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エミリ、奴隷生活を楽しむ
あの~、チートな能力ないみたいなんですけど、話が違いませんか?
しおりを挟む炎天下の中、砂に足をとられながらエミリは歩いていた。
日差しよけに頭から被っている白い布の隙間から周囲を窺う。
熱砂の砂漠には働く奴隷たちと、石造りの巨大建築物。
おかしいなー。
普通に女子高生をやっていたはずなのに。
何故、私、こんなところに?
ここは古代の何処かの国なのだろうか。
あるいは、異世界?
それにしても、とエミリは眉をひそめる。
タイムスリップだろうが、異世界だろうが。
こういうときって、チートな能力を手に入れて、いい感じに生きられるものなんじゃないの?
たっぷり根菜の入った重い籠を頭にのせたエミリは、ヒイヒイ言いながら、石造りの建物に向かい、歩いていた。
暑い~。
重い~。
首痛い~。
疲れた~。
喉乾いた~。
コンビニ~。
いやいや、自動販売機でもいいよ~、と呪いのように呟き続ける。
行き交う人々はみな、暑さ避けに頭から布を被っている。
黒い布の人と白い布の人。
黒白白白黒。
なんで、真ん中の人たちは、ひっくり返らないんだろう。
ぼんやりした頭の中でオセロをしながら、エミリはようやくその石の家に入った。
日陰なだけで、かなり涼しく、エミリは頭からかぶっていた布を脱いだ。
ただ石をくり抜いただけの窓から通り抜ける風が顔や肩に当たって涼しい。
「ここ、置いときますね~」
エミリは大きな木のテーブルの足元にどさりと籠を置く。
「ありがとう、エミリ」
と厨房のおばさんたちが振り返り微笑んだ。
この時代でもあまり違和感のない名前でよかったな、と思いながら、エミリは訊いた。
「今日の晩ご飯はなんですか?」
「今日は豆のスープとラム肉の炙り焼きだよ」
楽しみ、とエミリは機嫌良く仕事に戻った。
ここの料理は意外とおいしい。
香辛料などは少なく、素朴な味付けだが悪くなかった。
夜、砂漠は急激に温度が低下し、寒くなる。
エミリたち奴隷の住処は洞窟や地上に突き立つ奇石の中だ。
たくさんの穴にそれぞれの家族が住んでいて、通路でつながっている。
ちょっとアリになった気分で、楽しい。
夜の自由な時間には、みんなで外に面した広い空間に集まり、焚き火を囲んで、おしゃべりしたり、歌を歌ったりするのだ。
食事のときには、配給の具の少ないスープを啜り、噛みごたえがあるので、なんとなく満腹になるパンをかじる。
肉もわずかだが、ここの生活の楽しみのひとつだ。
前の世界では、すごくおいしいスイーツを食べても、まあ、こんなもんかくらいにしか思わなかったのに。
ここでは、ちょっぴりしか出ない果物がものすごく甘みや水分があるように感じられて、おいしい。
「このちょっと渋くて甘い謎の実、めちゃくちゃ美味しいですっ」
と言って、おかしな子だねえ、とおばさんたちに笑われた。
クタクタになるまで働いて、藁の上で倒れ込むように眠る日々。
なんか健康的だし。
これはこれで悪くない。
そんな風に思うようになっていたある日、兵士たちがみんなを並ばせ、なにかを配っているのに気がついた。
なんだろう。
謎の実かなあ?
それとも、追加のパン?
と思って、ぼんやりしていると、恰幅のいいおばちゃんたちに手招きされる。
「エミリ、早く並びなさい。
もらいそびれるよっ」
なんだかわからないまま急いで並ぶと、兵士から造りの荒い硬貨を三枚もらった。
……簡単に偽造できそうだ。
いや、しないけど、と思いながら、エミリはそれを眺める。
でもそうか。
給金もらえるのか、奴隷でも。
いや、自分が奴隷なのかなんなのかわからないんだが。
気がついたら、ここにいて。
気がついたら、働く人たちの中に組み込まれ。
なんとなくそのまま働かされていただけだから――。
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