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これではまるで盗聴だ……
ショックでした
しおりを挟む芽以の返事がないことを逸人が不安に思っている間、芽以は自分の頭のすぐ上に逸人の顔があり、自分の背中のすぐ真後ろに逸人の身体があることに緊張して、フリーズしていた。
近い近い近いっ。
普段吐かない弱音を吐く逸人に、なにか言ってあげなければと思うのだが、上手い言葉が出てこない。
そのまま黙っていると、
「……俺と結婚してなくて、ほっとしたか」
と逸人が訊いてくる。
此処だけは、なにか言わなければっ、と思い、芽以は慌てて口を開いた。
「いえ。
ショックでした」
ああっ、なにを言ってるんだっ、私はっ、と言っておいて、焦る。
これでは、告白しているようなものではないかっ、と思ったとき、後ろから逸人が抱きしめてきた。
「芽以……」
と呼びかけられ、失神しそうになったとき、軽い足音が屋根の上で、バタバタバタとした。
それと同時に激しくなにかが羽ばたき、月明かりの中、高い木に飛び移る猫が見えた。
どうやら、夜目がきく猫が、休んでいた鳥を襲おうとしたようだった。
逸人は芽以から手を離し、窓辺に寄ると、飛び去る鳥を見ながら、
「……鳥さんか」
と呟いた。
鳥さんっ?
だが、逸人の顔は大真面目だ。
おそらく、子どもの頃、鳥さん、と言っていたのが、口癖として、そのまま残ってしまったのだろう。
その顔立ちに似合わぬ可愛い物言いに、心臓をやられそうになる。
逸人さんっ。
めちゃくちゃ好きかもですっ、と思いながら、立ち上がり、芽以は走って逃げた。
二日経って、芽以はまた会社に行ったのだが。
ちょうど総務の課長と居た、人事の課長に、
「すみません。
この間、結婚の届け出のための書類を持ってこいと言われましたが。
それが役所に行ってみたら、私、まだ結婚してなかったんですよー」
と陽気に言って、
結婚詐欺っ? と人の良い課長たちを青くさせてしまった。
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