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久瀬君の揺れる想い3

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電話を切った後、なんとも言えない幸福感に包まれた。
その夜の勉強もスイスイと進み、平間先生も驚くほどだった。
「そろそろ、実技に近い練習もして行きましょう。
大学に入ってからでは、周りとの差を付けられなくなりますし。
この世界は何事も先行して優位な立場を確立しておくのが得策ですから。」
「実技?」
「先ずは、このキーホルダーキッドのマスコットを作って下さい。
針と中に入ってる、透明な糸を使って。
丁寧に。
時間を気にせず、完成形を意識して作って下さい。」
「縫合練習って訳か。」
「まあ、イメージを焼き付ける練習だと思って下さい。
イメージ通りに完成させる事が大事です。」
「なるほど…。」
確かに、キッドの中は普通だが、針が縫合用のかぎ針になっていて、糸も透明なものに変えられていた。

「それから、2月に医師免許取得の試験もあるので、そろそろ僕自身勉強しないと。
来月から別の家庭教師を連れてきます。」
「ほっ。そりゃ良かった。」
「僕のセフレです。」
「ブッ!!」
俺は思わず、飲んでいたコーヒーを吹いた。
「ガタイも良いし、僕とは全然違いますね。
ま、身体を求められる事はないでしょう。
あなたと同じ、タチ専門です。
開業医の息子で、研修期間も去年終えてますから。」
「だはー。また変態かよ!」
「ここの家に来るには、その位の個性がないと。」
ま、確かに。
普通の人間がまともでいられる空間じゃねーしな。

身体を求められないなら、逆にゴリラでもいいかな。
あーあ。
早く医者になって、こんな家とおさらばしてぇ。
医師免許があれば、どこでだってやってけるだろうし。
自分にある程度の実績があれば、あの狂ったババアを精神科に理由をつけてぶち込んでやるのに。
先は長えな。
まぁ、好き勝手やられてる分、こっちはこっちで利用出来るとこまで、トコトン利用させて貰いますよ、あんなクズ両親。

あ、そうだ来年にはダースベイダーこと大貴さんが帰って来るんだっけ…はあ。
やっぱり、今のうちに、いっぱい安東部長に甘えておこう。
そのうち…許されなくなるのなら…。
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