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そして、伝説の恋が生まれる――
思い知らせてやらねば
しおりを挟む事情を聞いたバレルは、
「まあ、なんでもいいですけど。
早くしないと、王子が来ますよ」
と冷ややかにセシルたちを見ながら言った。
「……追い返してもらえないだろうか」
とクラウディオは頼んでいたが、当たり前だが、断られていた。
ふう、とため息をついたバレルは、
「でもまあ、確かに。
一度でも、セシル様を突き放した王子が、またセシル様を手に入れて、ハッピーエンドはムカつきますね。
ちょっと思い知らせてやらねば」
と王子の幼なじみのはずなのに、物騒なことを言い出す。
すると、
「お願いしますっ。
クラウディオ様から、セシル様を取り上げないでくださいっ」
と先ほどの若い従者、ファーディがバレルに懇願しはじめた。
「王子様なら、どんな女性もよりどりみどりなのでしょうっ?
うちの領主様は不器用の極みみたいな人で。
セシル様を逃したら、とてもではないですが、他の女性を捕まえられるとは思えませんっ」
……あの、私の意思は、とセシルは思っていたが。
確かに、このまま、また王宮に引き戻されるのも嫌だった。
「その、伝説の木の言い伝えがほんとうならいいのですけどね。
王子が呪いの木だと思っていたものは伝説の愛の木で。
王子自身のせいで、二人の中はもう引き裂けないと思わせるとか」
「わかりました」
とクラウディオは重々しく頷く。
「あの木に、伝説の木になってもらいます」
いや、どうやってっ!?
とファーディとセシルはクラウディオを見た。
クラウディオは奔走した。
あの木を伝説の愛の木にするために。
もともと、そういう噂はあったのだ。
あの木により、結ばれたものたちを探し出して証言させればよい。
そう思っていた。
「いや~、確かに伝説の木の下で、想い人と出会いましたけどね。
わしは未だ告白できぬまま――」
そう照れ笑いする水車小屋のオッジじいさんにクラウディオは詰め寄る。
「告白して来てください」
「い、いや、わしはもう、お迎えが来ようかという歳で……」
「幾つになっても、人生を諦めてはいけません」
レッツトライ、とクラウディオは脅すような低い声で言う。
「あの、……無理強いは」
とセシルは苦笑いしながら、それを見ていたが。
「まあ、領主様がそうおっしゃるのなら……」
と言いながら、オッジはあの木のある森に行った。
すると、カゴを抱えたおばあさんが何処からともなくやってきた。
「キャスリンッ」
「オッジッ」
「は、初めて会ったときから……
わしはあんたのことが好きじゃったっ。
こんな年になるまで、勇気が出なくてっ。
じゃが、これを言わねば、お迎えが来ても死にきれんと領主様に言われて気づいたんじゃっ」
「オッジ!」
どさりとおばあさんはカゴを落とした。
豆が転がり落ちる中、二人は手を取り合い。
そして、伝説の恋が生まれた――。
「……あの方、領主様の伝説の恋のお相手ではなかったのですね」
とセシルが呟く。
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