異世界に来てもチートな能力ないんですが、なんとなく魔王様の嫁になりました

菱沼あゆ

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エミリ、トマトで英雄になろうとする

結局、旅立ちました

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 私じゃなく、必ず戻ってくるとか抜かしていたアイーシャを行かせればいいのに。

 ブツブツそう言いながら、マーレクはひとりで旅立ち、あの洞穴の入り口に立った。

 大きく息を吸い、せーのっ、と神官にあるまじきダッシュで駆け抜ける。

 途中、ぼんやりした魔物に会った気もしたが。

 まあ、気にせず洞穴を抜け、魔王の城にふたたびたどり着くと、何故か、城の前でエミリが鍋でなにかを煮ていた。

 その側に魔王とレオと見たことのない魔女っぽいものがしゃがんで、鍋をかきまわすエミリを見ている。

 ……その手の怪しげな鍋をかき回すのは魔女の役割では?
と思ったが、魔女は葉っぱを手にエミリとなにか話しながら、ただしゃがんでいる。

 近づくと、
「あっ、だから、それ入れないでくださいってばっ」

「ですが、これは良い香りのする葉ですぞ。
 お妃様が望まれるローリエとかいう葉も良い香りがするのでしょう?」

「でもそれ、たぶん、人間が食べたら――」
「死にます」

 だよねーっ!?
とエミリは魔女となにやら揉めている。

「エミリ……
 エミリ様、なにをやっているのですか」

「マーレク、なにしに戻ってきたの?
 っていうか、エミリでいいってば」

 そういうわけにはまいりません、と言いながら、マーレクはその鍋に近づく。

 中では赤いなにかがグツグツ煮えている。

「……臓物?」

「トマトよ……。
 って言っても、わからないか。

 みんなトマト食べないものね」

 甘酸っぱくて美味しい野菜よ、とエミリに教えられる。

「そういえば、ちょっと良い香りがしますね」

 湯気に混ざる香りを嗅ぎながら、マーレクは言った。

「これで美味しい調味料ができるはずなんだけど。
 トマト以外に、なにを入れて煮詰めたらケチャップになるのか忘れちゃって」

「ケチャップ、ですか……?」

 そんな調味料は聞いたことがないな。

 やはり、意外に博識だな、この娘、とマーレクは思う。

「たぶん、他の野菜とか香辛料よね~とは思うんだけど。

 あっ、そうだ、マーレク。
 実は今、畑を作ろうと思ってて。

 魔族って、あんまり食事しないんですって。
 だから、ここ、食材がなんにもないの」

「食べるものなら、魔法で出してやると言っておるのに」
と鍋を囲んでしゃがんでいる魔王を振り返り、エミリが言う。

「でもあのー、人間の料理を食べたこともない人が、ぽん、と魔法で出したところで、おいしくないような気がするんですが」

 生意気ともとられかねない口調だが、魔王は別に怒っている風にもない。

 王女には、
『エミリは相変わらずですが。
 魔王様はエミリを気に入っているようなので、怒らせることもないでしょう』

 そう報告しよう、と決めたマーレクは、
「では」
とさっさと帰ろうとした。

 だが、
「ちょっと待って」
とエミリが止める。


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