異世界に来てもチートな能力ないんですが、なんとなく魔王様の嫁になりました

菱沼あゆ

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エミリの魔法家電

大浴場をつくりました

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 そのあと、エミリは、
「こちらが浴場です」
とロンヤードたちを案内して、城の地下に下りた。

「いろいろお気遣いいただき、申し訳ございません」
と畏まるロンナードに、エミリは言う。

「いえいえ、いいのです。
 だって、先ほどの温水器だって、前から作りたかったのですけれど。

 自分のためだけに面倒臭い調節をするのは嫌で、作らないでおいたのですが。
 みなさんが楽しんでくださるとなれば、やってみようかなという気にもなるので。

 よいきっかけをいただきました」

「エミリ様っ、なんという慈悲深いお言葉っ」
と感激されたが。

 いや、一人分のチャーハンをわざわざ作るのはめんどくさいときも、何人かいて、みんなのために作ると思えば、そうでもないのと一緒だ。

 エミリは地下にある鉄の扉を開けた。

 旅館の脱衣場のような場所がある。

 その先にももうひとつ、鉄の扉があり、エミリはそれをギッと開いた。

 いきなり外の風が吹き付けてくる。

「おおっ。
 これはまるで、本物の密林のようですなっ」

 ……いや、本物の密林だ。

 扉の向こうは広く、ジャングルのような場所に温泉が湧いていて、どどどどっとお湯が落ちてくる滝がある。

「これは素晴らしいっ」

「ほとんど自然のもので、ちょっと手を加えただけなんですよ」
とエミリは言う。

 浴場を作ろうとしていたのだが、ちょうど、ルーカスがやってきて、密林の崖の上に程よい温度の温泉があると教えてくれたので。

 そこから滝のようにお湯を落とし、下に池のような穴を掘って、温泉にしたのだ。

「城の中に大浴場を作るより、空間をつなげた方が早いって話になったのよ」
と言うエミリに、マーレクが、

「そんな真似ができるのなら、崖を崩すとか、大規模工事みたいなことを魔物にさせなくとも。
 王宮の浴場と直接、つなげたらよかったではないですか」
と言う。

「……じゃあ、風呂上がりにそのまま帰れるわね」

 目からウロコだ。

 だが、ひとつ、問題がある。

 エミリは一度扉を閉めて、また開ける、を繰り返した。

「でも、実は、何度かに一度は違うところにつながるんだけど」

 数度はジャングルの浴場だったが、もう一度は知らない市場が見えた。

「これ、もしかして、向こうから戻るときもこうなのでは……?」

「そうかもしれないわね」

「全裸で市場とか、全裸で王宮とかに出たらどうするんです」

「風呂に入るときと、出るとき、常に人数確認しないと消える人が出てくるかもね」

 そう言いながら、エミリはもう一度、扉を開けた。

 何処かの王宮らしき場所で王子っぽい人が王に謁見していた。

 みんながこちらを振り向く。

「閉めて閉めてっ。
 早く閉めてくださいっ」
とマーレクが叫びながら、エミリを押し退けるようにして、扉を閉めた。


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