20 / 51
降ってきた死体
本当に厄介なのは……
しおりを挟む「此処は幻想的な空間ね。
樹海の中の雰囲気あるホテル。
それに、即身仏が二体」
「二体?」
「あの転がり落ちてきた死体と、阿伽陀晴比古。
占いのとき、自分は即身仏の生まれ変わりだって言って、みんなを笑わせてたわよ、聞いてなかったの?」
「聞いてないよ」
と志貴は眉をひそめる。
「不思議な人よね。
此処に居る人たちも、みんなそう。
何処かみんな、後ろ暗そうで。
ねえ、全部幻かもしれないわよ」
「幻?
なにが?」
「此処も、此処に居る私も。
いいえ、もしかしたら、私と出会ったところから全部」
「じゃあ、僕の人生も全部幻だ。
君が居なかったら、僕は今、此処には居ないし」
と抱き寄せようとすると、額をはたかれる。
「莫迦なことしてないで、真面目に考えて。
余計な事件が次々起こるせいで、私たち、なにも出来てないわ」
亮灯はそこで、少し考え、
「本当に厄介なのは、仏眼探偵じゃない。
渋谷深鈴かもね」
と呟く。
「そう?」
となんの感慨もなく言うと、亮灯は顔をしかめ、
「聞いてる? 志貴」
と言ってくる。
「いや、あんまり聞いてない」
と白状した。
亮灯とこうして会える日をずっと心待ちにしていた。
他のことなんて、今はなにも考えたくない。
真剣に聞いているふりをしなければ、彼女は怒るだろうけど。
そんな演技、すぐにバレるだろうことも知っていたので、白状してみた。
「君は僕と居ても嬉しくないの?」
「嬉しいけど、今はそんな場合じゃ……」
そう言いかけ、亮灯は言葉を止めた。
「そうか。
そうね。
全部終わったら、どのみち、私、貴方と居られないかも」
そう言い、そっと胸に頭を寄せてくる。
「貴方が私を逮捕してね」
「……そんなことのために、僕は刑事になったんじゃないよ」
「あらそうなの?」
と亮灯は自分を見上げて微笑む。
「私を手伝ってくれるために刑事になったのかと思ってたわ」
私の復讐を、と言う。
「違うよ」
と言い、そっと彼女に口づけた。
少しそれを受けたあとで、亮灯は身をよじるようにして逃げる。
「また鍵開けてると、いきなり人に入って来られるわよ」
「そうだね。
じゃあ、鍵をかけたら、続けていい?」
いや、そういう意味じゃ、と亮灯は言うが、志貴は鍵をかけに行った。
そして気づく。
「亮灯」
と呼んだ。
「この懐中電灯。
土がついてる」
入り口にある棚の上に、さっき使った懐中電灯があるのだが、縁に泥がこびりついている。
「貴方が持ち出したとき、ついたんじゃないの?」
「違うよ。
僕は土なんてつけてない」
「待って。
触らないで、志貴」
嫌な予感がする、と側に来た亮灯は触れないまま、腰を屈めてそれを見る。
「佐藤陸を殴ったの、これだったりしてね。
これ、結構重いから」
えっ、と思わず、その懐中電灯から離れると、
「そうじゃなきゃ、刑事の部屋のそれとすり替える意味がわからないじゃないの」
と言う。
犯人、とっちめてやる、と言う亮灯に、
「とっちめるのは、後にしなよ」
と言った。
「逃げるじゃないの」
と自分を見上げ、不満げに訴える亮灯に、
「逃げないよ、大丈夫」
と言って、ひょいっと彼女の腰を抱え、肩に担ぐ。
「志貴っ!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる