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車ごと異世界転移していました
あんた、なにができるんだい?
しおりを挟むアクセルとブレーキを踏み間違えて、波止場で海に落ちたはずが、異世界にいた。
異世界転生にしては、そのまんまの格好と年齢だったので。
車が空中に飛び出したとき、なにかの弾みで異世界転移してしまったのだろう。
そもそも、あそこに乗っていた車があるし。
クリスティア……と名乗っている栗栖しのは窓から木々の間にある桃色のモコッとした自分の車を見る。
この森の中に降ってきたとき、とりあえず、何処かに住居を、と思い、森の中をウロウロしていたら。
見たこともないような巨大な木の根元に大きめのなうろが空いているのを発見。
村のはずれに捨ててあった机や椅子を運んで、家っぽくしてみた。
その後、畑にいた村の人に話しかけてみると、なんと言葉が通じた。
夢の中で他の国の言葉がしゃべれるのと同じ感じだ。
自分の口から勝手に聞いたこともない言葉が出てくる。
そんなこんなで、なんとなく話しているうちに、村人たちが集まってきて、
「それは大変ねえ」
と生活に必要なものをくれた。
ここの人たちは、とても親切だ。
この辺りの土地は、気候が温暖で、作物が不作な年など滅多にないらしい。
すごく豊かではないが、貧しくもない。
そんなちょうどいい土地柄だからかもしれない。
みんな、いつも笑っていて、穏やかだ。
気候が温暖といえば、うろの開口部が大きすぎて、ちょうどいい扉がなかったのが、唯一の困りごとなのだが。
暑くもなく、寒くもない、常に程よい気温なので、あまりに気にならなかった。
細かいことを気にしない性格のせいもあるだろうが。
特に不便も感じず、扉がないまま暮らしていた。
そんなある日、しのは村のおばちゃんに言われた。
「クリス、そろそろ、あんたも働かないと。
あんた、なにができるんだい?」
「え……」
なにが……
なにができるのだろうな、私、としのは戸惑う。
現代では、改めて、そんな風に問われることはなかったからだ。
「あんた、今までなにしてたんだい?」
とおばちゃんに訊かれ、
「か、会社で普通に事務仕事をやってました」
としのは答える。
「会社ってなんだい?」
あ、やっぱ、そう来ますよね~、と苦笑いしたしのに、おばさんは訊き方を変え、訊いてくる。
「なにか手に職はないのかい?」
「あ、ありませんね」
「料理とか洗濯とかどうだい」
料理……。
そうだ。
波止場に行く前、図書館で借りたハーブ料理の本があったはずっ。
しのは急いで、放置していた車の中を漁ってみた。
「あった」
作るあてはなかったが、綺麗だったので、ただ眺めようと借りたお料理本を掲げ、しのは宣言する。
「よしっ。
これでお店を開いて稼ぎ、日々の糧を得ることにしますっ」
いつもおばちゃんたちが野菜や肉やパンなんかを差し入れてくれるので、なんとかなっていたが。
確かに、いつまでもご厄介になってるわけにはいかない。
レストランを開くと宣言した、しのにおばちゃんたちが言う。
「そうかい。
私たちは頻繁に食べに行けるほどお金はないけど。
ここは街道から近いから、旅人があんたの店に立ち寄るよう、宣伝してあげるよ」
そう親切にも言ってくれ、村のおじさんたちがいらなくなった机や椅子や皿を運んでくれ。
あっという間に、しのの店は開店してしまった――。
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