仏眼探偵 ~樹海ホテル~

菱沼あゆ

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樹海に沈む死体

なんで探偵やってるんですか

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「まあ、なにがどうなってるのかは俺にもよくわからないんだが。

 ともかく、お前と志貴になにか関係があるのがまず、わかった。

 それから、陸のことだが。

 なにか小さいことがいろいろ積み重なって、怪しいな、と思ったというか。

 まあ、大きなところで言うとな。

 ……昨日、殴られて冷凍室に詰められてたのに、なんで、あんなに機嫌がいいんだ?」

「私も確かめたわけではないですが、ちょっと想像がつくんですよね。

 だから、もう陸も居なくなってるかも、と思ったんですよ。

 たぶん……探した方がいいと思います。

 いつか辛くなるから」

 そういう言い方を亮灯はした。

 本当に自分からは手の内を明かさないな、と思いながら言う。

「陸が怪しいと思った理由は他にもある。

 あいつ、実は、ひとり静かに読書や散歩を楽しむタイプじゃないだろう?

 人恋しくて、話しかけないと気が済まないタイプだ。

 一人で、こんなところになにしに来てたんだ?」

 ま、そうですよね、と亮灯は苦笑いしていた。

「それから、陸は殴られて、冷凍室に詰められていたが。

 相手は殺意があるんだかないんだかわからない感じだった。

 子供じゃないんだ。

 目を覚ませば、冷凍室開けて出てこられるだろう、男の腕力なら。

 犯人のやったことはおしおきに近いな」

「おしおきにしちゃ、やりすぎですけどね、あの殴り方」

 そこで、亮灯は渋い顔をする。

「お前、厨房に行ったあと、冷蔵庫はないだろう、とわざと言ったろう。

 そちらに注意を向けさせるために。

 そして、辺りをキョロキョロと見渡し、鍋の中を探したりしていた。

 あるはずのものがなかったからだ」

 へえ、と亮灯は笑う。

「なんですか?
 あるはずのものって」

「冷凍食品だよ。
 それが放り出してあるはずだったんじゃないのか?

 それで、俺がおかしいと思って、冷凍室を見るはずだった。

 なのに、予定通り、それがなかったから、お前は焦った。

 最初から陸は冷凍室に入ってる予定だったんだよ。

 お前はそれを知っていた。

 早くに開けないと、本当に凍死したらまずい。

 予定は中止になったのかもと思ったんだろうが、俺が開けた冷蔵室に冷凍食品とゴミ袋が詰め込まれていた。

 だから、お前は慌てて、自分で冷凍室の扉を開けた。

 怪しまれないよう、俺に開けさせたかったんだろうにな。

 お前は此処で、陸ともう一人の間で、仲間割れが起きたことを知った。

 予定より長く陸を冷凍室に閉じ込めるために、意図的に、冷凍食品を隠していたことに気づいたからだ。

 そういえば、陸の部屋の鍵は開けっ放しになってたな。

 だから、俺たちは、陸が居ないとすぐに判断できて、下に下りた。

 そこもおかしいんだよ。

 陸は街の人間のようだった。

 知らない人間がうようよ居る場所で、鍵を開けっ放しにしてること自体、おかしい。

 陸が部屋に居るんだか居ないんだか曖昧なままにしておくと、俺が陸が来るのを待とうとか言い出すかもしれない。

 下りるまでに時間がかかったら、冷凍室に居る陸が凍る。

 だから、陸が居ないとすぐに判断出来るよう、開けてあったんだ」

「ま、そうなんですけど。
 でも、部屋の鍵、志貴とかも開けてますけどね」

「そりゃ、お前が来るかもしれないと思ってのことだろう。

 そう、鍵を開けてる奴は、誰かが訪ねてくる予定のある奴かもしれないわけだよ。

 それと、お前は、俺たちが、わあわあ大きな声で喋りながら下りてきたから、犯人が焦ったと言ったが、俺もお前もそんなに大きな声で喋ってはいなかったぞ。

 深夜だからな。

 犯人は、最初から、お前があの時間に来るのを知ってたんだ。

 だから、焦った。

 お前はそのことを知っていたが、言うわけにはいかないから、ああいう言い方をしたんだ。

 俺の推理がおかしな方向に外れていかないように。

 つまり、お前たち。

 お前と志貴と、陸、それと、もう一人は、なんらかの理由で、陸が殴られて、冷凍室に詰められている状況を作ろうとしていた。

 もちろん、軽く殴るだけのはずだった。

 ところが、此処でなにかの手違いか、いさかいがあり、陸は本気で殴られ、冷凍室に詰められ、死にかけた、と。

 仲間割れか?」

 そこまで聞いた亮灯が笑い出す。

「ほんと困った先生ですね。
 ちゃんと推理できるじゃないですか」

 まあ、知ってましたけどね、と言う亮灯に、

「今回はお前がしてくれそうにないからだ。
 俺は推理するのは面倒臭い」
と言うと、

「だから、なんで探偵やってるんですか」
と言われる。


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