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ささやかなる弁当
カラオケ行ったとき、なにしてるんですか?
しおりを挟む駿佑は万千湖たちに遅れ、雁夜とともにエレベーターに乗り込んだ。
もう昼休みも終わりなので、他に誰もいない。
駿佑は確認せねばと思っていたことを雁夜に訊いてみた。
「……お前がこの間首からさげてたタオル。
マ、マチカの名前が入ったタオルだったのか?」
白雪のことをマチカと呼ぶのはなんだか照れてしまうな、と思いながら。
「ああ、そうそう。
今日も持ってきてる」
とあっさり雁夜は認めた。
「いや~、実はネット見てたら、売りに出てさ」
そういえば、白雪が、あれは初期の頃のタオルであまり数は出ていないと言ってたな、と思い出す。
「ちょっと欲しくなって、結構高額で競り落としたんだ」
……白雪の実家とかに普通にゴロゴロ転がってそうな雰囲気だったが。
しかし、高額で競り落とすなんて、お前、本気で白雪のファンなのかっ、と思ったが、雁夜は、
「いや~、つい、熱くなって、ビックリするような値段で落としちゃったからさ。
元をとらねばと思って、使い倒してるとこ」
と言う。
「……お前、ほんとうにファンなのか?」
そこは袋にでも入れてとっとくか、額に入れて飾っとけ、と思ってしまった。
「え~、雁夜課長、あのタオル競り落としたんですか?」
夜、駿佑は万千湖を誘って回転寿司に行っていた。
もちろん、これも家のための打ち合わせであり、デートではない。
ふたりとも回転寿司まで近いので、歩きで集合し、今日はいっしょに呑んでいた。
最初は、一旦、車で万千湖を迎えに行って、回転寿司に降ろし。
自分は車を置きに帰るつもりだったのだが、万千湖が、
「いや、そんなめんどくさいことしなくても……」
と言ったので、現地集合になったのだ。
だが、駿佑は、
だってお前、元アイドルなんだろう?
誘拐とかされたらどうするつもりなんだ。
いや、俺にはそのような価値のある女には見えないんだが、と万千湖を下げつつも心配していた。
「雁夜課長、競り落とさなくても。
言ってくださったら、タオル実家にまだあったのに」
やはりか……。
「今度、雁夜課長に、何枚か差し上げましょうか」
「やめとけ。
使い倒されるぞ」
そんな話をしながら、楽しく寿司を食べ、酒を呑む。
「カラオケ楽しみですね~」
と万千湖はご機嫌だ。
「なに歌おうかな~」
自分の歌を歌えよ……。
「課長、歌とか歌うんですか?」
「……歌わない」
「じゃあ、カラオケ行って、なにやってるんですか?」
「なにかを振っている」
なにかってなんですか、という顔を万千湖はした。
「マラカスとかタンバリンとか」
「課長が振るんですかっ?」
いつも無表情で振っている。
歌わされるよりマシだからだ。
だが、カラオケに行くのは嫌いではない。
最近はみな、歌が上手くて、聴いていて、苦ではないからだ。
そういう意味では白雪の歌もちょっと楽しみだな、と駿佑は思っていた。
でも、こいつが真面目に自分の歌を歌い出したり、歌っているとき、カラオケの映像にこいつが出てきたりしたら、ちょっと笑わないでいられる自信はない。
……笑わないよう、心がけよう、と思いながら、今日、何個目かのエンガワを食べた。
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