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なんだかんだで魔法が使えました
せっかく異世界に来たんだから、魔法くらい使ってみたいものだ
「王子、ごはんあげてたんですね」
仔うさぎはケージの中で一心不乱にカカカカカ、とラディッシュをかじっている。
「そういえば、ピーターラビットのあれ、人参だと思ってたんですけど。
ラディッシュなんですね」
と思わず呟いて、
「ピーターラビットとはなんだ。
うさぎの種類か」
と問われる。
「違いますが……。
そういえば、ピーターラビットのお父さんもパイになったんだった……」
この仔うさぎの今後に不安を覚えながら、アキは屈んで可愛らしい仔うさぎを見つめた。
だが、淡い茶色でふかふかの仔うさぎは無表情にラディッシュをかじっているだけだ。
「このカゴから出してあげたい」
アキのその言葉を聞きつけたイラークが、
「出るときはパイになるときだぞ」
といい匂いの煙が立ちのぼっている厨房からおどしてくるが。
ミカもこの仔うさぎを可愛がっているようなので、おそらくパイにはならないだろうと思われた。
「そういえば、ここがほんとうに異世界なら、こっちに来た途端、魔法が使える、とかないんですかね」
アキがそう呟くと、大きな木の器に入ったサラダを運んでいたミカが小首をかしげ、言ってきた。
「異世界の方で、少し使える方もいらっしゃるみたいですよ」
そうなの? と言ったアキはキョロキョロと見回し、
「えーと……
よしっ」
とウサギがまだ食べていなかったケージ前のキャベツに手をかざしてみる。
「……なにをしている」
王子に問われ、
「いや、なにかどうにかならないかなと」
とあいまいに答えると、
「急に魔法が使えるとも思えんが」
そう前置きしたあとで、王子は言ってきた。
「あの箱といっしょで具体的に願わなきゃ駄目なんじゃないのか?」
……具体的にか。
うむ、と考え、アキはもう一度キャベツに手をかざして言った。
「よし、アンブリッジローズ様の御名において命じる」
「人任せか」
いや、やっぱり自分になにか力があるとは思えないからですよ、と思いながら、アキはそこまでひっつけたら物理的にどうにかなるだろ、というくらいキャベツに手を引っ付けて命じた。
「なにかどうにかなーれ」
「やっぱり具体的じゃないじゃないかっ」
と王子は叫んだが、キャベツは突然に千切りになった。
「すごいっ。
魔法が使えたっ」
「おっ、使えるじゃないか、社畜」
イラークが後ろから覗いて言ってくる。
いやだから、それ、名前じゃないんですが……。
でも、魔法が使えるってすごいぞ! と喜んだアキは、
「よしっ」
と機嫌よく手のひらを広げ、振り向いた。
わあああああっとみなが逃げ出す。
どうやら、自分たちも千切りにされると思ったようだ。
「いやいや……、なんでも千切りになる魔法じゃないんじゃない?」
「娘」
とイラークが丸玉のトマトを手のひらにのせ、突き出してきた。
「よし、アンブリッジローズ様の……」
また同じ文言を唱えかけたとき、いきなり食堂の扉が開き、ローブを羽織った本物のアンブリッジローズがやってきた。
カツカツ早足に歩いてきながら、イラークを見、
「久しぶりだな」
と言ったあとで、木の皿でアキの頭をはたく。
「勝手に私の力を使うなっ」
「あれっ?
本当にアンブリッジローズ様の力が流れてきてたんですか?」
「お前と私はその名でつながっておるからな。
というか、今はお前がアンブリッジローズだ。
千切りくらい自分でやれっ。
……そのくらい恐らくできる」
そう言い置いて、アンブリッジローズは風のように去っていった。
「気の短い姫だな」
閉まった扉を見て王子が呟いている。
いやだから、あのいかにも魔女っぽいおばあさんを見て、姫と呼ぶあなたのハートがすごいなと思ってしまうのですが。
なんだかんだで女性にやさしいのかなと思いながら、そのくらいできるというアンブリッジローズの言葉を思い出していた。
もしや、私がアンブリッジローズの名を継いだから?
それとも、単に手で切れるだろという意味だろうかな 、と考えながらも、
えい、と手のひらを広げると、イラークの手にある丸玉のトマトが綺麗に角切りにされた。
「社畜」
とイラークが肩を叩いてくる。
「いつまでも、ここにいていいんだぞ」
「いや、こき使う気満々ですよね……」
アキは苦笑いしてイラークを見上げた。
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