異世界に来てもチートな能力ないんですが、なんとなく魔王様の嫁になりました

菱沼あゆ

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エミリ、イケニエになる

魔窟に出ましたっ

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「おかしいな。
 真っ白な虫がまだいる。

 光に近づいているはずなのに」

 しばらく進んだところで、マーレクが呟いた。

 マーレクは壁についたおのれの手を這う虫をじっと見ているようだった。

 足がたくさんある長い虫がマーレクの手の甲をもぞもぞ動いている。

 エミリは、ひとごとながら、背筋がゾワゾワしてきた。

「これは光が当たらぬ場所にいる虫のはず。
 出口が近いのに、何故……」
と呟きながら進むマーレクとエミリたちは、さっきまで出口の光だと思っていた場所にたどり着いた。

 洞穴の中で誰かがランプを焚いている。

 敷物を広げ、物を並べているその人物は、
「いらっしゃい」
とこちらを見上げた。

「ルーカスッ」
「なんだ、エミリじゃないか」

「こんなところで、なにしてるの?」
「行商してるのに決まってるだろ?」

「えっ?
 ここ、人とか通るのっ?」
とエミリは暗い魔窟の中を見回した。

「人は来ないけど、魔物が来るよ。
 俺は人里まで買い物に行けない魔物のためにここで行商してるんだ」

「殺されたりしないの?」

「魔物だって、意味もなく殺さないよ。
 俺がいなくなると、品物持ってくる奴いなくなるしね。

 魔物なんて、ただ人とちょっと見かけが違うだけのイキモノだよ。
 ちょっと、けむくじゃらだったり、ぬめっとしてるだけの」

 ……ぬめっとは嫌だな~と思ったとき、アイーシャが、ふん、と鼻を鳴らしていった。

「魔物は魔物よっ。
 やられる前にやらないとっ。

 隙を見せたら、襲いかかってくるに決まってるじゃないっ」

「……やられる前にやるって。
 こっちにやれそうな人、いましたっけ?」

 そんなエミリの呟きに、アイーシャが全員を見回してみていた。

 なんか物を売ってるだけの人。

 天気が読めるだけの人。

 奴隷なのに文字がそこそこ読めるだけの人。

「……誰も役に立たないじゃない」

「もしや、我々全員、なんの役にも立たないから、魔窟に捨てられたんですかね?」

「あんた、なに私まで入れてんのよっ」

「そうですよっ。
 私も入れないでくださいっ。

 私には偉大な能力があるんですからねっ。

 明日の天気は晴れですっ」
とマーレクは叫ぶが。

 いや、それ、私でもわかりますよ、とエミリは思っていた。

 明日はかなりの確率で晴れですよ。

 砂漠に雨、あんまり降らないんで……。

 そのとき、ふふふ、と腕組みしたアイーシャが不敵に笑った。

「ついに私の能力を解き放つときが来たようね。

 実は私、子どものころ、東の国から来た変なジイさんに護身術を習ってたのよっ。
 これからは女も自分の身は自分で守れるようにならないとってお母様に言われてねっ」

「アイーシャさんのお母様、よく、そんな怪しいジイさんに習わせましたね?」
とエミリが言い、

「えーと。
 それ、護身術なんですよね?
 自分から攻撃できるんですか?」
とマーレクが言い、

「おい、お前。
 いきなり襲いかかって、金払いのいい魔物のみなさんに迷惑かけんなよ」
とルーカスが言った。

「お黙りなさい、庶民どもっ」

 いや、私、庶民じゃないですけどね、という顔をマーレクがしたとき、今、エミリたちが来たのとは反対側から、なにかが近づく気配がした。

「来たわね、魔物っ」
とアイーシャが身構える。

「おい、そこの行商人」

 洞穴に響くいい声で、その人影が言ったとき、アイーシャはもう拳を繰り出していた。

 先制攻撃っ!
 何処も護身術じゃないっ、と全員が固まったが、その人影はアイーシャの鋭い拳を見事に受け止めていた。

 くっ、とアイーシャが弾むような足取りで一歩下がる。

 リズムよく、また拳を構えて前に出ようとしたそのとき、人影が光の中に進み出た。

 屈強な身体つき、兵士のような格好をした整った顔の男だった。

 ただ、頭には、ふかふふかのオオカミのような耳があり、おしりには尻尾がある。

「レオさん」
と顔馴染みらしいルーカスが笑って呼びかける。

 魔獣 レオは、ケモミミと尻尾がついているだけの、ただの超絶イケメンの人だった。

『あんた、魔王が飽きたら、魔獣たちにでも下賜かしされるのよ!』
とさっきまでエミリをなじっていたはずのアイーシャは、パンチを繰り出すのをやめ、祈るように手を合わせ、叫んだ。

「エミリの代わりに、私を下賜かししてくださいっ」

「いやあの、下賜するもなにも。
 我々、まず、魔王様にまだお会いしてないんですが……」

 エミリは苦笑いし、そう呟いた。


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