異世界に来てもチートな能力ないんですが、なんとなく魔王様の嫁になりました

菱沼あゆ

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魔王城に危機が訪れようとしています

自動販売機ができました

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 魔王たちが木でオモチャのような貨幣を作りはじめるのをエミリは眺めていた。

「魔王様の顔など彫ってみてはどうです?」
 などと言いながら、みんな楽しそうだ。

 全部違うサイズでデザインも違う……。

 他国との交易には使えそうにないな、と苦笑いしたが、まあ、みんな楽しそうだから、いいか、と思った。

 大きく重く、しかも横型の宝箱は使えなかったので、たまたまやってきたルーカスに大きめの木箱を都合してもらう。

「ふうん。
 自動販売機というものを作るのか。

 しかし、そんなものがあちこちに設置されて、いろんな物が売られはじめたら、俺たちは商売上がったりだな。

 いや、待てよ。
 いっそ、いろいろ作って、自分で設置するのも悪くないな」

 ルーカスはそんな算段のもと、自動販売機の製作に協力しはじめた。


 みんなの努力の甲斐あって、すぐに自動販売機は完成した。

 ……絶対に量産できない感じのものが。

「さあ、エミリよ。
 貨幣をひとつ、入れるのだ」
と魔王の声がする。

 誰かが作った、何処かの国の数字が彫っている貨幣をひとつ取り、エミリは木箱に空いている細い穴にそれを入れてみた。

「好きなボタンを押せ」
と魔王に言われ、木箱についている、みんなり服からとったバラバラの柄のボタンのひとつを押す。

 すると、動物の胃袋に入った水が下の穴から出てきた。

 旅などのときに使う、簡易の水筒のようなものだ。

 エミリは、ちゃぽちゃぽとそれを振りながら笑う。

「あ、なんか楽しいです、魔王様」

 そうかっ、と魔王は嬉しそうな声を上げた。

「ルーカスよ。
 よく協力してくれた。

 お前も買ってみよ」
と魔王が言う。

「ありがとうございます。
 では」
とルーカスは手にしていた貨幣を木箱の穴に突っ込んだ。

 おそらく、ルーカスが自分で彫ったものなのだろう。

 一番ホンモノっぽかった。

 ルーカスはエミリとは違うボタンを押したが、やはり、胃袋に入った水が出てきた。

「うん。
 これはいいですね。

 ……これがたくさん作れれば、の話ですが」

 しげしげとルーカスは木箱の自動販売機を眺める。

「そうね。
 このままじゃ、量産はできないわよね」
とエミリが呟き、

「魔王様自らやってるからな。
 手動で」
とルーカスが言った。

 実は早く自動販売機を作ってエミリを喜ばせたかった魔王自らが木箱の中に入り。

 貨幣が入ったのを確認し、手で水入りの胃袋をとっては、下の取り出し口に置いているのだ。

 もはや、魔力ですらない。

「魔王様自らやられているから。
 魔法家電じゃなくて、魔王家電かな。

 ……いや、家電じゃないけど」

 はは……と笑うエミリだったが、自分を楽しませようとしてくれる魔王に深く感謝もしていた。

 っていうか、魔王様自身がすごく楽しそうなんだが。

「よしっ。
 今度は、レオが貨幣を入れてみよっ」

「はっ、ありがたき幸せっ」

 ……うん。
 みんな楽しそうで。

 まあ、とりあえず、よかった、とエミリは笑った。



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