上 下
57 / 94
「ふっかつのじゅもん」

イチの探偵事務所

しおりを挟む
 
 乃ノ子たちが事務所に入ると、
「こんにちは」
と先に着いていたらしいゴミ出しサラリーマンがソファから立ち上がり、頭を下げてきた。

 後藤と名乗る。

「すまないな。
 仕事中じゃないのか」
と後藤にイチは言ったが。

 後藤は白い紙袋を差し出しながら言う。

「社長が、早くイチさんに持ってってやれと言うので」

 社長って……組長かな、と思っていると、あのカセットといっしょにゲーム機まで出てきた。

「これ、社長のなんですが。
 貸してくれました」
と言いながら、後藤が事務所のテレビにセットしはじめる。

 組長、ゲームするんですね、と思いながら眺めていると、ちょっとハードボイルドな音楽が流れ、荒い画像のオープニングが流れはじめた。

 イチとふたり画面を見ていたが。

「……全然違うじゃないか」
「違うじゃないですかっ」
とふたりで叫んでしまう。

 似たような街が出てくるのだが、ちょっと昔の外国の街風で、夢に出てくる街とは違っていた。

 闇雲にあらくれ者が襲いかかってくるところは、そのままだったが。

 こちらはちゃんとしたミステリーらしく、ストーリーがあった。

「……ただ敵を倒すだけのゲームかと思ってました」
 乃ノ子は画面を見つめ、茫然と呟く。

「もしかして、あの夢とこのゲーム、全然関係ないんじゃないですか?
 やってもらえなかったゲームの呪いじゃなかったんですか」
とイチに言うと、

「そのようだな。
 っていうか、よく考えたら、伯父さん、中古のゲーム屋で買ってきたんだろ?

 一度は誰かに遊んでもらってるわけだから、遊んでもらえなかった無念な怨念とかなかったもかれしないな」
とイチはあっさり、最初の意見をひるがえした。

 そこで、ゲームをやってくれていた後藤が手を止め、振り返り言う。

「結構面白いですよ、このゲーム。
 試しに店の奴が一度やったんですが。

 結構進んだらしくて」

 はい、これ、とメモを渡された。

「そこまでのパスワードです」

「ふっかつのじゅもんだ……」
とイチとふたり、謎の暗号みたいに見える平仮名の羅列を見つめて呟いた。

 そのとき、後藤のスマホに電話がかかった。

 はい、と出た後藤が青ざめる。

「どうかしたのか?」
とイチが訊くと、

「昨日から、うちの若いのがひとり行方不明らしくて。
 ちょっとヘマやったかもしれませんね。

 ……すみません。
 このゲーム機お貸ししますので」

 ちょっと行ってきます、と後藤は出ていこうとする。

「大丈夫か?」
とイチが問うと、後藤は足を止め、振り返ってスマホを操作した。

 イチのスマホに着信する音がして、イチが見る。

「消えたの、そいつなんです。
 イチさん、いろんな方面に顔が広いから。

 もし、なにか情報あったらお願いします」

 いろんな方面……。

 あやかし方面ですかね?

 あと霊とか、と思いながら、乃ノ子もイチが画面を開くのを覗いた。

「見つけてくださったら、ゲームやらない奴なんですが。
 やらせて、イチさんに大量にハートを送らせます」

 そう約束して、後藤は急ぎ出て行こうとしたが、イチと乃ノ子は同時に声を上げていた。

「待て、後藤っ」
「後藤さん、待ったーっ!」

 えっ? と後藤が振り返る。 

 

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【連載版】婚約破棄ならお早めに

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:18,310pt お気に入り:3,617

星のカケラ。

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

冷たい舌

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:68

乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:509

継母の心得

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:69,969pt お気に入り:24,182

仏眼探偵 ~樹海ホテル~

ミステリー / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:78

川向こうのアトリエ喫茶には癒しの水彩画家がいます

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:1

成り上がり令嬢暴走日記!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:315

処理中です...