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#43 同伴喫茶

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 『くそっ! やっちまった!』
いつも行く喫茶店が来週まで改装中なので、
俺たちは別の喫茶店に入った。
後ろからついてくるクズ共がウザくなり、
適当にこの店に決めたんだが…


店内は薄暗い…
こう云う趣向かとも思ったんだが
席に通され通路側をカーテンで仕切られて
気が付いた……


テーブルに大きめなソファが1つ
………
『これは…彼氏アピールどころじゃない!
俺の品位が疑われる!』


「せ…瀬戸くん…ここ暗いよ?」
真古都は店内の暗さで俺を見失わないよう
俺にしがみついている


「まぁ、如何わしいことには変わらないからな…よく確かめもせず入った俺も悪かった…
お前が不安なら店をかえよう」
俺は暗さでハッキリ顔が判らない為、耳元に近づいて話した。


その時賑やかな話し声が近づいてきた。
「あいつらの席こっちだって!うまくしっぽ掴んでやろうぜ」
一体何のしっぽだクズ共め!


「わ…わたし…こんな処初めてで…でも瀬戸くんと一緒なら平気…」
真古都は俺と一緒なら平気だと言ってくれる。


「いいのか?」
「瀬戸くんに任せておけば、大丈夫な気がするから」


〔おい、任せるとか聞こえたぞ!〕
〔何を任せるんだ?やっぱり瀬戸も
目的は俺たちと一緒なんじゃないか?〕


後ろからボソボソと…
なんだよ目的って!


俺は後ろのクズ共に呆れながら、改めて真古都の手を握った。
「ど…どうしたの?」
「いや…
本当に俺が触っても大丈夫なのかと思って
家に帰ってからとか、後でこっそり洗ってない?
俺、知らなかったとは云え、いろんな所触っただろ?」
「し…してないよ!」


〔おい、触るとか聞こえたぞ〕


「真古都、もう少し傍に来て触らせて」
「えっ?」


俺は真古都を自分の膝の上に抱えた。
多分、暗くて顔がよく判らないから出来たんだ。
「本当に俺が触っても大丈夫なんだ?」
「だからそう言ってるのに…
瀬戸くんのいじわる…」
真古都が困った様子で、俺の膝の上に小さくなっている。


〔なんて言ってる?〕
〔なんかうまく聞こえない〕


俺は腹を決める


「それじゃあ、ご期待に応えて
もう少しいじわるするかな」
「えっ?」


膝の上の真古都をもっと抱き寄せ
顔を近づけて話す。


「真古都、
お前の彼氏って俺だよな、霧嶋とくっつき過ぎ!あんまり俺を妬かせるなよ」
勿論、後ろのクズ共に聞こえるように言う。


「ご…ごめんなさい」
「俺が一番だって言えよ」
「瀬戸くんが一番です!」


〔お…おい、
あの無口で無愛想な瀬戸が愛を囁いてるぞ?〕


本人にはまるで届いてないけどな…
これメチャクチャ恥ずかしいんだぞ!


〔なんだよ瀬戸マジで三ツ木が好きなのか?〕
〔俺たちと一緒で遊び目的じゃないのか?〕


んな訳ねぇだろ!


俺は真古都を抱く手に一層力を込めた。
多分、今までで一番強く真古都を抱き締めてる。


「俺…お前のことが…
どうしようもなく好きなんだよ…
嫉妬で毎日気が狂いそうになる…
俺の側にいろ、どこにも行くな!
俺の事だけ見てろよ」


クズ共に聞かせる為だったが、
これは俺の本心だった。


「はい…わ…わたしには…
いつでも瀬戸くんが一番だから…
一年の時からずっと側で助けてくれたの
瀬戸くんだもん…
これからも瀬戸くんが一番だから安心して」


真古都が俺を一番だと言ってくれる。
『俺が一番…今日はこの言葉だけで十分だ』


 『は…恥ずい……
だって判ってるけど
瀬戸くんに言われたら
本気にしたくなっちゃうじゃん
どうしよう…心臓が勝手に早くなる…
瀬戸くんに気づかれて嫌われたくないよ…』


抱き締める真古都の躰から伝わる
早鐘の様な鼓動…
堪らなく可愛い…


俺の気持ち少しは届いてるか?
俺、期待しててもいいか?


〔マジか~ あの瀬戸が
こんな情熱的に語るヤツだったなんて…〕
〔霧嶋の事、平気そうな顔してたのに
あの瀬戸でも妬くんだな~〕


『ほっとけ!ムチャクチャ妬いてるわ!』


〔くそぉ!あんな女のどこがいいんだ!〕
〔仕方ねぇよ、瀬戸が本気ならこれ以上三ツ木に構うのはヤバいって〕


暫くすると、クズ共が帰って行くのが聞こえてきた。


『やれやれ…やっと帰ったか…
これ以上真古都に何かしてみろ
次はもう後がないと思えよ…!』


「お茶も飲み終わったし、俺たちもそろそろ帰るか…」


「うん…」
『本気じゃないの判ってるけど…瀬戸くんが
あんなこと言うから…
折角の紅茶お茶なのに全然飲んだ気がしなかった…』


俺は、真古都の顔を手で触れると、
額の位置を確かめた。

「…?」


真古都が動き出す前に、
そのまま額へ自分の唇を押し当てた。


「えっ?…えっ?…えっ?」
真古都が自分の額を抑えて困惑している。


「俺何もしてないから、やっぱり彼氏らしい事
何かひとつはした方がいいかと思って…」


「あ…はい…」



真古都の家まで、なんとなく二人共何も話さなかった。


「お…送ってくれてありがとう…」


真古都は俺と目線を合わせようとしない。
さっきの薄暗闇と違い、
今は目の前にいるコイツがはっきり見える…


一度してしまったからなのか
気持ちが止まらなかった…




少し俯き加減な彼女の顔を強引に向かせ、
「おやすみ…」
その言葉と一緒に彼女の額に唇をおとす。


たちまち真古都の顔が真っ赤に染まる。


くそっ!
メチャクチャ可愛い…
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