1000歳の魔女の代わりに嫁に行きます ~王子様、私の運命の人を探してください~

菱沼あゆ

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酔って蔵に入ったら、異世界に飛んでいました

魔女に王子に嫁げと言われました


「わかった!
 私に合うような男はきっと今のこの日本には居ないのよっ」

 などと口走りながら同期と呑んで帰ったアキは、家と蔵を間違えて入ってしまった。

 運悪く蔵の鍵も持っていたのがまずかった。

 家の鍵と蔵の南京錠とでは開け方も違ったはずなのだが、気づかなかったところがもう相当酔っていた証拠だ。

 暗いなあ……。

 高い位置にある明かりとりと入り口から差し込む月明かりしかない、だだっ広い蔵の中。
 アキは、ぼんやり突っ立っていた。

「おじいちゃーん?」

 まだ家だと思っているアキは一緒に住んでいる祖父を呼んでみた。

 アキは祖父母と住んでいるのだが、祖母を呼ばないのは、遊び歩いていないことが多いからだ。

「おじいちゃん、電気つけなきゃ、暗いよ。
 大丈夫~?」
と、いや、お前が大丈夫か? と問われそうなことをひとり蔵の中で叫ぶ。

 夜の土蔵、ひんやりして寒いな~と思いながら、アキは手探りで電気のスイッチを探してみた。

 だが、広い蔵の中のことだ。
 壁は遠い。

 そのとき、手がふわっとした布のようなものに当たった。

 ……なんだろう? 一反木綿いったんもめん

 秋のの肌寒さにちょっとだけ正気に戻ったアキはスマホのライト機能を使い、その一反木綿を照らしてみた。

 ……五反ごたん居るようだ。

 ずいぶん派手な一反木綿だなとゆっくりとスマホを動かしてみながら、アキは全体をライトで照らしてみる。

 赤、白、金で染められた布だった。
 中央には見慣れない金色の紋がある。

 これって、花嫁のれんじゃないのかな?

 加賀藩の辺りで結婚式のとき、花嫁がくぐるのに使われているのれんだ。

 お母さんのだろうか? とアキは思った。

 だが、中央の紋は花嫁の実家の紋のはずなのだが、これには見たこともないような紋が入っていた。

 こんな紋、日本にあったっけ?

 月桂樹の冠の中で、鷹が三羽向かい合っていた。

 それにしても、花嫁のれんか。
 私がくぐることなどあるのだろうかな。

 そんなことを思いながら、アキはひょいとその赤白の一反木綿をめくってみる。

 蔵の中は暗いはずなのに、その向こうだけ、ぼんやり明るく見えた。

 明かりに吸い寄せられる虫のように、アキはそののれんをくぐっていた。
 なんの考えもなしに。

 肌寒さにちょっと正気に戻ったと思ったのは気のせいだったようだ――。



 次の瞬間、アキは青白い光に照らし出された狭い部屋の中に居た。

 すぐそこにある窓に視線をやると、森の木々が随分下の方に見えた。

 高い塔の中のようだった。

 目の前に青紫のローブをまとった魔女っぽい老婆が居て、アキを見上げ、びっくりしている。

 塔の小部屋に、いきなり現れたからだろう。

「娘よ、誰だ」
と老婆は問うておいて、アキの答えを待たずに言ってきた。

「ちょうどいい、娘よ。
 お前、私の代わりに嫁に行ってくれないか?」

 ……なんですと?

 嫁に行ってくれないかもあれなんだが。
 私の代わりにって、なんなんだ……とアキはその老婆を見る。

「いや、実はだな。
 人質代わりに花嫁が欲しいと和平調停中の国が望んできたんだ。

 この国にはもう未婚の若い姫は居ないんだが。

 いろいろ話しているうちに、向こうの国が聞き間違ってな。

 嫁に行っていない王の縁者の娘がひとり居る。
 16歳だと。

 1016歳なんだが。
 どうも1000を聞き逃したようなのだ」

 いや、聞こえていても、幻聴、と思ったのじゃないですかね?
とアキはその小柄な老婆を見た。

 ……1000歳? と思いながら。

「今の王には恩もある。
 小さいときはよく此処に遊びに来ていて可愛かったしな」
と昔を懐かしむように言う老婆にアキは言った。

「あの、貴女は魔女なのでは?
 だったら、魔法で若い美女に変身するとかできないんですか?」

 だが、老婆は、
「今更、男のものになるとかめんどくさい」
と言う。

「それに、1000年以上、ひとりで好き勝手に生きてきたのだ。
 今更、男に気を使って生きるのはしんどいぞ」

 まあ、それはそうかもですね~、と最近結婚した先輩の愚痴を思い出し、アキは苦笑いした。

「そんなことより、お前、あれをくぐってきたのだろう」
と魔女が後ろを振り返る。

 そこには例の花嫁のれんと同じものがあった。

「お前はあれをくぐることによって、生家との縁を切ったのだ」

 ええっ? とアキはそのペラペラした布を見る。
 何故、これをくぐっただけでっ? と思ったのだ。

「お前はそれで此処にたどり着いた。
 この地にお前の運命の相手が居るかもしれないぞ」

 えっ?
 そうなんですかね?

 って、こんな謎な場所に運命の相手とか居てくれても困るんですけどっと思ったとき、部屋の入り口の木の扉が開いた。

 あまりこういう男の人が理想、というのはなかったのだが。

 たまにテレビなどで俳優の人とか見て、

 あ、この人の目が好きだな、とか。

 口許が好きだな、とか、雰囲気が好きだな、とか、胸板が好きだな、とか。

 この声、なんか頭にすっと入ってくるし、素敵だな、とか思ったところをすべて掛け合わせたような男がそこに居た。

 しかし、ひとつ残念なことがアキにはあった。

 そのイケメンが、なんか王子っぽい格好をしていたことだ。

 とても似合っているのだが、いつもスーツ姿のサラリーマンに囲まれ。
 上着を脱いでシャツを腕まくりとか格好いいなと思ってる自分には、ちょっと違和感があった。

「うーむ。
 この王子とだったのか」
とその黒髪のイケメン王子を見て老婆が呟く。

「今からどうですか?」
と一応、訊いてみたのだが、ああいや、いいわ、と老婆は言う。

 そのとき、
「私の花嫁は何処だ」
とその王子が言ってきた。

 ずい、と老婆がアキの背を押した。

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