悪徳領主の息子に転生したから家を出る。泥船からは逃げるんだよォ!

葩垣佐久穂

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脈動

久しぶり

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 食費に宿代、乗合馬車代に森への入場料、獲物の少ない森。お金がかかる割に収入は少なく、その日使う分を除けば貯蓄に回せる額は僅かだった。二人が王都に着いて以降、いつ必要になるかわからないと、スライムコアの報酬には手を付けていなかったため、二人の貯金自体は合わせればそれなりにあったし、オークションが終われば追加の支払いもなされるはずであった。だた、いくら貯蓄があるとしても毎日の収支が芳しくないことをヴィクターは気にしていた。そんなヴィクターの提案で、何度目かの狩りからは乗合馬車に乗らず、トレーニングを兼ねて身体強化で走って移動を始めた。

「馬車代は節約できるし、そこまで時間もかからないからいいけど、魔力がもったいなくないか?俺はともかくヴィクターは魔力使うだろ」

「あんまり獲物がいないんだからここで使っても一緒だよ。どのみち寝れば回復するんだから使わないほうがもったいない」

「魔法使いがそういうなら」

 結局その日も森での戦果はヨツメサワギが二匹と少しの薬草だけ。往復の馬車代がないことで、プラスは増えてきたが王都の物価を考えるとまだまだ十分だとは言えなかった。

(どこまで行ってもお金がついて回ってくる。気楽に冒険ってのもうまくいかないものだな。貯蓄を崩せる性格ならよかったんだろうな)

 そんなことを考えながら朝来た道を二人で走っていると、遠くで馬車が襲われている様子が目に入ってきた。向き合って頷き合うと速度を上げて、馬車と盗賊の間に割って入った。馬車は近くの村から王都に品物を運んでいる途中で、五人組の盗賊に襲われたようだった。

「ちょっと待ったー」

 レオンが剣を構え、盗賊たちをけん制する。

「大丈夫ですか?」

 その間にヴィクターが馬車に近づいて盗賊との距離を取ることを試みる。が盗賊が簡単に許すことはなく、周囲からさらに五人が現れて完全に馬車を包囲した。

「数が多い。これ以上増えたら俺たちじゃ制圧は厳しいぞ」

「いいことを聞いたぜ。誰か狼煙を上げろッ。せっかくの獲物取り逃すな」

 煙が立ち上り、さらに増援が来ることは確実となってしまった。

「ボス。こいつらの装備、魔鉄製ですぜ」

「カモがネギしょってきやがった。これだから正義感の高いガキは扱いが楽で助かるぜ」

 二人の価値に気づいた盗賊たちは俄然やる気をだし、今にも襲い掛かろうとしている。

「まずくない?」

「めちゃくちゃまずい。だけど一人ずつ無力化していくしかない」

「さすがに手加減してたら俺たちが危ない。手足の一本ぐらいは仕方ないでいいか?」

「ああ。僕もケガをさせずに捕縛は無理だと思っていた。最悪命を奪うことになっても、馬車と僕たちの身を守るぞ」

 レオンは速度に特化した身体強化『疾走』を解除し、防御に特化した『金剛』を身に纏う。ヴィクターの手には魔力が集められている。

「いくぜ」

 飛び出したレオンが真っ先に狙ったのは増援にやってきた弓を持つ男たちだった。防戦に回るだろうと油断していた盗賊は対応できず、弓持ちが接近戦へと巻き込まれ、その利用価値を失う。数人がレオンの方へ行こうと走り出した。

「全てを呑み込み押し流せ『水槍』」

 足元に突き刺さる水の槍に恐れをなして、レオンに向かう賊の足が止まる。

「なに殺す気がねぇ魔法にビビッてやがる。剣士のガキには六人、こっちのガキには九人でかかるぞ」

 弓使いを除き、十五人まで増えた盗賊は戦力を分け、同時につぶすことを決める。

「あれ、僕の方がモテるみたい」

「所詮魔法使い。距離があれば面倒くさいが、大勢で近づけは怖くねぇ。剣士はお前を殺してからだ。人を殺せないとか甘えたこと言ってたらてめぇが死ぬぞ」

「腰の剣が見えてないのかなッ」

 ヴィクターは素早く剣を引き抜き、剣先をボスと呼ばれた男に向ける。

「ふん。剣がなんだ。殺気のない剣でどうするつもりだぁ」

「魔法って、手からじゃないと撃てないって思ってる?光れ!『ライト』」

 剣先から放たれたまばゆい光に、ヴィクターと対峙する盗賊の目はくらんだ。

「まぶしいぐらいがなんだ。切りかかれ」

「嘘だろ」

 同士討ちさえためらわない命令に驚きながらも構えた剣で応戦する。

 鋭さに魔力は充てず、硬さのみに充てることで相手を傷つけることなく防戦を続けた。

「さてどうする?ガキ。目くらましはもう食らわねぇぞ。さあ、殺すか。殺されるか。お前はどっちだァ」

 四方八方から浴びせられる剣。いくら身体強化をかけているとはいえ、限界は近づいてくる。一人の男が振り下ろした剣、ボスの剣筋がヴィクターを捉える。もはや回避は不能。二つの剣は交わり、肉を切り裂くはずだった。

(瞬遷)

 ヴィクターは隙だらけ男の背後に瞬間移動し

「放て雷伝われ痺れ『感電』」

 意識を刈り取る。

「まさか、特殊魔法か」

 原則、一人に一つ、二つとして同じものがない特殊魔法。下手をすれば身元がバレかねないと、今まで人目のあるところでは使用を避けていたヴィクターだか、命がかかっているとなれば使わざるを得なかった。一度使ってしまえば二度も三度も変わらないと、さらに四人を『感電』で即座に無力化する。

「あと四人。投降するなら今のうちだ」

「ふん。お前が善戦しようが剣士のガキが負ければお前もおしまいだ。ほら見てみろ」

 弓使いたちを気絶させ、増援に向かったうち半数の三人がすでに膝をつき、満身創痍の様子だった。

「ヴィクターほどではないとはいえ、俺だってそこそこやるんだぜ」

 防具によって強化されていることを加味してもレオンの技量は実践を経てはるかに上昇していた。一介の盗賊が太刀打ちできるレベルではない。盗賊側が圧倒的劣勢に立たされるも、ボスは戦意を喪失していない。

 突然、背後から馬の足音がいくつも聞こえてくる。ヴィクターとレオンは敵の更なる増援を警戒するが、予想に反しよく通る女の声が戦場《いくさば》に響き渡る。

「旅人の方、可能な限り殺さず、捕縛をお願いします。総員、戦闘態勢。戦闘開始!!」

 人数でも優勢になったことで数分の間に盗賊は全員が捕縛された。

「私たちは、王都近辺の町や村で作る自警団です。ご協力ありがとうございます。おかげで両者に大きなけががなく済みました」

 ヴィクターにはヘルメットで隠された奥から聞こえる声にどこか聞き覚えがあった。

「すみません。どこかでお会いしたことはありませんか?」

「ヴィクターこんなところでナンパか?ずっと南部に居たんだろ。王都近くの人と知り合いなわけないじゃないか」

 女の体が一瞬はねたと思うと鎧とヘルメット越しでもわかるほど動揺し始めた。しばらくの間愉快な動きをし続けたと思うと、意を決したようにまっすぐヴィクターの方を向いてヘルメットを上げ、顔をあらわにする。

「久しぶり、ヴィクター」

「もしかして、オリビア?」

「はい!約束通り王都に来てくださったのですね」

 仲良さげに話す二人に、レオンと、自警団の男たちはポカンと口を開けてどうすればいいのかわからなくなっていた。
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