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日向日記
日向日記
しおりを挟む「日向ーっ。
早く着替えないと、幼稚園遅刻するよー」
と私が言うと、日向は戦隊物のようなポーズをとって、
「わかった!
スローチェンジ!」
と叫びました。
……遅刻間違いなしです。
……間違いなしです、と私が書いていると、
「なに書いてんだ?」
と後ろから風呂上がりの青葉さんがひょいと覗き込んできた。
「日向のことを書いてる日記です」
と私は振り返る。
「印象的なことがあったときだけ――。
ちょっとずつですが、ずっと書いてたんです。
……もうあの青葉さんが戻ってくることなんてないと思ってたんですが。
もしかして、いつか、青葉さんが記憶を取り戻して戻ってきてくれることがあるなら。
大変だったけど、楽しかった小さな日向との毎日を知って欲しくて」
ほんとうは、こんな風に青葉さんが戻ってきてくれる未来なんてないと思ってた。
だから、青葉さんにいつか見せたいというより、単に、なにかすがるものが欲しくて書いていただけなのかもしれない。
「……今度、ゆっくり見せてくれ」
「青葉さん」
「いつか日向にも見せたらいい」
と言いながら、細いグラスに入ったよく冷えたビールをくれる。
「なんでこんなもの残したのって言いそうですけどね。
……ところで、あのー、すごく美味しそうなんですけど、ビール結構です」
「なんでだ? 美味いぞ。
風呂から出てから呑むか」
「いえ、そうでなくてその。
……一応、結構です」
と私は照れたように笑った。
青葉さんにお風呂に入れてもらった日向が走り回っている。
パジャマを着ながら、また、
「スローチェンジッ」
と叫んでいた。
青葉さんは笑い、
「そうか。
……じゃあ、もう一冊、日記を買ってやろう」
と言って、そっと私を抱き上げる。
「今度は最初からずっと一緒にいるよ。
来斗たち見ててうらやましかったんだ。
俺も生まれる前からずっと日向を見ていたかった――」
「青葉さん」
日向が後ろ向きで変身している隙をぬって、青葉さんが軽くキスしてくる。
「父上ー、少し字が書けるようになったよっ」
と日向はいきなり、走ってくると、真っ白な日向日記の表紙の上にぐしゃぐしゃとクレヨンで書きはじめる。
「……呪いのなにかみたいな字だな」
と読めないそれを見て青葉さんが笑う。
「もう少ししたら、日向も自分で日記書けるようになると思いますよ」
と私も笑うと、
「じゃあ、お前たち二人に日記買ってやろう」
そう言い、青葉さんは飛びついてきた日向も一緒に抱き上げた――。
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