スペースシエルさんReboot 〜宇宙生物に寄生されましたぁ!〜

柚亜紫翼

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009 - ぜんぶきこえてるし・・・ -

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009 - ぜんぶきこえてるし・・・ -


じゃり・・・

「重力弱い筈なのに浮かないね」

「そのパワードスーツに標準搭載されてる機能だな」

「ねぇニート、何で身体が浮かないのかな?」

「凄ぇ長くなるが分かるように説明してやろうか?」

「・・・いや、いいです」

僕は今パワードスーツを着て拠点の内部に降り立っています、宇宙船に居るニートと普通に会話しているけど実は不安と恐怖で震えが止まりません。

安全なステーションの無重力区画や人が居住可能な惑星には何度も降りた事あるの、でも生命維持装置が機能していない廃墟に入るのなんて普通に生活してる人なら一生に一度もないと思う、もちろん僕も初めてなのです。

拠点の中は宇宙船の照明に照らされているのに薄暗く、所々に金属の壁や何に使うのか分からない制御装置が見えます、でも壁の大半が石を積み上げて出来ていて歴史資料で見た事がある古代遺跡のような雰囲気・・・。

「奥の天井、穴が空いてるね」

少し歩いて周りの様子を確認すると奥に続く通路が崩壊していました、幸い地表までは貫通していないようで、天井が押し潰されて岩や砂が散乱しています。

「今から600年くらい前に落ちて来た隕石にやられて崩れた、損傷が酷過ぎて修復は諦めてそのまま放置してるんだ」

「それなら僕達がここに来る意味無かったよね」

「いや、そんな事は無ぇぜ」

「え?」

「まずシエルにやってもらいたい事がある、ここは電源が死んでるから俺様が遠隔操作出来ねぇんだ、船の正面にあるでかい扉を手動で開けてくれ、横にあるハンドルを左に回せば開く」

僕は部屋の奥に進み扉の開閉ハンドルを回しました、重そうなハンドルなのにパワードスーツのおかげで簡単に動きます、スーツのモニターに表示された出力は僕の筋力の15倍・・・これ生身だと絶対動かないやつだ。

ごっ・・・ごごごご・・・・ぎぎぎっ・・・ごとっ・・・

「全部開いたけど・・・これでいい?」

扉の奥には石の壁があって、他には何もありません。

「いいぜ、正面の壁を見てろ・・・」

ニートに言われるまま僕は崩れかけた石の壁を見上げました、それにしてもパワードスーツのおかげで杖を使わずに自分の足で自由に歩けるのって楽しいな・・・。

「あ、サークルが現れて光った・・・でもすぐ消えたよ」

「くそっ・・・魔法陣まで壊れてやがったか・・・すまねぇシエル、こいつが起動すると思ってここまで来たが無駄足だったようだ」

「起動したらどうなるの?」

「今この星団にある拠点に自由に転移できる、ここの魔法陣を使って行こうと思ってた」

「そんな事できるの?、転送ゲートだって距離に制限があるのに」

「この星団の技術じゃそうだな、ローゼリアからこのランサー星系までなら転送ゲートを47回も通らなきゃならねぇが、こいつを使えばどんなに遠くても一瞬で移動できるぜ」

「わぁ・・・凄いけど壊れてるんだよね、これからどうするの?」

「ここから一番近い次の拠点はランサー星系第8惑星の更に外側を回ってる小惑星だ、少し遠いが行ってみようぜ」

「うん・・・」

がらがら・・・

ざざっ・・・

「シエル、何してんだよ」

「いや、崩落してる通路の奥はどうなってるのか気になったから・・・岩を退けたら行けるかなって」

「下手に動かして残ってる岩が崩落したら生き埋めになるぜ・・・って言ってもそのパワードスーツがあれば出て来れるか・・・確か俺様の記憶が確かなら培養中の素体や実験材料もそのままだったような気がするな」

「え・・・培養?、実験材料?、何それ」

「・・・何でもねぇ、忘れてくれ」

「凄く気になるんだけど!」

「まぁいいじゃねぇか、この通路の先は寝泊まりできる部屋と保管庫、それに研究施設があった、だが誰も手入れしてねぇ状態で600年以上経ってるんだ、もう使い物にならねぇだろ、諦めて早く次の拠点に行こうぜ」

「第8惑星の外周・・・遠いなぁ・・・」

「・・・仕方ねぇだろ、だが拠点に辿り着けばあとは楽だぜ、この星団のどこにでも行き放題だ、例えばここから反対側の辺境エリア、ネガゾーン23にも行けるぜ、普通に行けば転送ゲートを目一杯利用しても1000日以上かかる距離だな、近いうちに行こうと思ってる」

「ネガゾーン23って危険過ぎて閉鎖されてる宙域だよね!、そんな場所になんて行きたくないよ!・・・僕はお父さん達を探したいだけで別に星団中を旅行したい訳じゃないの、ニートはそこで何する気なの?」

「俺様は少し用がある」

「用って何?」

「気にするな、ちょっとした用事だ」

「・・・ニート、何をするのか僕に言ってくれてもいいと思うの、勝手に訳の分からない事しないでよ、僕がマスターなのに・・・ぐすっ」

「泣くなよ・・・そのうち説明してやるから」

「・・・」

「さて、もうここに用は無ぇな、あいつらを見つけて魔法陣を修復すればまだ使えるだろう、シエル、出発するから船に入れ」

「うん・・・」





プシュー・・・

「ただいまニート・・・怖かったぁ・・・それにパワードスーツのセンサーやケーブルが身体に絡み付いて今日みたいに沢山動くと感じちゃって・・・」

「気持ちよかっただろう、内股でぎこちなく歩いてたからそんな事だろうと思ってたぜ、防護服の中ぐちゃぐちゃに濡れてるんじゃねぇのか?」

「なっ・・・なんて事言うのニート!」

「俺様相手に恥ずかしがる事無ぇだろ・・・そのうち慣れる、出発するから操縦席に座れ」

「うん・・・その前に防護服の中を洗浄して来るの・・・」

「ぐちゃぐちゃに濡れてるからか?」

「・・・」

ピッ・・・救難信号を受信しました。

「チッ・・・星の裏側で戦ってた奴か・・・これは大破したから船が自動的に信号を出してるようだ、洗浄は後だ、現場に行くんだろ?」

「えぇ・・・やだなぁ・・・怖いよぅ」

「だが確認だけでもしねぇとバレた時に処罰されるぜ、罰金も取られるが良いのか?」





しゅぅぅぅぅ・・・

「わぁ・・・」

拠点を出てから丸一日かけて信号が出されていた場所に到着しました、周りはまるで宇宙船の墓場みたいな状態・・・恒星ランサーの光を第5惑星が反射して全体的に薄赤いのも不気味さに拍車をかけています。

「酷ぇな、ほとんど大破してやがる・・・たかが一機の小型艇相手に盗賊の奴らどれだけ沈められてんだよ」

「いち・・・にー・・・さん・・・」

「シエルは時々馬鹿な事するよな、数えられる訳ねぇだろ!・・・俺様の探知機能だとおよそ150隻だ、ほとんどが一般的な宙賊が使う小型や中型艇だな、他には軍用の駆逐艦クラスが5隻、巡洋艦が3隻入ってるぜ」

「これだけの残骸の中から生存者を探すの大変そう・・・」

「いや・・・俺様には丸見えだぜ、生きてる奴は合計8人で信号の出てる場所に1人居る、こいつが被害者だろう、他の7人は盗賊だから放置でいいよな!」

「そうだね、船に入れて暴れられても困るし、一応星団管理局に座標と盗賊にも生存者が居る事は知らせておこう」

「よし、情報の送信終わったぜ!・・・救助しろって言われる前に撤収するか」

「え!、被害者助けるんじゃないの?」

「何で俺様が助けなきゃいけねぇんだよ、この船に知らない奴を乗せるのは嫌だぜ」

「だって・・・ニートこの前家族連れが襲われてたら可哀想だって言ってたよね!」

「こんなに盗賊の船沈める家族連れが居てたまるかよ!、乗ってる奴はむさ苦しい野郎に決まってらぁ!」

「でも管理局の船がここに来るまで放っておいたら死んじゃうよ!」

「・・・」

「・・・」














ざわざわ・・・

ローゼリアの惑星観光船、家族割引がお得・・・

第186番ドックに大型貨物船が入ります、関係者は至急・・・

「んっ・・・やっと定時かぁ・・・今日はステーションの入港数多かったからほとんど休憩無し・・・足が疲れたし早く帰って寝よ」

コツ・・・コツ・・・コツ・・・

がやがや・・・

わいわい・・・

バタン・・・

「あ、フェルミスさん、お疲れ様」

「・・・お疲れ様です」

「ねぇ、今日これから検疫係のみんなで飲みに行くんだけど、フェルミスさんも一緒に行かない?」

「ちょっと・・・リジー・・・」

「フェルミスさんっていつも早く帰っちゃって私たちとお話しあまりしないよね、だから親睦も兼ねて遊びに・・・」

「あの・・・ごめんなさい、私、これから用事があるので・・・」

「・・・そっか、じゃぁまた暇な時にでもお食事に行こうね」

「はい・・・」

「今日は4人かぁ、どこのお店にする?、実はこの前美味しいお店見つけたの!」

「本当に美味しいの?、私ミキアちゃんの美味しいって言葉信用してないんだけどー」

「わかるー、こいつの味覚大丈夫かよって思った事何度もあるし!」

「えー、ひどいよみんなー」

「・・・では、お先に失礼します、お疲れ様でした」

バタン・・・

コツッ・・・




「・・・ねぇ、フェルミスさんっていつもあんな感じなの?」

「リジーはまだここに異動になって日が浅いから知らないかぁ・・・あいつ付き合い悪いの」

「いつも澄ました顔しちゃってさ、ちょっと顔が可愛いからって調子に乗ってるのよ」

「検疫の白衣だけ脱いで宇宙服のまま帰ってるし、あんなピチピチの服で外歩いて恥ずかしくないの?って感じ、一般居住区でもあの姿で歩き回ってるみたいだよ、私の友達がショッピングモールで見たって・・・」

「胸は小さいけど細いし、スレンダー体型っていうのかな?、あれ絶対自慢してるよね!、嫌味かよ!」

「私最初見た時驚いちゃった、ベンダル・ワームの宿主かと思って・・・でもそれにしては首輪も手枷も嵌めてないでしょ」

「あー、あいつって絶対あの宇宙服脱がないよね、ここは白衣を羽織れば服装自由なのに・・・実はベアトリス患者で脱いだら皮膚が焼け爛れて死んじゃうって噂だよ」

「えー、なにそれ可哀想!」

「ミキアちゃん全然可哀想って顔してないし!、ベンダルの宿主にもやたらと優しいよね、気持ち悪くないのかよ!って、だから私は宿主来たらあいつのところに行けって言ってるの」

「あはは、ひどーい、でもベンダルの宿主にされる人って女の子が多いよね、男もいるけど・・・犯されて卵を流し込まれるなんて、自分がああなったら死んだほうがマシだよ」

「ミキアちゃん、あの子の前でベンダルの話は絶対しちゃダメだからね!、特に犯されて卵を流し込まれるってやつ!」

「え、ミリーナ先輩、何で?」

「フェルミスさんって昔、ベンダルに襲われたの、結局は助かったけど彼女を庇った親友が目の前で宿主にされたんだって、だからその話題になるとフラッシュバックっていうの?、過呼吸を起こして倒れるの、今は症状が安定してるみたいだけど・・・」

「何それ面白いじゃん」

「だ・か・ら!、倒れたら私たちが悪いって事になるでしょ!、あの子って主任のお気に入りだから怒られるの私たちだよ」

「可愛いって得だなぁ畜生・・・」





「・・・はぁ・・・全部聞こえてるし・・・うちの同僚バカばっかり・・・」

コツ・・・コツ・・・コツ・・・







ガチャ・・・

「ただいまぁ・・・」

「リンちゃんおかえりー、ご飯まだだよね」

「うん」

「今日はリンちゃんの好きな鶏肉のソテーだよ」

「うん」

「どしたの?、元気無いわね」

「・・・なんでもないよ、お母さん」
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