仏眼探偵 ~樹海ホテル~

菱沼あゆ

文字の大きさ
12 / 51
転がり落ちた死体

イケメン手相占い師

しおりを挟む
 
「ざっとは覚えましたか?」

 二十分後、深鈴がそう言い、テストのようなことをしてきた。

「よし。
 準備万端ですね」

「ひとつも万端じゃないよな」
と呟くと、

「そろそろ下に下りてください。
 もう彼女らが戻ってくる予感がします」
と言う。

「早くないか?」

「いえ。
 イケメンの手相占い師のことが気になっていると思います」

 だから、占い師じゃないんだが。

「早めに切り上げて帰ってくると思いますよ。
 ロビーにも小さな本棚がありましたよね。

 あそこの椅子で、本でも読んでてください。
 こう、知的な感じで」

「どうやったら、知的な感じになるんだよ」

「そのままで充分です。
 さあさあ」
と深鈴に押し出される。

 行ってらっしゃい~と手を振る彼女に、
「お前は行かないのか」
 付いてきてフォローしないのか、と思って言うと、

「女は付いて行かない方がいいんですよ」
とにんまり笑う。

 行ってらっしゃ~い、と繰り返され、追い出された。

 階段を下りていると、志貴とすれ違った。
「どうも」
と挨拶される。

「あ、どうも」

 志貴は上で手を振っている深鈴に気づき、
「すみません。
 深鈴さん、あの手紙、もう一度見せてもらえませんか?」
と話しかけている。

 ……早く済ませて戻ろう、と思った。



 他に人気のない廊下。

 亮灯はいきなり口を塞がれ、近くの部屋に引きずり込まれそうになった。

 下からは、晴比古の声と女たちの楽しそうな笑い声が聞こえていた。

 後ろで開かれた扉に、身の危険を感じ、壁を掴んで抵抗しようとしたが、誰かが階段を上がってくる音がした。

 此処でバタバタしているところを周りに見られるのは嫌だという思いが働いてしまった。

 はっと手を緩めた瞬間、亮灯は暗い部屋に引きずり込まれた。

 目の前で扉が閉まる。



「やや。
 先生、大人気ですね」

 女たちの手相をロビーで見ていると、城島がそんなことを言って通り過ぎていく。

 確かに、手相占いは盛況だった。
 通りすがりの老夫婦まで混ざるほど。

 もう商売替えしようかな、と思ってしまう。

 単に彼女たちの見たまんまをそれっぽく言っているだけなのだが。

 だいたい、このくらいの年になると、見た目に性格が出てくる。
 そして、長年の生活環境も。

 だから、いいところを更に良く、悪いところをポジティブに語ると、女性陣には非常にウケた。

 まあ、似顔絵と一緒かな、と思う。

 嘘はいけない。
 似ても似つかない絵を描いても意味がないから。

 現実の彼女たちより、少しいい彼女たちを語ってあげているだけだ。

 自分でも、そう占われた方が嬉しいと思うから。

 そんな感じで、手相占いは、問題なかったのだが、肝心の事件の方の収穫はゼロだった。

 彼女たちの手を握ってみても、なにも見えては来なかったからだ。

 突然、自分の力がついえたのでない限り、この女たちは無関係だと言うことだ。

 女たちは自分たちが聞いた占いを元に、老婦人も交えて、語り合い始める。

 そのうちの一人が、晴比古が己れの手を見ていることに気づいたようだった。

「あ、先生。
 それなんですか? 変わってますね」

 これか、と手のひらを広げて見せ、
「これは、仏眼相って言うんだ。
 霊感が強い人に出たりする」
と言うと、

「嘘っ。
 私も見てくださいっ」
と自分でも確かめられるだろうに、そう言い、みんなが手を差し出してくるので、笑ってしまった。

 老婦人まで。

 確かに、これならば、握り放題だ。

 しかし、手を見ていて、気がついた。

「君たち、一人足りなくないかい?」

 確か、五人乗りの車に定員いっぱいの人が居た気がしたのだが。
 個別認識はしていないが。

「ああ、さっき、トイレに行って……。

 戻ってきてないねー。
 そういえば」
と他の子の顔を見る。

「ほんとだ。
 お腹壊したのかな?

 見て来ようか」
と言っていたが、

「これが仏眼相だよ」
と実はさっき、記憶していたので、そのうちの一人の手を掴んで、広げさせると、その子が赤くなった。

「いいなあ」
と他の子が言う。

「霊感があっても、そんなにいいこともないよ」
と晴比古が言うと、彼女らは

「いや、そうじゃなくて……」
と笑っている。

「でも、私のと、先生の違いますね。
 先生のは、目の中に、赤い瞳があるみたいに見える」

 はは、そうだね、と笑いながら思い出していた。

 こちらに向かって突き出された手。

 あのときからのような気がする。

 自分にこの力が宿ったのは――。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

25年目の真実

yuzu
ミステリー
結婚して25年。娘1人、夫婦2人の3人家族で幸せ……の筈だった。 明かされた真実に戸惑いながらも、愛を取り戻す夫婦の話。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...