上 下
66 / 125
ささやかなる弁当

カラオケ行ったとき、なにしてるんですか?

しおりを挟む
 
 駿佑は万千湖たちに遅れ、雁夜とともにエレベーターに乗り込んだ。

 もう昼休みも終わりなので、他に誰もいない。

 駿佑は確認せねばと思っていたことを雁夜に訊いてみた。

「……お前がこの間首からさげてたタオル。
 マ、マチカの名前が入ったタオルだったのか?」

 白雪のことをマチカと呼ぶのはなんだか照れてしまうな、と思いながら。

「ああ、そうそう。
 今日も持ってきてる」
とあっさり雁夜は認めた。

「いや~、実はネット見てたら、売りに出てさ」

 そういえば、白雪が、あれは初期の頃のタオルであまり数は出ていないと言ってたな、と思い出す。

「ちょっと欲しくなって、結構高額で競り落としたんだ」

 ……白雪の実家とかに普通にゴロゴロ転がってそうな雰囲気だったが。

 しかし、高額で競り落とすなんて、お前、本気で白雪のファンなのかっ、と思ったが、雁夜は、

「いや~、つい、熱くなって、ビックリするような値段で落としちゃったからさ。
 元をとらねばと思って、使い倒してるとこ」
と言う。

「……お前、ほんとうにファンなのか?」

 そこは袋にでも入れてとっとくか、額に入れて飾っとけ、と思ってしまった。



「え~、雁夜課長、あのタオル競り落としたんですか?」

 夜、駿佑は万千湖を誘って回転寿司に行っていた。

 もちろん、これも家のための打ち合わせであり、デートではない。

 ふたりとも回転寿司まで近いので、歩きで集合し、今日はいっしょに呑んでいた。

 最初は、一旦、車で万千湖を迎えに行って、回転寿司に降ろし。

 自分は車を置きに帰るつもりだったのだが、万千湖が、

「いや、そんなめんどくさいことしなくても……」
と言ったので、現地集合になったのだ。

 だが、駿佑は、

 だってお前、元アイドルなんだろう?

 誘拐とかされたらどうするつもりなんだ。

 いや、俺にはそのような価値のある女には見えないんだが、と万千湖を下げつつも心配していた。

「雁夜課長、競り落とさなくても。
 言ってくださったら、タオル実家にまだあったのに」

 やはりか……。

「今度、雁夜課長に、何枚か差し上げましょうか」

「やめとけ。
 使い倒されるぞ」

 そんな話をしながら、楽しく寿司を食べ、酒を呑む。

「カラオケ楽しみですね~」
と万千湖はご機嫌だ。

「なに歌おうかな~」

 自分の歌を歌えよ……。

「課長、歌とか歌うんですか?」

「……歌わない」

「じゃあ、カラオケ行って、なにやってるんですか?」

「なにかを振っている」

 なにかってなんですか、という顔を万千湖はした。

「マラカスとかタンバリンとか」

「課長が振るんですかっ?」

 いつも無表情で振っている。

 歌わされるよりマシだからだ。

 だが、カラオケに行くのは嫌いではない。

 最近はみな、歌が上手くて、聴いていて、苦ではないからだ。

 そういう意味では白雪の歌もちょっと楽しみだな、と駿佑は思っていた。

 でも、こいつが真面目に自分の歌を歌い出したり、歌っているとき、カラオケの映像にこいつが出てきたりしたら、ちょっと笑わないでいられる自信はない。

 ……笑わないよう、心がけよう、と思いながら、今日、何個目かのエンガワを食べた。



しおりを挟む

処理中です...