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#77話 繋がれた手

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 「真古都さん」
霧嶋くんの手が差し出される。

「もうっ…大丈夫だよ」
わたしは少し恥ずかしかったので言った。

「ダメだって、何かあったら困るでしょ」
霧嶋くんが、わたしの顔を覗き込むように自分の顔を近づけて言う。

わたしは霧嶋くんが出してくれた手に、自分の手をそっと重ねた。
霧嶋くんはいつもこんな風に気を遣ってくれる。

『霧嶋くんの手…男の子なのに綺麗だな…
もう、顔だけじゃないんだ…反則だよっ』

王子様みたいに素敵な霧嶋くんが、
わたしみたいなブサイクで、
鈍臭い女の子を好きだと言ってくれる。
直ぐに気が変わると思ってたのに…

霧嶋くんはいつもニコニコ笑ってて、どこまで本気なのかよく判らない…

それでも、寂しくてどうしょうもない気持ちを、
誘ってくれる霧嶋くんの優しさで埋めている。

わたしって物凄く嫌な女だ…

わたしは今の気持ちを瀬戸くんにはどうしても言えずにいる。
大体、わたしは本当の彼女じゃないんだから…
言われた瀬戸くんだって迷惑な筈だ…

卒業したらもう、会うこともないんだから彼の負担にならないようにしよう…


「どうしたの?」
階段を下りる時繋いだ手は、まだ握られている。

「何でもないよ」
わたしは霧嶋くんに笑顔を向けた。

霧嶋くんは夜景の綺麗な場所にわたしを連れて行ってくれた。

「わあ…」
眼下に広がるのは漆黒の闇を背景に、大小様々な光の絵画が描かれている光景。
綺麗な夜景…なのに…
わたしが闇夜を背景に視てるのは、瀬戸くんと初めて見たあの花火だ…

こんなの…絶対霧嶋くんに悪いのに…



最近の真古都さんは何だか元気がない。
多分、先輩の所為だ。

先輩と、きっと何かあったんだ。
真古都さんが不安そうな顔をしている。
彼女にこんな顔をさせる先輩が憎らしい。
彼女からそれほど想われてる先輩が羨ましい。

どうしたら君を笑顔に変えてあがれるんだろう。
最近は僕の誘いにも応じてくれる。

先輩の代わりだって判ってる…
代わりだっていい…
それで真古都さんの傍にいられるなら…
僕はいくらだって先輩の代わりをするよ…

いつか…代わりでなくなる日が来ればいい…

「真古都さん」
僕は、悲しげに夜景を見つめている彼女に声をかけ、静かに抱き寄せた。

「き…霧嶋くん?」
真古都さんの小さな躰が僕の腕の中にある。

先輩と何かあったなら真古都さんには悪いけど、
僕にはいい機会チャンスだ。
君の心に出来た隙間へつけこむみたいだけど…
それで君が手に入るなら僕は何だってする…

「僕はいつだって君の傍にいるよ」
真古都さんの躰を抱き締めながら言った。

「僕は命の続く限り君を好きでいると誓うよ」
僕の二度目の告白だ。
汚い台詞だけど、僕は本心だ。

「君が僕の手を取ってくれる日を待ってる事、
どうか忘れないでね」
僕は真古都さんの頬にキスをした。



霧嶋くんが優しくキスをしてくれる。

この手を取ったら!彼女になれる…

この手を取ったら寂しくなくなるの?
この居場所のない気持ちから解放される?
この辛い気持ちから解放される?


教えてよ…瀬戸くん

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