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#91話 パーフェクトブルー

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 「3年C組で不正?!」
俺は真古都のクラスの票を確認してもらった。

「ん…っと、26票の内1票が不参加、残りが全て同じカップルへの投票ですね」
係のヤツが記録を見ながら教えてくれた。
「そのカップル、誰と誰か教えてくれないか?」
「それはダメですよ~」

開催前に、名前の公表はそれこそ不正への繋がり兼ねないのでイベントの特性上勘弁して欲しいと、教えてもらえなかった。

「まあ、不正の話は一応生徒会に通しとくんで…
そんな固く考えないで上手く楽しんでくださいよ」

腹が立ったが、これ以上は無理も言えなかった。

今日は一般公開の日だ。
どこのクラスも家族や、友人で賑わってる。

「はぁ~」
どうしたもんか…
明日の後夜祭を考えると頭が痛かった…

「何そんな暗い顔してるんだ」
その聞き慣れた声のする方へ顔を向けると、俺のクラスの前で親父と露月さんが真古都と一緒にいた。

「親父こそ何やってんだよ!」
俺は慌てて真古都の傍に行った。

「お義父さんがウチのクラスに寄ってくれたから、そのまま案内してるの」
真古都は何でも無いように言ってるが、絶対親父が無理言ったに決まってる!

「ったくもう! 悪いな」
「大丈夫だよ」
そう言って笑う彼女の頭をいつものように撫でた。



「社長」
露月が、小声で翔吾の父親に話しかけた。
「翔吾くんと彼女の距離、だいぶ近いですよ。
仲良くやってるみたいですね」
あの人間嫌いの翔吾が、女の子の頭を撫でている…
しかも彼女はあんな翔吾を見限ることもせず付き合っている。

「このまま上手くいってくれると良いですね」
翔吾あいつは一生独り身だと諦めてたが、彼女を逃したらそれが現実になりそうだからな…」
そんな事を本気で心配している父親を、露月は苦笑するしかなかった。



次の日も、日中は特に問題なく過ぎて行った。

霧嶋の王子役は2日間とも女性に大人気で、ラストのキスシーンでは黄色い声が鳴り止まなかった。

「別に、ホントにしてる訳じゃないのになぁ…」
霧嶋はやれやれと云った様子で話している。

「だって霧嶋くん、本当の王子様みたいでカッコ良かったもん」
真古都が霧嶋の王子役を褒めている。

「真古都さんにそう言ってもらえたなら引き受けた甲斐があったよ」
霧嶋のヤツがまた真古都の手を取ってキスをしようとしている。

「霧嶋、離れろ!」
俺は既のところで真古都を自分の手元に引き寄せた。

「ちぇっ!」

そのうち校庭の方が賑わってきた。
「始まりましたね。告白タイム…」
笹森が重たい口調で言った。

壇上では、次々に男子が意中の彼女へ思いを伝えている。
上手くいく者、断られる者、どっちにも歓声があがり、みんな楽しんでいた。
そんな中、俺たち美術部員だけが気の重い表情でそれを眺めていた。

「2年C組の笹森杏果さ~ん」
突然、笹森を呼ぶ声がする。

「えっ?えっ?わたし?」
笹森は突然のことで面食らってるようだ。

「もう!こっちは今それどころじゃないのに!
ちょっと行ってガツンと断わって来ますね!」
そう言って走って行った。

「笹森、僕と付き合ってくれないか」

笹森杏果の顔は忽ち真っ赤に染まった。

「もう、部長が大変な時に何考えてるのよ!」
手を繋がれて人混みから抜け出したところで笹森が文句を言った。
だが、本気で怒ってる訳ではない。

「部長~、上手くいきました!」
稲垣くんが笑いながら戻ってきた。

「だから言ったろ、笹森は誰かに似て鈍感だからストレートに行ったほうがいいんだって」
「ホントですね先輩」
「みんな知ってたんですかぁ?ひどぉ~い!」
みんなの顔が少し笑顔になる。




「投票の結果発表!」
大きな太鼓の音と一緒に発せられた言葉に緊張がはしる。

票数の少ない順に発表され、同じ票数のカップル同士が壇上に上がりキスをする。
最後に一番票数の多いカップルがキスをすると云うものだ。

呼ばれたカップルは次々に壇上へ上り、キスをしていく。
短いあっさりしたものや、長いものまで様々だった。

真古都はその様子を不安な面持ちで見ている。

「次は19票で~す!」

19票?
俺たちの票は17票の筈だったが…

カップルたちのキスが終わって壇上から降りると、
司会のヤツがとんでもないことを言い出した。

「さて、次ですが、20票、25票、26票のカップル。
実は相手の男子はみんな同一人物なんです!
これが最後のカップルなんで、折角だから全員に上がってもらいましょう!3人とキスするもよし!
1人にするもよし!男の子の自由で~す!」

一斉に歓声が上がった。

なんて胸糞の悪い趣向だ!!

ところが、その趣向の為、壇上に引きずり出された男はこの俺だ。

20票の女の子…確か…俺に告白をした女子…
25票…小間澤由布穂! くそっ!そこまでして真古都に嫌がらせをしたいのか?!
26票…って…真古都? なんで26票も…

「さあ、選り取り見取り!こんな可愛い子とキス出来るなんて羨ましい!」

「はあ…」
俺は短い溜息を吐いた。
「こんな可愛い子を前に溜息…判ります」
司会のヤツがつまらない事を言ってる。
「んな訳ねーだろ!」
俺はキスをしたいヤツのところへ
真っ直ぐ歩いていく…



周りの野次が凄い…
あの二人はわたしが一番とでも云うように堂々と立ってる…
あれだけ可愛ければキスされて当然だもの…

な…なんでわたし…
こんな所にいるの…
わたしなんかより…
あの二人の方がずっと可愛い…
このまま逃げ出したいのに…逃げ出せない…
スカートを握り締めて俯くことしか出来ない…


「真古都…」
その声に思わず頭を上げる…

「!?」
頭を上げた途端、唇にキスをされる…
ほんの一瞬だけ…

「きゃあぁっ!」
キスの後、瀬戸くんがいきなりわたしを抱き上げた!

「悪いが俺はコイツしか眼中に無いんだ」

呆気に取られた人たちに構わず、そのままわたしを抱いて美術部のみんなの所に戻っていった。

「先輩サイコー!」
笹森さんが両手を振って待ってる。





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