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第7章 同族殺し
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《オースティン、動揺するなよ》
クライシスは私が混乱に呑まれないよう強く言い聞かせてきた。
《まずは目の前のジンに集中だ。他のことは考えるな、絶対に。いいな?》
「ああ、話は終わった後でだ」
《裏切者め》
突然の外部通信。エセルバートの声だった。
《片がついたらお前達を始末してやる》
《臨むところだ》強気なイーヴィルが前に出る。《行くぞ。目的は忘れず常に状況把握を怠るな。どさくさに紛れて奴らの攻撃を受けかねない》
脳内が一気に戦闘モードへ切り替わった。Aチームとの共闘なんて誰も望んでいるわけではないが、こうなったからには諦めてそうするしかない。用心しなければならないのはAチームからの攻撃、イーヴィルが背負ったオーバードウェポンの使用、最新型と思われるセロの警戒だ。
奴らも厄介だったが、それ以上に面倒だったのはジンの方だ。大きさで言うならば、以前戦った異常に巨大だった〈セデルベルイ〉ほどの図体をしているわけではないが、全長はおよそ一キロメートル。〈ノルティア〉と呼ばれるこのジンは架空生物のケルベロスという犬の姿で、狂暴な頭部が三つある。それぞれが別の意思を持ち、必要とあれば分離も可能なのだ。集合体よりも分離後の方が脅威である。ただ、体表の状態、色、時折見せるぎこちない動きからして進化直後のようなので、成体を相手にするよりは楽に戦えるだろう。
ブレードを起動して突進した際にセロとすれ違うが、その異様な装備に自然と忌避しようとする自分が内に存在していることに気付く。腕の装甲の隙間から溢れ出す暗い青色の粒子は見たこともないが、〈ノルティア〉の身体のあちこちに錆が生じている原因がセロの武器だとすぐに察することができた。短時間で金属が錆びる物質で思い当たるものは一つ、アルタシンだけだ。アルタシンはデルタ粒子とL-30が結合して発生する物質で、双方がただ触れただけではアルタシンは発生しない。ある特別な環境下でのみ互いが強く結合するというのだが、詳細は私もわからない。しかもその物質を金属の身体で扱うなんて愚かな選択だ。身を滅ぼすというのに……だがセロのボディに異常は見られない。どうなっているんだ?
「セロは要注意だ。恐らくアルタシンを実装している」
Aチームの耳に入らないよう周波数を変えて注意喚起を促したところ、即座にクライシスが反応した。
《だろうと思った。むしろ、俺達が間違えてセロを攻撃した方がよさそうだな》
《下手に刺激するなよ》イーヴィルが会話に割って入る。《荒野のスクラップにはなりたくないだろう? アルタシンかどうかも確定できない以上、対策も立てられない。奴らとの交戦はその場面に出くわした時に考える》
「了解」
クライシスの遠距離射撃が開始され、私もブレードを構えて〈ノルティア〉の隙を突こうとしたのだが、突然目の前をハンニバルが通過していき、私は攻撃のタイミングを逃してしまった。たった一匹のジンに七人が群がっているのだから仕方ないことかもしれないが、私を遮った後でハンニバルはこちらを横目で見ていたので、意図的に妨害していると予測できる。
その後も懲りずにAチームによる進路妨害は続いた。私だけではなく、イーヴィルも同様だ。幸い、クライシスだけが遠距離型なので害はなかったが、もはや〈ノルティア〉の攻撃を避け続けるだけで、私達の苛立ちが募り始める。敵が分離しても邪魔が入り、エネルギーの無駄な消費が進む一方。私達は一体何をしに来たんだ?
苛立ちがピークを迎えた時、前を横切ろうとしたルシアンをイーヴィルは唐突に殴り飛ばした。もの凄いパワーで地上へ叩き落したようで、凍り付いた空気は静寂と砂埃を迎え入れた。セロ以外の照準が一斉にイーヴィルへ向けられる。だが、ゆっくりと仲間割れができる状況でもなく、〈ノルティア〉の猛攻に他人を気にしていられるほどの余裕はあまりない。そんな中でイーヴィルは追い打ちをかけるように倒れ込むルシアンに体当たりをお見舞いし、跨って首を掴んだ状態で脅すようにブレードの矛先を顔面に近付けていた。
「イーヴィル、やめてくれ。問題を起こすなと自分で言っただろう」
《俺達の任務を妨害されて黙っていられるとでも? 冗談じゃない!》
怒鳴り散らすイーヴィルの耳にもはや私達の声は届いていない。制止しなければまずい状況だ。なんせ彼にはとんでもない兵器が搭載されている。怒りに身を任せてそれを使用してみろ、構わず私とクライシスも木っ端微塵だ。
焦る気持ちを抑え、〈ノルティア〉から分離した一体を切り裂いて機能停止に追い込み、イーヴィルの元へ駆けつけてルシアンから引き剥がした。溢れ出る憤怒でぎらついた彼の目はルシアンに釘付けだ。今、私がこの手を離せば猛獣のごとく殺しにかかるだろう。
クライシスは私が混乱に呑まれないよう強く言い聞かせてきた。
《まずは目の前のジンに集中だ。他のことは考えるな、絶対に。いいな?》
「ああ、話は終わった後でだ」
《裏切者め》
突然の外部通信。エセルバートの声だった。
《片がついたらお前達を始末してやる》
《臨むところだ》強気なイーヴィルが前に出る。《行くぞ。目的は忘れず常に状況把握を怠るな。どさくさに紛れて奴らの攻撃を受けかねない》
脳内が一気に戦闘モードへ切り替わった。Aチームとの共闘なんて誰も望んでいるわけではないが、こうなったからには諦めてそうするしかない。用心しなければならないのはAチームからの攻撃、イーヴィルが背負ったオーバードウェポンの使用、最新型と思われるセロの警戒だ。
奴らも厄介だったが、それ以上に面倒だったのはジンの方だ。大きさで言うならば、以前戦った異常に巨大だった〈セデルベルイ〉ほどの図体をしているわけではないが、全長はおよそ一キロメートル。〈ノルティア〉と呼ばれるこのジンは架空生物のケルベロスという犬の姿で、狂暴な頭部が三つある。それぞれが別の意思を持ち、必要とあれば分離も可能なのだ。集合体よりも分離後の方が脅威である。ただ、体表の状態、色、時折見せるぎこちない動きからして進化直後のようなので、成体を相手にするよりは楽に戦えるだろう。
ブレードを起動して突進した際にセロとすれ違うが、その異様な装備に自然と忌避しようとする自分が内に存在していることに気付く。腕の装甲の隙間から溢れ出す暗い青色の粒子は見たこともないが、〈ノルティア〉の身体のあちこちに錆が生じている原因がセロの武器だとすぐに察することができた。短時間で金属が錆びる物質で思い当たるものは一つ、アルタシンだけだ。アルタシンはデルタ粒子とL-30が結合して発生する物質で、双方がただ触れただけではアルタシンは発生しない。ある特別な環境下でのみ互いが強く結合するというのだが、詳細は私もわからない。しかもその物質を金属の身体で扱うなんて愚かな選択だ。身を滅ぼすというのに……だがセロのボディに異常は見られない。どうなっているんだ?
「セロは要注意だ。恐らくアルタシンを実装している」
Aチームの耳に入らないよう周波数を変えて注意喚起を促したところ、即座にクライシスが反応した。
《だろうと思った。むしろ、俺達が間違えてセロを攻撃した方がよさそうだな》
《下手に刺激するなよ》イーヴィルが会話に割って入る。《荒野のスクラップにはなりたくないだろう? アルタシンかどうかも確定できない以上、対策も立てられない。奴らとの交戦はその場面に出くわした時に考える》
「了解」
クライシスの遠距離射撃が開始され、私もブレードを構えて〈ノルティア〉の隙を突こうとしたのだが、突然目の前をハンニバルが通過していき、私は攻撃のタイミングを逃してしまった。たった一匹のジンに七人が群がっているのだから仕方ないことかもしれないが、私を遮った後でハンニバルはこちらを横目で見ていたので、意図的に妨害していると予測できる。
その後も懲りずにAチームによる進路妨害は続いた。私だけではなく、イーヴィルも同様だ。幸い、クライシスだけが遠距離型なので害はなかったが、もはや〈ノルティア〉の攻撃を避け続けるだけで、私達の苛立ちが募り始める。敵が分離しても邪魔が入り、エネルギーの無駄な消費が進む一方。私達は一体何をしに来たんだ?
苛立ちがピークを迎えた時、前を横切ろうとしたルシアンをイーヴィルは唐突に殴り飛ばした。もの凄いパワーで地上へ叩き落したようで、凍り付いた空気は静寂と砂埃を迎え入れた。セロ以外の照準が一斉にイーヴィルへ向けられる。だが、ゆっくりと仲間割れができる状況でもなく、〈ノルティア〉の猛攻に他人を気にしていられるほどの余裕はあまりない。そんな中でイーヴィルは追い打ちをかけるように倒れ込むルシアンに体当たりをお見舞いし、跨って首を掴んだ状態で脅すようにブレードの矛先を顔面に近付けていた。
「イーヴィル、やめてくれ。問題を起こすなと自分で言っただろう」
《俺達の任務を妨害されて黙っていられるとでも? 冗談じゃない!》
怒鳴り散らすイーヴィルの耳にもはや私達の声は届いていない。制止しなければまずい状況だ。なんせ彼にはとんでもない兵器が搭載されている。怒りに身を任せてそれを使用してみろ、構わず私とクライシスも木っ端微塵だ。
焦る気持ちを抑え、〈ノルティア〉から分離した一体を切り裂いて機能停止に追い込み、イーヴィルの元へ駆けつけてルシアンから引き剥がした。溢れ出る憤怒でぎらついた彼の目はルシアンに釘付けだ。今、私がこの手を離せば猛獣のごとく殺しにかかるだろう。
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