幸福は君の為に

周乃 太葉

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13/一方的な運命

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中央都市にて

昔、駆け出しの頃知り合った少女はすっかり成長して、本屋の看板娘になっていた。

少女の名はフェリ。

フェリはあれからパトリスの影響で物語が好きになり片っ端から読み漁っていた。そして数年後、パトリスがそんなに好きなら書いてみたら?と軽く言った一言で小説を書き始めた。いまやそこそこ人気のある小説家となり、最近では舞台の脚本も書くようになっていた。

パトリスとフェリの交流は続いており、パトリスがオトビスと知っている数少ない人間だった。

「やぁ、フェリ」

「あ、いらっしゃい、パトリスさん。今日はお休みなの?」

「いや、午後から稽古があるんだけど、こないだ頼んだ本が届いていないかな?って思って」

「またぁ?まだって言ってるじゃん。届いたら連絡するって言ってあるのに…」

「そうなんだけどね。待ち遠しくて。そういえば、フェリの新作はどう?」

パトリスは毎回フェリに怒られても気にせず、暇になると書店を訪れ、同じ質問をした。そして本が届くと次の本を注文して、また同じことを繰り返していた。
そんなパトリスに呆れながらもフェリはパトリスと話す時間が楽しかった。

「今のところ順調ですね。どうなるかわかりませんけど…」

「そう、良かった。前作はだいぶ心配したんだよ」

「そうだったね。へへっ。前作は途中つまづいて長く苦しんだからね…でも、その分良い物が書けたと思うんだけど?」

「うん。とっても面白かったよ。今は新作だけだっけ?」

「ううん、今度パトリスさんが出る舞台の脚本のお手伝いのお仕事があるよ」

「あぁ、『太陽と月』か」

「うん、それ。それで、今度、サン・シェリヴ先生と打ち合わせするんだよ。憧れの先生とお話できるなんて今から緊張るよー」

「ふふふ、良かったね。舞台の脚本期待しているよ」

「うん!もちろん、任せて!」

フェリは胸をドンと叩いて自信満々に言った。

「それより、シェリヴ先生ってどんな人なの?会ったことあるんでしょ?」

「んーっと…すれ違っただけだから、会ったと言えるかわかんないけど、とてもきれいな顔した男の人だったよ。優しそうで、あれはモテるね」

フェリは思い出しながらニヤニヤしていた。

「そうなんだ。男の人なんだ」

「意外だよね。あんな素敵な恋がかけるなんて、会うまでずっと女の人だと思ってたんだけど。でも、先生見たらなんか、なんか納得しちゃった」

「まぁ、男のほうが案外ロマンチストだからね」

「おや?その言い方だとパトリスさんもかなりのロマンチストってことでいいですか?」

フェリがからかうように口調を変えてきた。
パトリスはチラッとフェリを見てフェリがあまりにもウキウキしているので、呆れながら話をはぐらかした。

「まったく、大人をからかうんじゃないよ」

「ふふふ。いいじゃん、私とパトリスさんの中にじゃん。あ、それでね?こないだ私も運命の出会いっていうのをしたような気がするの」

「なにそれ?」

「実はですね、私、こないだ商店街でビビビっと来る男性と遭遇したの」

「へぇ。どんな人?」

「一瞬だったから、声をかけられなかったの…。それに、顔もあまり覚えていなくて…。たぶん普通よりはかっこいいと思うけど…」

「え?それで、なんで運命だと思ったの?」

「私、なんていうか、オーラ?そんなのが見えるの。私の魔力、すべて目に言っちゃっているから魔法は使えないんだけど、人のオーラみたいな滲み出てるものが見えるんだよね」

「へぇ、初耳だな」

「まぁ、発現したのが去年の秋で、ここ最近でようやく使いこなせるようになってきたんだ」

「へ~」

「で、でね?その人のオーラが私の運命の人って言ってたの!だから、それから商店街に行くたびにその人を探してるんだけど、なかなか遭遇しなくて…」

「それで最近商店街の方によくいるのか…」

「うん、見つけ出して、捕らえて、懇々と説得しようかと思って」

「えっ?ちょっと待って?え?なんで捕える?一歩間違えたら犯罪だよ…?」

「だって、私の思いを伝えないとだめじゃん?」

「よし、その人を見つけたら俺に連絡して。その人との話し合いの時俺も同席するから」

「え~心配いらないよ。大丈夫ってば」

「ダメ。絶対呼んで」

「まぁ、パトリスさんがそこまで言うなら仕方ない。呼んであげるよ」

「ははは…」

ご愁傷さま…。犯罪だけは防ぐから…。

パトリスは心の中で思い込みの激しい少女に好かれたまだ見ぬ憐れな男性を思った。
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