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霊安室の遺体
朝――
しおりを挟む朝、目を覚ました衛は、窓から射し込む光の中に立つ彼女の顔つきが変わっているのを見た。
「衛さん、知っていましたか?
川から上がった咲田馨が、要先生に殺されかけたあと、何をしていたか」
なんとなく身構えてしまう。
彼女はこちらの緊張を読み取り、吹き出した。
「いえいえ。
たいしたことはしていないんですよ。
ファミレスでバイトしたりね。
つまり、ファミレスで働いていたのは、咲田馨なんですが。
これは本当は貴方もご存知だったんじゃないですか?
だって、貴方には、すべて話していたはずですよ。
貴方の雇っていた探偵が」
衛は息を呑む。
「貴方は、奏のことでその探偵を雇ったんじゃない。
随分昔から、彼を使ってますよね」
固まったままの衛の側に腰を下ろして、彼女は言った。
「病棟のロッカーで、花屋の店員の死体を見ました。
私、花屋の店員じゃありません」
と。
衛が固唾を呑んで、自分の顔を見守っていた。
私はそのまま、告白を続ける。
「花屋の店員も、秋川奏もあのとき死んでいます。
ロッカーには二つの遺体が隠してありましたから。
私は、あの場に居なかったはずの第三の人間」
自分に向かい、手を振り笑う秋川奏。
あのとき爆風を浴びる直前、彼女の口がなんと動いたのか、今ならわかる。
『さよなら――』
と。
自分が仕掛けたのではないとしても、彼女は爆弾のことを知っていたのでないか。
今は、あそこで止められなかったことだけが悔やまれる、と目を閉じた。
「私は貴方の雇っていた探偵で、流行さんの相棒、八代隆の助手です」
衛が一瞬、言葉に詰まった。
「……いつから」
「いつから助手をやっていたのか、ですか?
それとも、いつから八代とつるんでいたのか、ですか?
或いは、いつから記憶が戻っていたのか?」
そう言い、微笑む。
「記憶は徐々に戻ってきています。
まだ全部じゃないですけど。
それでですね。
色々八代に習ったことも思い出していたんです。
私を張っている人間が居るはずなのに、姿が見えないなと。
八代はこういうとき、大抵、隣の部屋に潜伏しています。
ちょっとチャラい感じの隣人が居ましたが、彼の長身は誤摩化せませんから。
あちらがそうだと当たりを付けました」
「お前は……」
「佐野あづさに成り済ました奏を殺したのは、彼女自身でも、咲田馨でもない。
貴方のご提案通り、結婚式をやりましょう。
犯人は今、迷っています。
恐らく、いろんな意味で。
だから、切っ掛けとチャンスを与えてやるんです」
そう私は言い切った。
プロパンガスに引火したのか、爆発音とともに、天高く火の粉と煙が舞い上がった。
離れた場所から私はそれを見ていた。
軽く震える。
これで自由になれたはずなのに。
より一層、自分に絡み付いてくるもの狂おしいもの。
「……誰?」
ふいにした声に、こちらがビクつく。
木々の間から、こちらを見ているもの。
ただ姿を見られただけなのに。
何故だろう。
その人物にはすべてを知られた気がした――。
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