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第8章 ゼロ距離
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イーヴィルが回復した後も私達が技術チームと会話を交わすことはなかった。というより、最大の被害者でもあるイーヴィルが言葉を投げ合うことを許さなかった。堪忍袋の緒が切れたわけではなかったが、人間への憎しみがあまりにも巨大化しすぎて無意識のうちに彼らの存在を無視し始めたのだ。全ては自己防衛のため。強い感情で自分が潰れてしまうことを防いでいるのだ。そうでもしなければ私達は感情剥奪手術を受けなかったことを後悔するはめになってしまう。
ひたすらに情報収集と奪い取ってきたアルバ内部の機密情報の解析と計画の組み立てをするばかりの日々が過ぎて行く。その間、何度か外のセンサーがジンの反応を知らせていたが、不要な戦いを避けるためずっと基地にこもりきりである。だが、やりたいことだけをやる生活はそれほど長くは続かないものだ。
センサーがいつも以上にけたましく鳴った後、警報は中途半端に消えてしまった。誰かがスイッチをオフにしたわけでもなく、ひとりでにブザーは口を閉ざしてしまったのだ。さすがにそれには違和感があったので管理室に顔を出し調査してみると、センサーが発したブザーがオフになったわけはセンサーそのものが破壊されたことが理由だった。
「確認に向かった方がよさそうだ」完成した新しい腕を手に入れたイーヴィルは他のセンサーの状況も見ながら発言する。「周辺のL-30の濃度がかなり高い。放置しておくのは危険だ」
「また悪夢が蘇るな」
呟いたクライシスの一言で私達は黙りこくった。
今でも時たま思い出す悪夢。チームがまだ六人編成だった数年前、ある日の討伐対象が今回予想されるジンだった。たった数十分で三人が死んだ。私も酷い目に遭った。その相手は〈カールステッド〉と呼ばれる、小型に分類されるサソリ型のジンである。奴と戦ったあの日、私よりも後に加入した三人のシニガミが命を落とし、現在まで私達の中に絶対的な悪夢として刻まれている。何故、三人のシニガミが死んだのか? それは〈カールステッド〉が体表から高濃度のL-30を放出し、あまり解明されていない猛毒とシニガミとの相性が最悪だったことが原因だ。できることならもう二度と出会いたくない。しかし、奴が付近を徘徊することは危険であるし、奴を排除できるのは私達だけ。基地を守るため、身体が震え上がる悪夢に再び頭を突っ込まなければならない。
「誰も死なせない」イーヴィルが覚悟を決めたように断言した。「早急に決着をつける」
「待ってくれ!」居合わせたヒューイが割り込んできた。「話が……」
「お前達に投げる言葉はない」
話を聞こうともせず切り捨て、イーヴィルは管理室を飛び出す。私とクライシスもそれに続き、ヒューイが何を言おうとしたのか興味すら持たなかった。
地上の格納庫で防弾コートを羽織り、自分達でそれぞれ協力し合ってWMBを装着。不安要素が集約されたマスクをつけた。〈カールステッド〉を相手にする場合、注意すべきは高濃度L-30と尾の先から滴る猛毒の液。大気中のL-30のほとんどはこのマスクと私達の喉にあるフィルターでろ過されるが、予想外の濃度の高さに完璧な処理ができるかわからない。前回はこれでフィルターが詰まってしまい苦しさのあまりのたうち回った。改良は施されたが、やはり個体によって濃度は変化する。またあの感覚を味わうのかと考えただけで出撃が億劫だ。下手にL-30が体内に侵入すれば、低確率だがエネルギー源でもあるデルタ粒子と結合してアルタシンが生成される事態になり、身体の内側から腐敗が始まってしまう。尾の猛毒もひとたび体内に入ればデルタ粒子と化学反応を起こして固形化、エネルギーの流れが止まって死に至る。三人が死んだのもこれが原因である。その時、アルバの研究員に言われたのは、お前達は常日頃から諸刃の剣を握っているから死んでも仕方がない、だ。さすがに言葉を失ったが、ジンを殺すための兵器として作られた以上、仕方がないことだと必死に納得させていた。いくら目的のためとはいえ、シニガミになることを選択した自分を何度も責めていたのが懐かしい。後戻りができない現実に心が折れかけたことは数え切れないほどある。今ではそう思うことはほとんどなくなったが、それでも元の身体に戻りたいと思わずに済む日々は訪れない。
WMBへのエネルギー供給を開始した時、いるはずがない同期の声が聞こえた気がした。隣にいるぞ、と。私はつい右へ顔を向けてしまったが、そこには真剣な面持ちをしたイーヴィルが立っているだけ。彼は私の視線に気付き、前を向けと顎で促す。
人間の聴力では決して拾うことができない超高音を感じながら改めて前方を見つめ、格納庫のドアをクライシスが開けた。三人とも位置につき、WMBへのエネルギー供給率が安定したことを確認すると両足を固定していた枷が外れ、空気抵抗を押し退けながら地上から足が離れて外界へ突撃する。
日の出前の薄暗い大空。濁った膜でも張ったような空は見ていて何も楽しくない。美しいと感じる者は恐らく存在しないだろう。どこまでも延々と続き、私達の視界に執拗に入り込む。迷惑で、汚らわしくて、どうしようもないこの自然を、いっそのこと切り捨ててしまいたいと私は思っていた。ヒューイの研究(基地に移動してから続けているかは不明)がいつ実を成すか行き先不透明であるし、もういいのでは、と。このまま大気汚染が改善されなければいずれ世界は滅びの道を辿るのだから。
《敵影発見、戦闘準備開始!》
イーヴィルからの通信が悪魔との対峙を確定させる。
不快だった。粘着質の液体を体表から放出し、気化したL-30が周囲を漂っていた。もはや空気の色が違う。黒く、暗い紫色のような、まるで毒ガスとも言える気体がこの空間に凝縮されている。敵を目の前にしてもなお、マスクの不安が拭え切れない。しかし、後戻りするにはもう遅く、自身に搭載されている器官を信じて交戦に持ち込むしかない。
《尾の切断を最優先に動け。散開!》
命令を何度も脳内で復唱しながら隊形から外れて〈カールステッド〉の背後へと回ろうと移動する。敵から視線を逸らさず常に身体の正面を向けたまま横滑りで動き、おおよそ七〇〇メートルの小柄な身体を観察しながら振り回される尾にターゲットを定める。
放出されるL-30は予想以上に高濃度だった。直径一〇メートル以内に入ると視界に危険という文字が現れて点滅する。つまりは喉のフィルターでろ過できる汚染物質の許容量を超えているというわけだ。下手に接近すれば再びフィルターが詰まりを起こしてしまう。この様子では長期戦は無理だと判断できるし、早めに敵のコアを潰しにかからなければ死に一直線だ。
「イーヴィル、さすがに接近戦は危険だぞ……!」
《構わず行け。二〇分なら耐えられるはずだ。どうにかしてでも尾を封じないとどのみち死ぬぞ》
大体の予想はついていたが、その通りの返事があったので私は腹を決め、一時的に警報装置をオフにした。これで接近しても警報は鳴らない。勝負は二〇分。これで片がつかなければ私達はシニガミ人生をここで終えることになる。タイマーを二〇分でセット、数字が激しく減少する。
クライシスが放つデルタ砲の雨が〈カールステッド〉に降り注ぐ。硬い皮膚を覆うように噴き出す液状のL-30に直撃すると蒸発して白い煙が上がった。恐らくL-30は体内から湧いているため引き剥がすことは不可能だろう。尾を切断した後、あの蒸発から再生の間にいかにしてコアの破壊への道を確立するかが勝負の決め手だ。〈セデルベルイ〉の時のように遠距離でやるか、私とイーヴィルのどちらかが犠牲を払ってブレードを突き立てるか……考えるだけでも嫌になる。
背後に回り込んだ時、尾の先端から滴る毒液に恐怖を覚える。仲間が死んでいった時の悲鳴が脳内を反響し始めた。ただ、同時に怒りも込み上げてきて、例え別の個体でも仇を取らなければならない衝動に駆られる。徐々に周囲が見えなくなってくる。スカイロードに遭遇した時のように暴走しかけるのが自分でもわかったが、それを抑制する術を知らない私は無意識のうちに右手のブレードを起動していた。
体内のエネルギー生成器の熱が上昇し、ブレードに送り込むデルタ粒子が無駄とも思える量に達していた。暴走が始まった私はそれにすら気付かない。デストロゲニックを探知しようと視界を切り替えていたクライシスが注意を促す。
《おい、オースティン! 体温の上昇を控えろ!》
私はそれに対して返事をしないまま接近して揺れ動く尾に張り付き、防弾コートと装甲が溶け出す感覚がありつつも気にせず忌々しい尾をブレードで断ち切った。それに〈カールステッド〉は悲鳴を上げ、驚きで身体が飛び跳ねて体勢が崩れる。地面に落下した尾を私は執拗に何度も、何度もブレードで突き刺して粉々にしてやった。装甲に付着したL-30は気化して消えたものの、身体のあちこちに融けた跡が残る。気にも留めなかった。
《無茶なことを……》呆れ声のイーヴィル。《理性を保て。野蛮な方法じゃ自分も傷付いてしまう。死んだ仲間のことは今は忘れろ》
「なかったことにするというのか?」
《違う。戦闘中だということをわかっているのか? 死んだら仲間に合わせる顔もない。仇を打とうと思っているのはお前だけなじゃない、俺も、クライシスも同じだ。だが、復讐の意味をはき違えるなよ? 自分も死んだらそれはただの愚かな自滅だ》
その言葉に、はっと我に返る。そして、冷静に思考を巡らせる。死んでいった仲間が私達が自滅してでも奴を倒すことを喜ぶだろうか? いいや、きっと悲しむ。彼らはそのような結果を求めてはいない。三人揃っての帰還こそが〈カールステッド〉への復讐の成功だ。
「私が悪かった」エネルギー生成器の異常な稼働率を下げながら言った。「すまない」
《わかればいい》
《良い話の途中ですまないが、コアの位置を特定したぞ》
黙って射撃を続けていたクライシスが喜びを抑えた声で言った。
《コアは薄皮一枚に守られて腹部に存在しているぞ。奴の腹を拝むにはひっくり返さなければならないが……どうする?》
「腹を上に向かせるのは厳しい。脚を全て切り落として、行動不能になった時を見計らってブレードを背中から突き刺し、コアを破壊するのがいいだろうな。ダメージは覚悟の上だ」
《どの方法でもリスクは避けられないか……仕方ない、それでいこう》
イーヴィルの一言で作戦が確定。止まらないタイマーの残りはあと一〇分ほど。早急に決着をつけるべく各自が的確な位置に移動を開始する。
ひたすらに情報収集と奪い取ってきたアルバ内部の機密情報の解析と計画の組み立てをするばかりの日々が過ぎて行く。その間、何度か外のセンサーがジンの反応を知らせていたが、不要な戦いを避けるためずっと基地にこもりきりである。だが、やりたいことだけをやる生活はそれほど長くは続かないものだ。
センサーがいつも以上にけたましく鳴った後、警報は中途半端に消えてしまった。誰かがスイッチをオフにしたわけでもなく、ひとりでにブザーは口を閉ざしてしまったのだ。さすがにそれには違和感があったので管理室に顔を出し調査してみると、センサーが発したブザーがオフになったわけはセンサーそのものが破壊されたことが理由だった。
「確認に向かった方がよさそうだ」完成した新しい腕を手に入れたイーヴィルは他のセンサーの状況も見ながら発言する。「周辺のL-30の濃度がかなり高い。放置しておくのは危険だ」
「また悪夢が蘇るな」
呟いたクライシスの一言で私達は黙りこくった。
今でも時たま思い出す悪夢。チームがまだ六人編成だった数年前、ある日の討伐対象が今回予想されるジンだった。たった数十分で三人が死んだ。私も酷い目に遭った。その相手は〈カールステッド〉と呼ばれる、小型に分類されるサソリ型のジンである。奴と戦ったあの日、私よりも後に加入した三人のシニガミが命を落とし、現在まで私達の中に絶対的な悪夢として刻まれている。何故、三人のシニガミが死んだのか? それは〈カールステッド〉が体表から高濃度のL-30を放出し、あまり解明されていない猛毒とシニガミとの相性が最悪だったことが原因だ。できることならもう二度と出会いたくない。しかし、奴が付近を徘徊することは危険であるし、奴を排除できるのは私達だけ。基地を守るため、身体が震え上がる悪夢に再び頭を突っ込まなければならない。
「誰も死なせない」イーヴィルが覚悟を決めたように断言した。「早急に決着をつける」
「待ってくれ!」居合わせたヒューイが割り込んできた。「話が……」
「お前達に投げる言葉はない」
話を聞こうともせず切り捨て、イーヴィルは管理室を飛び出す。私とクライシスもそれに続き、ヒューイが何を言おうとしたのか興味すら持たなかった。
地上の格納庫で防弾コートを羽織り、自分達でそれぞれ協力し合ってWMBを装着。不安要素が集約されたマスクをつけた。〈カールステッド〉を相手にする場合、注意すべきは高濃度L-30と尾の先から滴る猛毒の液。大気中のL-30のほとんどはこのマスクと私達の喉にあるフィルターでろ過されるが、予想外の濃度の高さに完璧な処理ができるかわからない。前回はこれでフィルターが詰まってしまい苦しさのあまりのたうち回った。改良は施されたが、やはり個体によって濃度は変化する。またあの感覚を味わうのかと考えただけで出撃が億劫だ。下手にL-30が体内に侵入すれば、低確率だがエネルギー源でもあるデルタ粒子と結合してアルタシンが生成される事態になり、身体の内側から腐敗が始まってしまう。尾の猛毒もひとたび体内に入ればデルタ粒子と化学反応を起こして固形化、エネルギーの流れが止まって死に至る。三人が死んだのもこれが原因である。その時、アルバの研究員に言われたのは、お前達は常日頃から諸刃の剣を握っているから死んでも仕方がない、だ。さすがに言葉を失ったが、ジンを殺すための兵器として作られた以上、仕方がないことだと必死に納得させていた。いくら目的のためとはいえ、シニガミになることを選択した自分を何度も責めていたのが懐かしい。後戻りができない現実に心が折れかけたことは数え切れないほどある。今ではそう思うことはほとんどなくなったが、それでも元の身体に戻りたいと思わずに済む日々は訪れない。
WMBへのエネルギー供給を開始した時、いるはずがない同期の声が聞こえた気がした。隣にいるぞ、と。私はつい右へ顔を向けてしまったが、そこには真剣な面持ちをしたイーヴィルが立っているだけ。彼は私の視線に気付き、前を向けと顎で促す。
人間の聴力では決して拾うことができない超高音を感じながら改めて前方を見つめ、格納庫のドアをクライシスが開けた。三人とも位置につき、WMBへのエネルギー供給率が安定したことを確認すると両足を固定していた枷が外れ、空気抵抗を押し退けながら地上から足が離れて外界へ突撃する。
日の出前の薄暗い大空。濁った膜でも張ったような空は見ていて何も楽しくない。美しいと感じる者は恐らく存在しないだろう。どこまでも延々と続き、私達の視界に執拗に入り込む。迷惑で、汚らわしくて、どうしようもないこの自然を、いっそのこと切り捨ててしまいたいと私は思っていた。ヒューイの研究(基地に移動してから続けているかは不明)がいつ実を成すか行き先不透明であるし、もういいのでは、と。このまま大気汚染が改善されなければいずれ世界は滅びの道を辿るのだから。
《敵影発見、戦闘準備開始!》
イーヴィルからの通信が悪魔との対峙を確定させる。
不快だった。粘着質の液体を体表から放出し、気化したL-30が周囲を漂っていた。もはや空気の色が違う。黒く、暗い紫色のような、まるで毒ガスとも言える気体がこの空間に凝縮されている。敵を目の前にしてもなお、マスクの不安が拭え切れない。しかし、後戻りするにはもう遅く、自身に搭載されている器官を信じて交戦に持ち込むしかない。
《尾の切断を最優先に動け。散開!》
命令を何度も脳内で復唱しながら隊形から外れて〈カールステッド〉の背後へと回ろうと移動する。敵から視線を逸らさず常に身体の正面を向けたまま横滑りで動き、おおよそ七〇〇メートルの小柄な身体を観察しながら振り回される尾にターゲットを定める。
放出されるL-30は予想以上に高濃度だった。直径一〇メートル以内に入ると視界に危険という文字が現れて点滅する。つまりは喉のフィルターでろ過できる汚染物質の許容量を超えているというわけだ。下手に接近すれば再びフィルターが詰まりを起こしてしまう。この様子では長期戦は無理だと判断できるし、早めに敵のコアを潰しにかからなければ死に一直線だ。
「イーヴィル、さすがに接近戦は危険だぞ……!」
《構わず行け。二〇分なら耐えられるはずだ。どうにかしてでも尾を封じないとどのみち死ぬぞ》
大体の予想はついていたが、その通りの返事があったので私は腹を決め、一時的に警報装置をオフにした。これで接近しても警報は鳴らない。勝負は二〇分。これで片がつかなければ私達はシニガミ人生をここで終えることになる。タイマーを二〇分でセット、数字が激しく減少する。
クライシスが放つデルタ砲の雨が〈カールステッド〉に降り注ぐ。硬い皮膚を覆うように噴き出す液状のL-30に直撃すると蒸発して白い煙が上がった。恐らくL-30は体内から湧いているため引き剥がすことは不可能だろう。尾を切断した後、あの蒸発から再生の間にいかにしてコアの破壊への道を確立するかが勝負の決め手だ。〈セデルベルイ〉の時のように遠距離でやるか、私とイーヴィルのどちらかが犠牲を払ってブレードを突き立てるか……考えるだけでも嫌になる。
背後に回り込んだ時、尾の先端から滴る毒液に恐怖を覚える。仲間が死んでいった時の悲鳴が脳内を反響し始めた。ただ、同時に怒りも込み上げてきて、例え別の個体でも仇を取らなければならない衝動に駆られる。徐々に周囲が見えなくなってくる。スカイロードに遭遇した時のように暴走しかけるのが自分でもわかったが、それを抑制する術を知らない私は無意識のうちに右手のブレードを起動していた。
体内のエネルギー生成器の熱が上昇し、ブレードに送り込むデルタ粒子が無駄とも思える量に達していた。暴走が始まった私はそれにすら気付かない。デストロゲニックを探知しようと視界を切り替えていたクライシスが注意を促す。
《おい、オースティン! 体温の上昇を控えろ!》
私はそれに対して返事をしないまま接近して揺れ動く尾に張り付き、防弾コートと装甲が溶け出す感覚がありつつも気にせず忌々しい尾をブレードで断ち切った。それに〈カールステッド〉は悲鳴を上げ、驚きで身体が飛び跳ねて体勢が崩れる。地面に落下した尾を私は執拗に何度も、何度もブレードで突き刺して粉々にしてやった。装甲に付着したL-30は気化して消えたものの、身体のあちこちに融けた跡が残る。気にも留めなかった。
《無茶なことを……》呆れ声のイーヴィル。《理性を保て。野蛮な方法じゃ自分も傷付いてしまう。死んだ仲間のことは今は忘れろ》
「なかったことにするというのか?」
《違う。戦闘中だということをわかっているのか? 死んだら仲間に合わせる顔もない。仇を打とうと思っているのはお前だけなじゃない、俺も、クライシスも同じだ。だが、復讐の意味をはき違えるなよ? 自分も死んだらそれはただの愚かな自滅だ》
その言葉に、はっと我に返る。そして、冷静に思考を巡らせる。死んでいった仲間が私達が自滅してでも奴を倒すことを喜ぶだろうか? いいや、きっと悲しむ。彼らはそのような結果を求めてはいない。三人揃っての帰還こそが〈カールステッド〉への復讐の成功だ。
「私が悪かった」エネルギー生成器の異常な稼働率を下げながら言った。「すまない」
《わかればいい》
《良い話の途中ですまないが、コアの位置を特定したぞ》
黙って射撃を続けていたクライシスが喜びを抑えた声で言った。
《コアは薄皮一枚に守られて腹部に存在しているぞ。奴の腹を拝むにはひっくり返さなければならないが……どうする?》
「腹を上に向かせるのは厳しい。脚を全て切り落として、行動不能になった時を見計らってブレードを背中から突き刺し、コアを破壊するのがいいだろうな。ダメージは覚悟の上だ」
《どの方法でもリスクは避けられないか……仕方ない、それでいこう》
イーヴィルの一言で作戦が確定。止まらないタイマーの残りはあと一〇分ほど。早急に決着をつけるべく各自が的確な位置に移動を開始する。
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