まず、後宮に入れませんっ! ~悪役令嬢として他の国に嫁がされましたが、何故か荷物から勇者の剣が出てきたので、魔王を倒しに行くことになりました

菱沼あゆ

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ラスボスとの対決(?)

魔王様っ!


「最近、普通の暮らしがしたいとか言って村から出ていくものが多くて」

 その犯罪都市みたいなところから出ていくのなら、いいことでは?

「なので、わしは強いカリスマ性を持つ、前の魔王を探しておるのだっ。
 今度の魔王はまだ若いせいか。
 湖をピンクにするくらいのことしかしないっ」

 いや、それも私ではないっ、という顔で魔王が見る。

 ただの自然現象だ。

「ふむ。
 ここは魔王の寝所のひとつ。

 しかも、どうやら、魔王が勇者に討ち取られた場所のようだ。
 眷属のドラゴンもいることだし。

 ここなら、前魔王の魂を呼び戻せるかもしれんっ」

 なんだって、そんな世界に災厄を呼び戻すようなことをするんです、と思ったが、ファルコが、おじいさんに聞こえないようにフェリシアに言ってきた。

「あの、もし、ほんとうにその厄介な前魔王が蘇ってきたとしても。
 倒せるのではないですか? その勇者の剣で」

 そ、そうだっ。
 勇者の剣はおそらく、このときのために――っ。

 フェリシアはいきなり繭の前で怪しげな呪文を唱え始めるおじいさんの後ろで勇者の剣を構えた。

 一瞬、このじいさんをこの剣でやってしまえばいいのでは……、と大聖女にあるまじきことを考えてしまう。

 いやまあ、ほんとうの大聖女ではないのでいい気もするが。

 ちなみに、おじいさんの術は本物だったようで、繭がいきなり光り輝きはじめた。

 フェリシアはグッと剣を構え直したが、魔王がその前に出る。

「危ないではないか。
 お前は下がっておれ」

 格好いいではないですか、魔王様っ!

 あのピザの森(?)で出会ってから初めて、素敵っ、と思ってしまいましたよっ。

 でも、そんな無防備に私に背を向けないでください。
 なにかの弾みで、この剣をチク、とかやってしまったらどうするんですかっ。

 格好いいと思った瞬間に消えられても困る。

 フェリシアがそう思ったそのとき、塔の中に響き渡る声が聞こえてきた。

「死ね!
 我らのいしずえとなるために!」

 また、スライムが……と思ったが、おじいさんは喜色満面、こちらを振り返った。

「おおっ、魔王様の復活じゃっ」

 おじいさんは剣を構えたフェリシアの前にひざまずく。

「……今、誰が言ったの?」

 スライムが笑顔で言う。
「フェリシア」

「寝てるときも言ってた、フェリシア。

『死ね!
 我らのいしずえとなるために!』って」

 ニコニコと随分しゃべれるようになったスライムが可愛い顔で言う。

「ま……」

 魔王は私かっ!

 フェリシアはその場に膝をついた。
 石の床を見て自問自答する。

「えっ?
 私が前の魔王……?

 私は自分を滅ぼす剣を持ち歩いてたの?
 剣が勝手に私の荷物に入っていたのは、私を滅ぼすため……?」

 ぼんやり繭を見ていた魔王が言った。

「そ、そうだっ。
 思い出した。

 お前が魔王だ。

 私はここへ来て、お前を討ち取ったのだ。

 そうしたら――

 お前のチカラの一部が私になだれ込んできた!」

 ――お前が勇者かっ!

 そういえば……あの迷路の町で。

 魔王の居場所を探すのにこの剣を使ったら、何度やっても、剣は私に向かって倒れてきた。

 そして、カタリヤの城でチカラを測る水晶玉にチカラを注ぎ込んだら、真っ黒になって割れていたっ。

 あれは、魔王様の力のせいではなかったのかっ!

「え~っ」
 フェリシアは溜息まじりの声を、長く長く出す。

「私は……、今までなにを……」

 自分を殺す剣をたずさえ、自分を殺したかつての勇者――
 私のチカラを取り込んだせいで魔王となってしまった魔王様を連れ。

 自分を滅ぼす新たな勇者を探すための旅をしていたのか。

「そういえば、いつの間にか魔王として存在していたって言ってましたね……」

 魔王のチカラがなだれ込んだとき、魔王は前魔王よりちょっと弱い魔王となり。
 勇者としての記憶を失ったのだろう。

「悪辣非道な前魔王はフェリシア様だったのですね」
 なんか納得です、とサミュエルは頷き言ってくる。

「麗しき魔王様っ、私はあなたの臣下となりましょうっ。
 ご命令をっ」
とおじいさんが喜び勇んで言ってくる。

 床に手をついてたままフェリシアは言う。

「……じゃあ、なんかその辺の困ってる人を助けてきて」
「何故ですか、魔王様」

「人はより快適な生活を望むもの。
 今、困っていることが解消されたら、さらに上をと望み、どんどん楽な暮らしを夢見て、地獄のように働いたり、堕落したりすることでしょうっ」

「おお、とさすが魔王様っ!」
 あざといですっ、とおじいさんは浮かれる。

「そのとき、あなたにも、なんらかのおこぼれがあることでしょう」

「はいっ。
 見ていてくださいっ、魔王様っ!

 たくさんの人を救うよう、村に帰ってみなに言ってきますっ」

 そうですね。
 そして、困った農村の人とか助けてください。

 野菜とかミルクとか、村人の素敵な笑顔とかのおこぼれがもらえることでしょう。

「どうりでドラゴン、フェリシア様の言うことしか聞かないはずですね」
「ドラゴンが魔王様を小莫迦にした感じだったのは、自分の主人より弱いからだったんですね」

 サミュエルとファルコが畳みかけるように言ってくる。
 ファルコが明るく笑って言った。

「でも、フェリシア様が大魔王なのなら。
 私も魔王様もフェリシア様に名前をつけていただいたので正解ですねっ」

「……いや、私は大魔王に戻る予定はないのだけど。
 でもまあ、このような身の上では、トレラントの王妃にはなれないわね」

 このままさすらいの旅を続けるしかないか、と呟くと、何故か魔王が喜ぶ。

「ところで、アーローは魔王を倒す旅を続けていますが、大丈夫ですか」
 窓から下を見ながら言うサミュエルに、フェリシアは言った。

「いいんじゃない?
 きっと人々を助ける旅なのよ。

 目的地じゃなくて、旅の行程に意味があるんじゃない?」

 アーローは、目的を同じくする、あのおじいさんと合流するかもしれない。

 でも、それはまた違う物語だ――。

 そうフェリシアは思った。

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