65 / 65
魔王城に危機が訪れようとしています
大団円 イケニエ花嫁の結婚
しおりを挟む「ときに魔王様、式はあげられたのですかな?」
そんなことを重臣のひとりに魔王は訊かれた。
「ああ、魔族は結婚式などされないのですかね?
人間は契約に縛られる生き物。
つい、そう言ったことを派手にやりがちですけどね」
と言って、重臣たちは笑っている。
そういえば、エミリも結婚式の話をしていたな。
あのときは、そのまま流れてしまったが、と魔王は列席している客たちと楽しそうに話しているエミリを見る。
食後はみな、思い思いの場所でゆっくりしていた。
エミリは魔王と二人、宮殿のテラスから闇に包まれた砂漠と、空一面の星々を眺める。
「エミリよ。
結婚式をしてみるか」
「え?」
「どうやってやるのかよくわからぬが。
……人間は契約に縛られる生き物だと、大臣たちが言っていた。
私は――
お前に永遠に私の側にいて欲しい。
そんな風に私がお前を縛りつけようとするのは迷惑か?」
なんでしょう。
今はそう言われることが嫌ではないです、とエミリは照れて俯く。
「結婚式とは、番になったと、おのれが信じるものに誓うこと。
そんな風にお前は言っておったな」
魔王はそっとエミリの頬に触れてきた。
「私は神には誓えぬが。
お前になら誓えるぞ。
エミリよ。
永遠に共に生きよう。
楽しいときも、愉快なときも」
「楽しいときも、愉快なときもですか?
それだとずっと楽しいですね」
とエミリは笑う。
「うむ。
お前といると、ずっと楽しいからな。
お前を見ているだけで、浮き立つような心地がしてくる。
お前がいれば、きっと、どんなことでも笑って乗り越えられる――」
「……魔王様」
そっと魔王が口づけてきた。
魔族にキスされるとかはじめて……。
いや、誰ともないから、どのみち、はじめてか。
照れるな。
っていうか、これ、どうしたら、いいのかな?
などと、エミリがもじもじしているうちに、魔王は離れていた。
魔王も少し恥ずかしげに視線をそらし、下を見た。
そういえば、砂漠から謎の掛け声が聞こえてきている。
一緒に覗き込むと、星明かりの下、兵士たちとアイーシャが師匠とともに訓練をしていた。
「うん?
あの師匠とやらは、昔、城に攻めてきた勇者のひとりでは」
若き日の面影が残っておる、と魔王は言う。
「つい、この間のことのような気がするのに。
人間とは、簡単に歳をとるものなのだな」
その言葉に、エミリはふと、不安になる。
「私と結婚して大丈夫ですか?
人間は早くに死んでしまいます。
魔王様、一人になられたとき、寂しくないですか?」
魔王は微笑み、
「では、私も人間になろう」
と言い出した。
「なれるのですか?」
「お前のためにその術を探そう。
お前のいない人生はこの先考えられないからな」
「あっ、そうだ。
それよりも、私が魔族になったら良いのではないですか?」
「そうか。
それがよいな」
長くお前と共にいられる、と言われる。
「でも、どうやってなるんですかね? 魔族って」
「そうだな。
私にもわからぬが。
まあ、まだまだ時間はあるだろう。
その間に考えよう」
魔王の城でも、そうじゃなくとも、二人の時は、ゆったりと流れていた。
「はあっ」
というアイーシャの掛け声が響く中、二人はもう一度、そっと唇を重ねる――。
翌朝、みなに報告すると、
「そうか。
式をやるのか、それはめでたい。
私の代わりにイケニエになってくれたお前は私の実の妹も同然。
派手に祝ってやってやろうぞ!」
とセレスティアが宣言する。
マーレクは、
「え?
姫が仕切るんですか?
嫁に行こうとするたび、相手の国が滅びたりして結婚できない姫ががっ」
不吉じゃないですかっ、と言って、どつかれていたが……。
急なことだったのに、みなが神の子の祝い事だからと総出で準備をしてくれた。
エミリの奴隷仲間たちも見られるよう、砂漠に造られた開けっぴろげな神殿で式は行われることになった。
エミリはまたあの、赤い薔薇を浮かせたロバの乳の風呂に浸けられながら思う。
女子高生だったのに、この世界にいつの間にかいて。
この世界で結婚しようとしている。
これはいつか、覚める夢なのではとも思うけど。
これが夢ならば。
どうか、永遠に終わることなき、長い長い夢でありますように――。
青い宝石のついた革のサンダルを履かされ、砂漠に踏み出したエミリだったが、サンダルが少し小さく、じゅっ、と熱い砂にカカトが触れる。
「あつっ」
とよろけたエミリは、
これ、絶対夢じゃないっ、と思う。
着飾ったアイーシャに先導され、エミリは神殿に足を踏み入れる。
日干しレンガの神殿の中は太陽が遮られているせいで、ひんやりとしていた。
先に到着していた魔王が自分を出迎えてくれる。
エミリは花嫁らしい装束を身に纏っていたが。
魔王は特に変わりもなく、いつも通りの『魔王様』だった。
常に正装だからだ。
魔王がエミリに手を差し出す。
そっと大きなその手を取ると、神殿を取り囲む群衆から歓声が上がった。
その中にはカイルたち奴隷も、ルーカスたち商人も。
呼ばれてやってきたレオたち魔族もいる。
もちろん、ゾウが前世な虫歯菌も――。
大きな金の机で調印式が行われた。
魔王がよくわからない文字を書き、拇印を押す。
エミリは壁に書いたのと同じ文字で、エミリと書いた。
拇印を押す。
それを掲げ、マーレクが宣言した。
「ここに魔王と神の子の婚姻が成立した」
わあっ、と歓声が上がる中、エミリは言う。
「いや~、だから、神の子じゃありませんってっ」
だが、マーレクが、にやりと笑って言った。
「だって、自分でそう書いておられるではないですか」
エミリはあの日、壁に書いたのと同じ文字で、「エ ミ リ」と表記していた。
もちろん、それは『神の子』と読める。
「だから違うんですってばーっ」
とエミリは叫んだが。
みなもう振る舞い酒に手をつけ、花嫁も花婿もそっちのけで騒ぎはじめる。
誰も見ていないのをいいことに、魔王は微笑み、エミリにそっと口づけた。
我ラハ 此処ニ 誓ウ。
永遠ニ 共ニアルコトヲ――
魔王
神の子
完
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
スローライフ 転生したら竜騎士に?
梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる