32 / 61
第六章
詐欺師とナナシ①
しおりを挟むバルコニーから木に乗り移れそうだな。
木にさえ乗り移れれば、どうにかなるだろう。
門まで行けば、門番が私を止める理由はない。
私はバルコニーのヘリに足をかけて、近くの木に飛び移った。
「ていっ!」
マントが広がり、ムササビみたいな飛び方になってしまった。
他人に見られてなくてよかった。
さすがに不恰好だっただろう。
ザザザッ。
木々を渡り、適当なところで地面に降りた。
「さてと、ここから門までもう少しだな。」
者の手前まで来て、後ろの城を振り返った。
アルは上手くやってくれてるだろうか。
私のアドバイスが少しでも効いてくれるといいのだが。
「これはこれは、先程は失礼致しました。
アルバック王を送り届けていただき感謝します。
お帰りの道中、お気を付けて。」
先程の門番だ。
礼儀のいい言葉に私も笑顔で返した。
「こちらこそ、とても有意義な体験をさせていただき感謝しています。
アルバック王とアルバ国に幸あれ…。」
そう言って、門の外へ足を踏み出そうとしたその時。
ウィーンウィンウィーン!
『警告、警告。
半径規定外ニ移動。
緊急モード発令。
迷子確保機能ヘ移行!
発動3秒前、2、1…』
「へ?何?何が…。」
変な音と声がした。
出どころは私の左手小指。
さっきまで単なるガラクタだったはずのリングが煌々と赤い光を放ち、勝手に腕を持ち上げた。
「0!
迷子確保開始!」
グィン‼︎
「え?えええぇええー⁉︎」
「あ!大丈夫ですかー?」
瞬時で門番の声が遠のく程に、物凄い勢いで私の小指と左手は城内へと私を引き入れた。
「うおーおおおお‼︎なんじゃこりゃ!
痛ぇ!うっ!だっ!ほわっ!」
ズズズ!ガッ!バキ!ガッ!カッシャーン!ドカッ!ズズズー!
待て待てー!痛い!痛ぇってば!
色んなもんにぶつかってるって!
足の小指がぁあ!
左腕は勝手に持ち上がり私を引き摺りながら、奥へと進んだ。
ガッ!バキ!ガッ!ドカッ!カッシャーン!ガラガラ!ボキッ!
待て待て待てー!
確かに嵌めた時、魔法などかかっていなかったぞ!
痛っつ!
落ち着いて考えを巡らせる事も出来ねぇ~!
ア~ル~!ハメやがったな~!
リングだけにな!
「うおおおおおお!てっ!おおお!」
城の使用人達も驚きのあまり、あんぐりと口を開けて立ちすくんでいた。
ガツガツとあちこちの角にぶつかり、調度品を破壊しながら、釣られたマグロの様に左腕に引き摺られ、廊下をマッハで駆け抜ける。
悲しいかな、元魔王が引き摺り回しの刑になってる絵面は、おそらくどんな話にも出てこないだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる