22 / 51
降ってきた死体
犯人ヲ 見ツケテクレ
しおりを挟む「おはようございます」
志貴が朝、階段を下りて行くと、女の子たちが振り返り挨拶をする。
亮灯は素知らぬ顔で、OL軍団の中に居た。
僕の勝手な好みだけど、やっぱり、亮灯がダントツ可愛い。
内心、そう思いながら、
「おはようございます」
と彼女らに笑顔を向ける。
また彼女らが、
「おはようございます」
と笑って挨拶を返してくるなか、亮灯だけが、
「おはようございます」
と事務的に返してきた。
晴比古は、大欠伸をしながら、階段を下りていた。
昨夜、よく眠れなかったからだ。
階段下に居た浅海と目が合う。
「おう、浅海。
どうした、すっきりした顔して」
と言うと、浅海は苦笑し、
「やっぱり、私、貴方は怖いな」
と言った。
「なにがだ?」
OL軍団や深鈴、それに老婦人は、年の差を越えて、窓に張り付き、きゃっきゃ、と言ってる。
「なんだ、あれは」
と言うと、クールなんだか、見慣れてるんだかわからない浅海が、
「知らない。
リスかうさぎが出たみたいよ」
と言い去る。
リスとうさぎじゃ、随分違うだろうが、とその後ろ姿を見送った。
「リスか? うさぎか?」
と深鈴の後ろからひょいと覗くと、
「今は猫ですっ」
と言ってくる。
「猫?」
「猫ですっ」
と右手を軽く猫のように丸め、外を見たまま頷いた。
……なるほど。
まるで、彼女らにサービスするように、目の前で立ち止まった猫がくりくりと顔を洗って見せている。
「仕込んでるのか?」
と呟くと、
「いやあ、違うでしょう。
でも、いい気分転換になったみたいですね」
と言ったのは、志貴だった。
少し離れた位置から一緒に見ていたようだ。
「おはようございます」
と言う彼に、
「……おはよう」
と言うと、どうかされましたか、と訊いてくる。
「なんか寝不足なんだよ。
夢に干からびた手が出てきてさ」
「干からびた手?」
「子供の頃、拾ったんだ、山で。
ぽとっと落ちてて。
みんながオモチャだろうって。
みんなは枝の先とかでつついてたんだけど、俺だけ、ひょいっと手に持ったら、全然オモチャじゃなかった。
その感触がまだ手の先に残っててさ」
「人間の手ですか?
猿とか?」
「……人間だよ」
「町まで持って下りて、確かめたんですか?」
「いや、上にさ。
あったんだ。
手じゃない部分が」
「手じゃない部分?」
「干からびた人間の身体が、高い木の枝にぶら下がってた。
首吊りにしちゃ位置が高すぎたな。
ちょうどその人が死体になったときの気候が良かったのか、まるで即身仏みたいに干からびてた。
空中に浮かんでるように見えるそれから、カラスがつついて腕を落としたみたいだったよ。
俺たちは悲鳴を上げて逃げて」
「それから?」
「それきりだ。
大人たちに言ったんだけど、捜索してもそんな死体、何処からも出てこなかったらしい。
俺たちはそこに行く途中、小さな沼みたいなのを見たんだが。
それもなかったって言うんだよな」
「不思議な話ですね」
「まあ、単に大人が見つけられなかっただけなんだろうけどな。
でも、それから俺の夢に、あの干からびた手が出てくるようになったんだ。
いつも、その手が何処からともなく現れて、俺の足を掴むんだ。
『犯人ヲ 見ツケテクレ』って。
死体も出てこないのに、子供にどうしようもないよな。
でも、それからだよ。
それからしばらくして、両の指に、あの仏眼相が出来たんだ」
と己れのそれを眺める。
「そういえば、お前の手相は見てないな」
「あ、本当に見られるんですか?」
「見てやろうか」
志貴は少し迷い、
「お願いします」
と手を出した。
「ま、浅海の子供の頃の本による一夜漬けだがな」
と言うと、
「それ、僕がその本読みながら見たのでもいいってことじゃないですかね」
と苦笑いしているが。
「お、志貴。
お前、仏眼相がうっすらあるな。
霊とか見たことあるか?」
何気なくそう問うと、
「……ありますよ」
と言い、志貴は今まで見せていた手を握りしめた。
「さて、朝食の時間のようだな」
晴比古は素直にその手を離す。
深鈴がこちらを窺っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる