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第10章
ダック大臣の娘④
しおりを挟むコンコン。
「イライザ、新しく城で雇われた助言師ナナシ殿だ。
ご挨拶だけ、お願いしたい。」
「はじめましてナナシと申します。
ご挨拶に伺いました。」
「…って、帰って下さい。」
ドア越しに、挨拶するとか細く怯えた声が聞こえて来た。
「これは、極度の引っ込み思案というか、対人恐怖症というか…メンタルが心配ですね。」
「おや?
ドン引きはしないんですね。
通常この場合、この館と、この彼女の状況を見てお帰りになる方がほとんどだというのに。」
ライはちょっと驚いた顔をして私を見た。
ん?
なんだ、この違和感。
この状況下、幼馴染みでボディガードの彼が発する言葉に、愛情が感じられない。
まるで他人事だ。
人間とはこんなにも冷たい人種なのか?
「まあ、せっかくいらしたのに、すぐに追い返すのもなんです。
何せ、ダック大臣の大事なお仕事仲間ですし。
少し、お茶でもしましょうか。
僕が入れるお茶なんで、それほど味の保証はありませんが。」
「そんな、ご謙遜を。
では、少しお茶とお話しを。
私も色々と勉強しなければなりませんので。」
灯りを持ったライが私を先導して、茶室と思われる部屋へと連れて行った。
さすがに、暗闇で男2人のお茶会などシュールな映像は誰も見たくないだろう。
ライは部屋中の灯りを全て灯した。
「どうぞごゆっくり、このソファでおくつろぎを。
今、お茶を入れて来ます。」
そう言って、ライは私から離れてドアの方へ歩き出した。
私はソファに浅く腰掛けてその姿に視線を投げた。
んんん?
あれ?
えっと、アレだな。
この後ろ姿に、歩き方。
さっきは近すぎてわからなかったが。
形がこう、ちょっと大きくて。
多分、そうだ。
とすれば、さっきのは…。
考えろ、考えろ。
うーむ。
香水なんてかけなきゃよかった。
一発で気がついただろうに。
くそッ!
ライは女だ。
私はお茶を取りに部屋を出たライの後ろ姿で確信した。
歩く仕草、骨盤の形、そして香水に隠れて気が付けなかった、動物としてのメスの香り。
間違いなくライは女だ。
おそらく、ダック大臣の娘がライなのだ。
さっきの部屋にいるのは偽物。
ならば、さっきのそっけない対応も納得出来る。
偽物の単なる演技を、気に掛ける必要はない。
しかし、箱入り娘にしては格好が。
しかもこの演出。
何の為だ?
父親が勧める縁談を断り続ける為に?
だか、王妃にしたいんじゃ…。
そうか!
条件を出してるのはダック大臣じゃなく、イライザいやライの方だとしたら?
婚姻が嫌で父親に不可能に近い条件を出したのか?
考えすぎて、頭の細胞が急激に増殖してるかのようだ。
頭だけ5倍に膨れ上がった感じがして、ちょっと重たい。
「あーくそッ!
面倒だなあ!もう!」
思わず心の声が漏れ出してしまった。
ガチャ!カチャカチャ!
「どうかしましたか?
大きな声で。」
タイミング最悪で、ライがお茶道具をお盆に乗せて入ってきた。
うっそ、マジかぁ。
万事休すじゃないかぁ~!
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