだよ。…って言ってもそろそろ受け取ってくれなくなりそうだなぁ。じゃあ、今度ごはん食べに行こう?デートしよ?」
「えー…ちゃんと払うよ?」
「僕がデートしたいの。お金より価値があるよ。ね?」
「…わかった。じゃぁ、今の作業が一段落してからでもいい?」
「やった!もちろん、僕はいつでも君に合わせるよ」
ウーゴはバンザイして喜んだ。そんなウーゴを見てオリビアはやれやれと素材の入った箱を作業台の上に置いた。
そして、ウーゴに出すお茶の準備を始めた。
すると、イスに座ったウーゴがオリビアに尋ねた。
「あ、そーだ。ケリーから聞いたんだけど。また男の人紹介されるんだって?」
「な、な」
オリビアは動揺のあまり、茶葉をザバッとこぼしてしまった。
「さっき、ケリーとばったり会ってね。ひどいな~。僕がいるのに、ねぇ、オリビア」
ウーゴがオリビアのことをニヤニヤと見ながら
わざとらしく 悲しんでみせた。
「いやいやいや、私がお願いしたわけじゃないし…」
「えー、でも、僕がこんなにアプローチしているのにねぇ?ケリーも見栄っ張りなんだから。オリビアはどう思う?」
「正直、紹介は頼んでいないからちょっと困ってる…でもケリーの好意だから断れない…」
オリビアが冷や汗をダラダラと流していると、ウーゴがいつもは見せない鋭い視線を投げかけてきた。
「お人好しだね。ねぇ、オリビア?僕がここに通い始めて結構経つと思うんだけど、僕は君と仲良くなれたかな?」
「え、えぇ」
「それは友人として?それとも異性として?」
「うーん…。正直なところ、今はまだ異性の友人だわ」
「よかった」
ウーゴはホッとした表情となり、視線が柔らかくなった。ウーゴの意外な返事にオリビアは意表を突かれた。
「え?」
「いや、ちゃんと異性として認識されているんだなって」
「そりゃ…そうでしょ?」
「なら、まだまだ僕にもチャンスはあるね。ぽっと出の男なんかに負けないよ。これからどんどん今以上にアプローチするから、安心して紹介されていいよ」
「え?なにそれ??」
オリビアはウーゴの言っていることが捉えどころなさすぎて理解できなかった。ウーゴは不敵な笑みを浮かべ、オリビアの手を握った。
「僕は誰にも負けるつもりはないよ。オリビア、好きだよ。君を振り向かせて見せるよ。これから覚悟してね。とりあえずデートが楽しみだ」
「え?え?え?」
オリビアが戸惑っていると、
「ふふ、今日はこれで」
といってウーゴはオリビアの額にキスをして帰っていった。
「なに?な、なんだったの??」
ウーゴが帰ったあと、工房には真っ赤になって呆然と立ち尽くしているオリビアが残された。
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