【暗殺貴族】短編集

八重

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短編

僕は、今、ここに(シルキー・暗殺・◆)

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「…………」


僕は冷たくなった"それ"を見下ろす。

少し前まで人間というものだったが今はただの脂肪と水分の塊だ。

そう。ただの肉の塊。


「さむ……」


まぁ、時と場合にもよるけど仕事は夜にこなす場合が殆どで、今は季節柄とても冷える。

僕は夜風で冷たくなった手をギュッと握った。

今頃、"あれ"も生きていた余韻の熱もなくなり冷えきっているだろう。

僕も同じだ。

僕もきっともう人間じゃない。

仮初めだけの熱を持っただけの人形。

ほら。だから簡単に冷たくなる。

そして冷たさは僕の手先から全身に広がる。

真っ暗な寒空の下。

僕は自分が生きているのかわからなくなってしまった。


(……はぁ、駄目だな。寒いと考え込んじゃう)


僕は余計な思考を振り払いロードの待つ車へと足早に向かった。



******



「お仕事お疲れ様です。シルキー様」

屋敷に戻るといつも通り地下部屋でリラが出迎えてくれた。

「ただいま……」

リラの顔を見た瞬間、無償に抱き締めたくなった。

抱き締めて彼女の体温を確かめたい。

「お着替えここに用意してますので」

「うん…ありがとう」

でもそんな事出来るわけない。

生命と言う熱を奪ってきたばかりの手でリラには触れられない。

彼女の"セイ"を汚すような気がして恐いから。

「あ、あと…ですね。その…も、もし嫌でしたら全然結構ですから!」

「……? 何が? 主語をはっきり言って」

「あの…今夜とても寒いからシルキー様の体も冷えてるんじゃないかと思いまして。
 ……その…簡単ですがスープ…作ったんです」

「………リラが?」

「はい…。シェフももういないので……。あ、そのっいらないなら遠慮せずに仰って下さい」

「……貰う」

「……え?」

「ちょうどお腹減ってたし。スープ…貰うよ」

「は、はいっ」

リラは嬉しそうに返事をするとスープを用意しにバタバタと部屋を出ていった。

そして僕が着替え終わる頃に、スープ皿の乗ったトレイを持ち戻ってきた。

「シルキー様どうぞ」

小さく切られた野菜が入っているコンソメスープ。

スプーンで軽く回すと黄金色のスープが光に反射してキラキラ光った。

光るスプーンを一口すくいコクリと飲む。


じわり


僕の内側から暖かいものが染み渡る。

一口飲むごとに僕は僕に戻っていく気がした。



あぁ、僕はちゃんとここにいる。

僕は、今、ここにちゃんと生きている。


「あの……いかがですか?」

「……野菜が均等に切られてないから火の通りがバラバラだね。あと胡椒が少し薄い」

「う…す、すみません」

「でも……美味しいよ」

「えっ……」

「それなりにね。じゃあ、スープありがとう」

「あっ…はい。お仕事お疲れ様でした」

リラは空になったスープ皿を見ると嬉しそうに微笑んだ。

なんだか恥ずかしくなった僕はそそくさと席を立ち、部屋をあとにしようと扉に手をかけた。

「……また今度作って」

僕がそう言うとリラは一瞬ポカンとしたがすぐに元気よく返事をした。

「はいっ! 次はもっと頑張ります!」

「うん。よろしく」



僕は、今、ここに



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