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エミリ、奴隷生活を楽しむ
女奴隷をさがしているようだ
しおりを挟む毎日、黒と白の布を羽織った人ばかり見ているエミリは、オセロを作った。
オセロが好評だったので、失敗して捨ててあった薄い粘土板を集めて子どもたちに絵を描かせ、カルタを作った。
「エミリが来てから毎日楽しいよ」
「今まで教えてもらった献立にハズレもないしな」
カイルの筋骨隆々としたおじさんも笑って言う。
もともと悪くなかったここでの暮らしが、さらにいい感じになってきたある日。
夕食後、いつものように、みんなでしゃべったり腕相撲をやったり、オセロをやったりしていると、遅れて戻ってきたおばさんたちが慌てて言った。
「ちょっとっ。
なんだかわからないけど、兵士たちが女の奴隷を探しているらしいよっ」
「選ばれた奴隷は何処かに連れていかれるみたいだよっ」
ええっ? ここでの暮らしが気に入ってるのに、何処にも連れてかれたくないっ、とエミリは慌てる。
「何処に連れてかれるんだろうね」
「なんで、女の奴隷?」
「こことは別の場所に織物専門の仕事場があるから、あっちかね?」
あっちは女が多いからとおばさんたちは言う。
「人手が足りなくなったんだろうか」
「それならいいけど。
なんだか物々しい感じなんだよ」
と兵士たちを直接見たおばさんたちは振り返りながら怯えていた。
織物工場か何処かに連れてかれる感じなのかな?
ええーっ?
せっかく、ここのみんなと楽しくやってるのに。
っていうか、私、不器用なんですけど。
今みたいに黙々と物を運ぶとかならともかく。
織物作るとか無理なんでは、と思いながらも。
カルタ、あとちょっとだったので、容赦無く勝って終わらせ、子どもたちに泣かれた。
「エミリーッ」
「手加減してよーっ」
「勝負に情けは無用です。
ここで人生の厳しさを噛み締めておくと、あとで、きっといいことがあります」
そんなエミリの言葉に、一緒にやっていたカイルが苦笑いして言う。
「いやこれ、ただのカルタだよね……?」
「子どもの頃から、叔父叔母たちに容赦無くやられてきたから、今の私があるのです」
エミリは正座している膝の横に、うずたかく積み上げた粘土板カルタを手で叩いて言う。
「だから、これ、ただのカルタだよね……?」
とカイルがまた言ったとき、兵士たちがやってきた。
あまり見ない金属製の甲冑を身につけた兵士たちだ。
どうやら、王宮からやってきたらしい。
「若い女の奴隷を前へ」
みな怯え、若い娘は不安げに前に出る。
織物工場かあ。
何人くらい連れてくんだろううな。
「次」
兵士たちは娘たちをジロジロ観察したあとで、下がらせる。
「次」
織物工場、ここから遠いのかな?
移動できない感じに、ちょっと弱っているフリでもしようかな。
あ、でも役立たずめとここからも出されてしまうかもしれない。
ビジョンが定まらなかったエミリは半端に腰を曲げ、妙な姿勢で兵士たちの前へ出た。
「……腹でも痛いのか」
といぶかしげに見られ、いえ、と仕方なく、背を伸ばす。
「ほう。
結構大きいな」
大丈夫でしょうか? と若い兵士がひとり、眉をひそめ、小声で言った。
「あの方より……とか……」
「……だが、誰もその姿を見たものは……」
ところどころ聞こえるヒソヒソ話に耳を傾けていると、結論づけるように兵士の一人が頷き言った。
「だがまあ、顔だけは良い」
「そうだな。
妙な娘だか、顔だけは良い」
「よし、とりあえず、お前、来い」
は? と言ったときには、屈強な兵士に腕をつかまれていた。
「お待ちくださいっ」
「その人は連れていかないでっ」
とみなが立ち上がる。
「エミリがいないと困るんですっ」
みんな一致団結して、エミリを守ろうとした。
だが、それは逆効果になってしまったようだ。
一番偉そうな兵士が頷いて言う。
「うむ、この娘。
みなが引きとめるとは。
よくわからんが、なにかキラリと光るものがあるに違いない」
そのままエミリは洞穴から連れ出された。
「エミリーッ」
とカイルのおじさんが一番悲しがる。
「お前はみなに愛されているようだな」
と兵士が感心したように言う。
みんなが寂しげにエミリを見送り、子どもやおばさんたちは涙ぐんでいた。
ジンと来たエミリだったが、一番前にいたカイルのおじさんが叫ぶのが離れていても聞こえてきた。
「エミリーッ!
帰ってきてくれーっ。
来週から献立がわからないじゃないかーっ」
……いや、兵士の人にでも訊いてください、と思いながら、エミリはそのまま連行されていった。
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