メタル・グリム・リーパー

宮崎ソウ

文字の大きさ
28 / 34
第7章 同族殺し

7-3

しおりを挟む
《オースティン、動揺するなよ》

 クライシスは私が混乱に呑まれないよう強く言い聞かせてきた。

《まずは目の前のジンに集中だ。他のことは考えるな、絶対に。いいな?》

「ああ、話は終わった後でだ」

《裏切者め》

 突然の外部通信。エセルバートの声だった。

《片がついたらお前達を始末してやる》

《臨むところだ》強気なイーヴィルが前に出る。《行くぞ。目的は忘れず常に状況把握を怠るな。どさくさに紛れて奴らの攻撃を受けかねない》

 脳内が一気に戦闘モードへ切り替わった。Aチームとの共闘なんて誰も望んでいるわけではないが、こうなったからには諦めてそうするしかない。用心しなければならないのはAチームからの攻撃、イーヴィルが背負ったオーバードウェポンの使用、最新型と思われるセロの警戒だ。

 奴らも厄介だったが、それ以上に面倒だったのはジンの方だ。大きさで言うならば、以前戦った異常に巨大だった〈セデルベルイ〉ほどの図体をしているわけではないが、全長はおよそ一キロメートル。〈ノルティア〉と呼ばれるこのジンは架空生物のケルベロスという犬の姿で、狂暴な頭部が三つある。それぞれが別の意思を持ち、必要とあれば分離も可能なのだ。集合体よりも分離後の方が脅威である。ただ、体表の状態、色、時折見せるぎこちない動きからして進化直後のようなので、成体を相手にするよりは楽に戦えるだろう。

 ブレードを起動して突進した際にセロとすれ違うが、その異様な装備に自然と忌避しようとする自分が内に存在していることに気付く。腕の装甲の隙間から溢れ出す暗い青色の粒子は見たこともないが、〈ノルティア〉の身体のあちこちに錆が生じている原因がセロの武器だとすぐに察することができた。短時間で金属が錆びる物質で思い当たるものは一つ、アルタシンだけだ。アルタシンはデルタ粒子とL-30が結合して発生する物質で、双方がただ触れただけではアルタシンは発生しない。ある特別な環境下でのみ互いが強く結合するというのだが、詳細は私もわからない。しかもその物質を金属の身体で扱うなんて愚かな選択だ。身を滅ぼすというのに……だがセロのボディに異常は見られない。どうなっているんだ?

「セロは要注意だ。恐らくアルタシンを実装している」

 Aチームの耳に入らないよう周波数を変えて注意喚起を促したところ、即座にクライシスが反応した。

《だろうと思った。むしろ、俺達が間違えてセロを攻撃した方がよさそうだな》

《下手に刺激するなよ》イーヴィルが会話に割って入る。《荒野のスクラップにはなりたくないだろう? アルタシンかどうかも確定できない以上、対策も立てられない。奴らとの交戦はその場面に出くわした時に考える》

「了解」

 クライシスの遠距離射撃が開始され、私もブレードを構えて〈ノルティア〉の隙を突こうとしたのだが、突然目の前をハンニバルが通過していき、私は攻撃のタイミングを逃してしまった。たった一匹のジンに七人が群がっているのだから仕方ないことかもしれないが、私を遮った後でハンニバルはこちらを横目で見ていたので、意図的に妨害していると予測できる。

 その後も懲りずにAチームによる進路妨害は続いた。私だけではなく、イーヴィルも同様だ。幸い、クライシスだけが遠距離型なので害はなかったが、もはや〈ノルティア〉の攻撃を避け続けるだけで、私達の苛立ちが募り始める。敵が分離しても邪魔が入り、エネルギーの無駄な消費が進む一方。私達は一体何をしに来たんだ?

 苛立ちがピークを迎えた時、前を横切ろうとしたルシアンをイーヴィルは唐突に殴り飛ばした。もの凄いパワーで地上へ叩き落したようで、凍り付いた空気は静寂と砂埃を迎え入れた。セロ以外の照準が一斉にイーヴィルへ向けられる。だが、ゆっくりと仲間割れができる状況でもなく、〈ノルティア〉の猛攻に他人を気にしていられるほどの余裕はあまりない。そんな中でイーヴィルは追い打ちをかけるように倒れ込むルシアンに体当たりをお見舞いし、跨って首を掴んだ状態で脅すようにブレードの矛先を顔面に近付けていた。

「イーヴィル、やめてくれ。問題を起こすなと自分で言っただろう」

《俺達の任務を妨害されて黙っていられるとでも? 冗談じゃない!》

 怒鳴り散らすイーヴィルの耳にもはや私達の声は届いていない。制止しなければまずい状況だ。なんせ彼にはとんでもない兵器が搭載されている。怒りに身を任せてそれを使用してみろ、構わず私とクライシスも木っ端微塵だ。

 焦る気持ちを抑え、〈ノルティア〉から分離した一体を切り裂いて機能停止に追い込み、イーヴィルの元へ駆けつけてルシアンから引き剥がした。溢れ出る憤怒でぎらついた彼の目はルシアンに釘付けだ。今、私がこの手を離せば猛獣のごとく殺しにかかるだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...