異世界に来てもチートな能力ないんですが、なんとなく魔王様の嫁になりました

菱沼あゆ

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エミリ、イケニエになる

わたし、イケニエになるそうです

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 大広間まで行ったエミリは最初の甲冑の兵士たちとは違う、もっと物腰柔らかな兵士たちに連れられ、集まっている謎のジイさんたちの前に出る。

 エミリは湯から上がったあと、軽くて滑らかで光沢のある布で作られたギリシアの女神のような衣を着せられていた。

 腕にはルーカスたちが売っているのとは全然違う、細かな細工の入った金の腕輪。

 腰には、大きな緑の石や、きらめく蒼い小さな石などが無数に埋め込まれたベルトのような金の飾りをつけさせられていた。

 側にいたさっきの年配の女官が、
「奴隷のわりに腕が細いから、腕輪がはまってよかったわ」
と腕輪の位置をさりげなく直しながら言ってくる。

 腕輪はむしろエミリの腕に対してゆるく、少し下がってくるようだった。

 そりゃまあ、ここに来て日が浅いから。
 力仕事もまだあまりしてなくて、腕っぷしも強くなってないからな、
と思うエミリの姿を見た老人たちは何故かどよめいていた。

「おお。
 なんと美しい」

「驚くくらい、白くきめ細やかな肌だっ」

 それは、さっきのロバの乳風呂のせいでは。

 ……かなり大きな浴槽だったが。

 あれ、ロバ何頭分の乳なんだろうな。

 そういえば、肌にいいというロバの乳風呂のために、移動するときもロバを引き連れて歩いていたという高貴な女性の話も聞いたことがあるが。

「見ろ。
 あの奴隷とも思えぬ、長く艶やかな黒髪をっ」

 いや、艶やかなのはオイルのせいと。

 ここに来るまで、食っちゃ寝、食っちゃ寝。

 怠惰な生活をしていたせいで、睡眠も栄養も足りてるからですよ。

 炎天下で走り回るような部活じゃなったから。

 紫外線で髪がパサパサになることもなかったですし。

 髭の長い偉そうなおじいさんが頷き言った。

「うむ。
 さっき、兵士たちに連れられてきたのを見たときは、ちょっと莫迦っぽいと思っておったが。
 よく見ると知的な目をしておる。

 よし、調印せよ」

 そのおじいさんの号令とともに、兵士たちはエミリを広間の真ん中にある豪華な金の台の前に連れ出した。

 台の前には、きらびやかに整った顔をした若い神官が立っていた。

「娘よ。
 ここに拇印を押せ」

「なんですか? これ」
とエミリは台の上にある紙らしきものを見る。

 この世界で紙を見るのは、初めてだった。

 高価なのだろう、その紙は、パピルスのように、丈夫な草の芯を重ね合わせて作ったもののようだった。

「いいから、とりあえず、拇印を押せ」
と若き神官は言う。

 さっさと従え、この奴隷がっ、とその目には書いてあった。

 だが、エミリは身を乗り出し、その紙に書かれている文字を見る。

 王……と娘、は読めるな。

 合わせる。

 縁組的な文字。

 まさかっ。

「私を王の娘ということにして、なにかに使おうとっ」

 年寄りたちがどよめいた。

「この娘っ。
 奴隷のくせに文字が読めるのかっ」

 いや、読めてはないんですけどね。

 この状況とわずかに知っている文字からの推察ですよ。

 そして、私みたいな奴隷の娘を着飾らせて、なにに使うかといえば……。

 エミリは口を開いた。

「もしや、私をこの国の姫ということにして、なにかのイケニエに――?」

「この娘っ、何処で我らの計画を知ったのだっ」

「この美貌で誰かをたらし込んで聞き出したとかっ」

「いや、意外に賢そうだぞっ。
 知り得た情報から、先を読んだのかもしれんっ」

「先を読むっ?
 まさか、この奴隷、預言者なのかっ!?」

 どよめく老人たちに、

 いや……、話が暴走してます、とエミリが思ったそのとき、

「そうじゃ。
 お前は王の娘となり、わらわの代わりに、魔王にきょうされるイケニエとなるのじゃ」
と神殿内に響く声がし、なんかゴージャスな美女が現れた。


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